2021/06/30

数学は暗記だ?!

Twitterでの一連のツイートを一つにまとめたものです。いま読み返すと、説明不足や言葉遣いの誤りを感じる部分もありますが、手を加えずにそのまま並べます。


(始め) 宮台真司「数学は暗記だ。ナンパも暗記。そのワケは」(←リンク)

数学学習の参考になると思います。 論語『子曰、学而不思則罔』 を持ち出すまでもなく、先人の知識を得るために暗記は必要です。小中高の教科書の丸暗記ができるなら、する方がいいです。

知識がないと考えることができません。特に、計算は数学の言葉に相当するものなので、早くなくてもいいから、教科書の問題程度ができないのは辛いだけです。 年齢に関係なく、確実にできる学年の計算から始めると習得するのが楽です。小1の計算からでもいいです。

考えられるようになるには、先人の真似から入ります。知識がついてくると、自然と考えるようになります。その疑問にきちんと答えられるようになるには、大学2,3年生以降だと思います。 それまでもそれなりに考えられ、答えも出せますが、知識がかなり不足しているので、知れば知るほど

知らないことに気づくようになると思います。それでも知らないことだらけということに気づくと思います。私自身、知らないことだらけです。 現在、平面の幾何シリーズ9、そして10と続けていますが、平面の幾何でさえそうなのです。シリーズ10の1, 2をご覧になってくれれば、何を言っているか

解ってもらえると思います。 数学の研究者は、学部生の多くが学ぶくらいの数学は基礎知識として必要だとおっしゃいます。 このことは数論や微分幾何を学ぶと気づくと思います。 数学雑談で書いたと記憶するのですが、代数、幾何、解析は便宜的な区別に過ぎません。 自分の歩調でたのしみましょう。

受験数学よりも、遥かにたのしい世界を覗いてみてください。 受験算数・数学をパズルだと思ってたのしむのもあると思いますが、大学以降の数学をたのしむために、受験数学が必要だと思っているのであれば、それは方向が違います。高校数学ⅡBまで理解しているのなら、大学以降の数学がたのしめます。(終わり)


補足 上で述べた大前提を忘れないでください。"丸暗記ができるなら"です。私のように丸暗記が苦手な人は、理解することを第一に考えてください。何度も繰り返しているうちに覚えられます。

最後の最後に述べた数学ⅡB以降の大学数学の学びについては、以前(←リンク)にも書いたので詳しくはそちらを読んでほしいのですが、最近は工夫されている本が数多く出版されています。大学生なら各大学で推薦している本が大概それに当たります。 そうでなく、趣味で数学を学ぶのであれば、志賀浩二氏の30講シリーズが読みやすいと思います。ただし、微積、線形、集合、位相までです。リンク先のレビューも参考にしてください。

https://


どの本を選ぶにしても、数学書は高価なので、立ち読みができる環境ならば、立ち読みして選ばれることをお薦めします。大学以降の数学は、受験数学などとは違い、解く速さなど求められません。背伸びして難しいと評判の名著を読む必要もありません。大切なのは理解できるか否かです。自分の歩調で学ぶのが一番だと思います。ただ、上にも書きましたが、計算だけは練習してください。微積分にしても線形代数にしても、教科書に載っている問題や例題などは解けるようにしましょう。計算を習得するためには、理屈を後回しにするという手もあると思います。微積分も線形代数も、理屈と共に理解するのはかなり大変だと思うからです。▢

2021/06/26

高校数学Bのベクトルと線形空間 ~現代数学ではコペルニクス的転回は日常茶飯事⁈~

『理一の数学事始め』9.15でコペルニクス的転回をしました。当初の予定では、ユークリッド原論的な幾何を展開していくはずだったのですが、私自身の学びが深くなるにつれて、構成方法を無理なく変えられることに気づいたので、公理を一部変えました。現代数学を学ぶとたびたび起こるので、何てことないようにも思います。

このようなコペルニクス的転回が、現代数学のどこで現れるかを紹介したいと思います。『数学事始め』でベクトルに触れたときに書こうと思っているのですが、まだまだずっと先になりそうなので、この機会にまとめることにしたのです。先週、線形代数の行列を紹介したので、今回は線形代数で学ぶ線形空間を例に挙げます。この線形空間はベクトル空間とも呼ばれます。どちらを使うかは好みです。

高校数学Bでベクトルを学びます。このとき、ベクトルの性質として

①足し算が定義され、足し引きができること
②実数倍が定義され、伸び縮みができること

を学びます。ここで学ぶベクトルは幾何ベクトルとも呼ばれ、図形が意識されてます。


上の2つの性質を視点を変えて見てみます。

①足し算が定義され、足し引きができること
は、ベクトルは加法に関して群を成すということです(※1)。つまり、2つのベクトルx, y から第3のベクトル x+y を定義し、

①-1 x+y=y+x           (交換律)
①-2 (x+y)+z=x+(y+z)     (結合律)
任意のベクトルxに対して、
①-3 x+0=xとなるベクトルがある(零元の存在)
①-4 x+y=0となるベクトルがある(逆元の存在)

の4つを満たすということです。実際、高校ではこのように学びます。記号「+」を使うときには可換性が仮定されているので、①-1は自然です。また、①-4のの逆ベクトルといい、-x と書くことにします。

②実数倍が定義され、伸び縮みができること
は、実数のベクトルへの作用として捉えます(※2)。実数なので和積および積の単位元1を考えることになります(※3)。

実数a とベクトルx から第3のベクトルax を定義し、

②-1 a(x+y)=ax+ay (ベクトルの和)
②-2 (a+b)x=ax+bx (実数倍の和)
②-3 (ab)x=a(bx)     (実数倍の積)
②-4 1x=x      (単位元倍)

の4つを満たす。この①、②たちから次が得られます。

命題 任意の2つのベクトルx, y に対して、x+z=を満たすベクトルz が唯一つ存在する。▮

この命題におけるベクトルzyx と書くことにし、xyの減法は yx:=y+(-x) によって定義します。さらにこのことから、次を得ます:0x=0, a0=0, (-1)x=-x

この辺りの命題以降については、高校数学はきちんと書かれていなく、数や文字の計算のように扱えることを目的に書かれているようです。議論をきちんとすることよりも、使えることに重点を置いているのだと思います。

:実数とベクトルを区別するために、ベクトルを太字にしました。高校数学ではベクトルを→で表現します。大学以降の数学では→も使われますが、使わないことが多いと思います。ここと同じように太字で表現されたりしますが、太字さえ使わないで表現されたりもします。前後関係から、実数かベクトルか判るからです(※4)。


この①、②はベクトルの性質として紹介しましたが、空間ベクトルを考えるところまではこれで十分なのですが、現代数学は抽象化することで視野が広がるという叡智を得たので、次のようにコペルニクス的転回をします。

「ベクトルなら、性質①、②を満たす」を逆転させて、「性質①、②を満たす集合Vを線形空間といい、その集合の元をベクトル」と呼ぶことにするのです(※5)。こうすることで、視野が拡がり、数学が豊かになります。アインシュタイン(A.Einstein)の相対論もこの抽象化された世界の話です。

大学1年生が苦しんでいるかもしれない線形代数は、現代数学を学ぶ上で欠かすことのできないものです。アルティン(E.Artin)のガロア理論、関数空間など至る所に顔を出します。もしも線形代数の本をお持ちなら、その中に挙げられている例を見てみてください。それらは他の分野に現れるものから作られています。著者の見識によって、挙げられたものです。▢


線形空間の代数的な見方をしている本は、代数学の本を参考にすることになると思います。
手元にある線形代数の本で代数に触れている本はあるのですが、大学1年生向きでないように思います。例えば、斎藤毅の『線形代数の世界』、齋藤正彦の『線型代数入門』などです。ただ、齋藤正彦の線型代数は少し難しいと思いますが、1年生でも読めると思います。線形代数の本は数多あるので、各大学で推薦している本を見てみて、代数学的な視点がなければ、次の本などをご覧ください。大抵の代数学の本には書かれていると思います。特に、線形空間の8つの要請に疑問を抱いた人は、代数的視点でみることをお薦めします。何ともない人は、そのままがいいと思います。理解が深まるにつれて、感動するかもしれません。

下2冊はこれまでも紹介している本です。
左)松坂和夫 著『代数系入門』
右)石田信 著『代数学入門』




※1 群に関しては、このブログで『少しだけ背伸びした世界をちょこっとだけ紹介します。代数学~群の紹介~』と題して話をしています。群を話しておいたのは、ベクトル空間の話をするときに使うためでもありました。群はガロア理論にも関係するので、ここで紹介したことくらいは、大学1年生が知っていて損はないと思います。むしろ、これを準備せずに線形空間(ベクトル空間)を理解するのは難しいと思います。

※2 でも、数学事始めでも、このブログでも「作用」に関しては言及していません。代数学で言えば、加群(加法群)への環の作用がこれに当たります。歴史的には、線形空間の概念から加群への環の作用が見出されたようです。

※3 実数や複素数のように、加減乗除のできる数の集合を(タイ)といいます。代数学だと環の話のところで触れられていると思います。和積に関して逆元の存在を考えるので、演算に引き割り必要でなく、特殊な元として0, 1 があります。

※4 実数や複素数の体(タイ)は、ベクトルに対してスカラーとも呼ばれます。

※5 この場合は集合Vに実数倍を定義したので、Vを実数上の線形空間と呼びます。学びが進むと、「~上の」というのが大切になります。尚、Vはベクトル(vecter)空間の頭文字です。

2021/06/23

数学の記述について(記述式テストの心構え)

9.9平面の幾何(二等辺三角形の性質とその証明【後】)からの抜粋 

"証明をいくつかみてもらいましたが、中学・高校で習った書き方と違うのではないでしょうか。証明に限らず、解答例もそうだったと思います。

そうであるなら、その違いは文章であることを意識しているか否かです。数式は数学における文です。だから、句読点(横書きなので、「,」「.」)も書いています。また、解説では口語体で書いていますが、解答例や証明では文語体を意識しています。"(以上抜粋終)


以前、どこかで書いたような記憶があるのでが、院生時代の同僚(現在 ある大学所属の数学者)が修士論文を書き始めた11月ごろに、ふとこう漏らしました。

「大学受験や大学2年くらいまでは、きちんとした答案が書けていると思っていたけど、いまになって思うとまったく書けていなかった」と。

彼の答案を見たことがないので、どのような表記であったのかまったく知りませんが、教科書・参考書や数学動画、自分のものも含め、その表現はどうかなあというのはときどき目にします。彼の言葉には謙遜が入っていると思いますが、きちんとした指導を受けていなかったのだろうから仕方ないと思います。

中高生はもちろん、記述指導を受けていない大学生にも難しいことは求めません。飾ることなく、説明したいことをそのまま書くことをお薦めします。文語体とか口語体とかも気にせず、書いてください。たぶん気にしているのは採点だと思いますが、どうしてそう考えたのか、何をしたいのかが論理的に書かれているなら、些細なこと(誤字、脱字、くどい)では減点しないと思います。大学の先生は受験生には甘いので、気にしなくていいと思います。そもそもきちんと書けるなんて思っていないと思います。中高大生がもっとも気を付けることは、他人が読める字で書くことです。

論理的にと書きましたが、何をするか、なぜそうするのかを宣言しながら書けば伝わります。そもそも、時間の限られている中で、それも60分ー150分できちんと書けるとは思えません。たぶん、望んでいないと思います。記述式で見たい能力は、どのように考えて解いているかです。そう考えると、多少の問題の本質に関わらない計算ミスは、大して減点しないだろうけども、答えは正しくても計算式だけで何をやっているか分からない答案だったら、大きな減点になると思います。計算を利用して証明する場合を除いて、細かい計算をいくら書いても点にはならないと思います。

例えば、整数3^50(3の50乗)の桁数を求める問題で、いきなり log10 (3^50) を計算する解答は説明不足に思います。解法パターンを覚えているだけで、理解していないように思うので、この場合の計算ミスは大きく減点されると思います。

模範的な書き方は、数学書をみるのが一番です。
一度だけ酷い表記の本を見たことがあります。ある大学が出版していたもので、その大学の学生のために書かれたものだと思うのですが、板書を本にしたようなものでした。

多分、カッコイイと思って使っているであろう記号「∴」、「∵」は板書記号と呼ばれ、講義をするときに使うものです。論文では絶対に使いません。ついでに、私が使っている記号▢や▮は、論文でも使われる記号で、終わりを意味します。これにより、どこまでが主張で、どこまでが証明なのかをくっきりさせているのです。

ときどき、専門書でも「∴」や「∵」を使っているものを見かけます。だから中高大生は、気にしなくていいと思います。たぶん『数学セミナー』だったと思うのですが、それに
    「∴や∵の後には、数式は問題ないけど、文章は入れないものだ」
というような主張が書かれていましたが、文章を入れている数学者を見かけたことが何度もあるので、気にしなくていいと思います。▢


数学するなら、

佐藤文広 著『これだけは知っておきたい 数学 ビギナーズマニュアル』(日本評論社)



は重宝すると思います。もう、今となっては切っ掛けが何であったか思い出せませんが、この本の第5章は「式も文章」です。これを読んでから、いまの形のように「,」「.」を意識するようになったのかもしれません。∴や∵を使わなくなったのは、論文指導を受けてからだと思います。▮

2021/06/19

The Matrix  ~連立1次方程式の鮮やかな解法~【線形代数の入門の入門】

数学に興味関心があるのなら、高校生や文学部の学生であったとしても、「線形代数」という言葉を耳にしたことはあると思います。高校数学でいえばベクトルの延長線上にあるし、経済学では利用しているようです。どのように利用されているかはまったく知らないのですが、多変量を扱うと思われるので、計算表ソフトExcelと共に使われていると推測します。

題名のmatrixは、線形代数を学ぶ上で欠かせない「行列」のことです。人気ラーメン店に並ぶ行列でなく、現代数学の基礎の一つの行列です。直観的には、Excelで数だけを取り出せば長方形状に並んでいますね。それです。

別な言い方をすれば、線形代数は英語 linear algebra を日本語に訳したもので、algebraは代数、linearが「線形」に当たります。linearは「一次」とも訳され、一次独立、一次変換、一次方程式の一次がそれです。つまり、これらは線形独立、線形変換、線形方程式とも訳されています。私自身は「線形」を使うことの方が多いです。


今回の目的は、『理一の数学事始め シリーズ8』で連立方程式の解法を扱ったのですが、8.11で予告したことの実現です。
大学1年生が学ぶ線形代数はいろいろな導入が考えられ、著者や指導者の個性が現れると思います。その中の一つを紹介したいのです。

2021年の高校教育課程では行列は扱われていません。少し前は「数学C」、もっと前は「代数・幾何」、さらに前は「数学ⅡB」で扱われていました。でも、受験生には嫌われていました、複素平面のようにです。


(ここから本題)
さて、連立方程式 2x+3y=1, x-2y=4 を加減法で解くと、下の画像左側のように解けます。この解法で気をつけているのは、"同値変形"です。よく見てもらうと、式と式の間に矢印「⇒」が書かれていることに気づくと思います。その矢印は赤字で上にも向いていますね。これが同値を意味しています。つまり、上から下にも、下から上にも変形できることを意味しています。


どのように変形しているか説明していませんが、解りますか。
最初は、第二式を(-2)倍して第一式に加えました。
次は、第一式を1/7倍しました。
その次は、第一式を2倍して第二式に加えました。
最後に、第一式と第二式を入れ替えました。
これで、解けていますね。

やっていることは、加減法を利用しているだけです。代入法は使っていません。換言すると、次の3つの規則だけで変形しています。

   ①一つの式をk倍する。
   ②二つの式を入れ替える。
   ③一つの式に他の式のk倍を加える。(ただし、実数(複素数)k≠0とする)

これを基本変形 (行[ギョウ]基本変形)といいます。

一方、画像の右側は、係数だけを取り出し ( )で括っただけです。縦に点線を入れたのは、等号の前後を分かりやすくしただけで、無くても構いません。これを行列(ギョウレツ)と呼び、前者を拡大係数行列、後者を係数行列などと呼びます。これが題名のmatrixです。単に、係数を取り出しただけなので、式変形は上の①~③と同じ規則に従っていて、これを行列の行基本変形といいます。線形代数の学びが深くなれば深くなるほど、解の存在、線形独立、逆行列の存在、次元、そして行列の三角化などにも関係してきて、興味は深まるばかりです。


この右側の連立1次方程式の解法を、掃き出し法とかGaussの消去法などと呼びます。最後に行の入れ替えをしましたが、2つ目の後に入れ替える人の方が多いかもしれません。理由は、最後の式の形


が目標だからです。係数行列が単位行列になると、うれしいのです。

例:次の連立3元1次方程式を掃き出し法で解いてみます。(シリーズ8の11から
       x+2y-z=-3, 2x-3y+3z=16, 3x+2y-2z=-2.


答えの判っている連立方程式を掃き出し法で解いてみてください。線形代数の教科書をもっているのなら、該当の個所があると思うので、それを見てみてください。
※大学2年生以上の内容のテキストには載っていないこともあります。

さて如何でしたか。現代数学のおもしろさを少しは感じましたか。▢


線形代数の本も微分積分と同様、数多あります。各大学での推薦図書で十分です。今回の用語で参考にしたのは、主に

三宅敏恒 著『入門 線形代数』(培風館)

です。pp.19-22を参考にしました。読みやすいので、大学1年生向きだと思います。



私が学んだ本は、以前もどこかで紹介した
佐久間元敬 共著『線形代数 教科書』および 斎藤正彦著『線型代数入門』
です。前者は絶版のようです。後者は裳華房の佐武一郎 本 同様、広く知られています。

洋書でもいいのなら、動画 MITの授業 (1. The Geometry of Linear Equations) で知った
Introduction to Linear Algebra (by Gilbert Strang)
がおもしろそうです。もっと視聴したいなら、動画の概要欄からplaylistに飛べます。翻訳本もありますがお薦めしません。読むなら洋書のままの方が断然いいです。数学用語が気になるなら、共立出版の数学英和・和英辞典を参考にすればいいと思います。
もしもあなたが学生で、大学のテストが気になるのであってたとしても、授業を通して専門用語を知るし、指導者によっては英語を付して専門用語を教えていると思います。テストで英語を使っても問題ないはずです。めちゃくちゃな綴りでなければ、真っ当に採点してくれます。大学の数学者で、英語の数学書を読めない数学者がいるとは考えられません。

2021/06/16

ボクは立派なネジになる

今回の内容は、『Mr.Robotにプログラムする』の続編に相当します。
現在、もう一つのブログ『理一の数学事始め』では平面の幾何の話をしています。中学数学ではどのように平面幾何を指導しているのかを調べていて、数学の本質とかけ離れた指導が行われていることを知りました。


みなさんは三角形の合同定理(三角形の合同条件)をどのように習ったでしょうか。

1⃣3辺がそれぞれ等しい(三辺相等)
2⃣2辺とその成す角がそれぞれ等しい(二辺挟角相等)
3⃣1辺とその両端の角がそれぞれ等しい(一辺両端角相等)

これは『理一の数学事始め』で使っている表現ですが、他に

2⃣2辺とその間の角がそれぞれ等しい、2辺とその挟む角がそれぞれ等しい、二辺夾角相等
3⃣二角夾辺相等、二角挟辺相等

などがあるようです。結論から言えば、どれを選んでも問題ないと思うのですが、教科書通りでないと減点するチューガッコもあるようです。高校入試で減点やペケになるのでしょうか。もしもそういう高校なら、そういう所で数学を学ぶのは不幸だと思います。

ところで、そういう指導をしているセンセたちを指導したセンセたちは、何を考えて教育したのでしょうか。数学嫌いを増やすためなのでしょうか、立派なネジになるためのプログラムの一環なのでしょうか。銀河鉄道999で星野鉄郎のネジになる話を思い出し、気持ち悪い限りです。


大学所属の数学者たちは、大学に入ってからきちんと数学教育しようと思われていると思うのですが、その前にできることはやってほしいものです。優秀な人材を失っている可能性があるのですから。

もしも、藤井聡太 王位・棋聖が杉本昌隆八段に出会わず、つまらぬことに口煩い師匠の弟子になっていたら、才能を開花させられたのでしょうか。


小平邦彦氏は、ご自身の著書の中で平面幾何教育を推奨されていますが、本質とかけ離れた幾何教育を御知りになったら、静かな眠りから目を覚まされるのではないでしょうか。▢





人類にとって不幸なウィルスが蔓延していますが、それによる学校の長期休みが幸いし、藤井聡太 王位・棋聖が誕生したとみることもできますね。第一次世界大戦中に、高木貞治が類体論を発見できたのに似ていると思います。人間万事塞翁が馬▮

2021/06/12

sinx°/xの極限とsinx°の微分

 度数法は人工的に作ったもので、図形に内在したものではありません。3週前の『不自然な度数法』に書いた通りです。


なぜ、度数法が高校数学Ⅱから使われなくなったのか。最大の理由は、微分にあると思われます。取り敢えず、sinx° の導関数を求めてみます。


f(x)=sinx°とおくと,

            f(x+h)-f(x)=sin(x+h)°-sinx°=sinx°cosh°+cosx°sinh°-sinx°
                                           =sinx° ・(cosh°-1)+cosx°sinh°.

             sinh°/h→ π/180,(1-cosh°) /h→0(h→0のとき)

であるから,

         (f(x+h)-f(x)) / h→ (π/180) cosx°(h→0のとき

となる.よって,

              (sinx°)′=(π/180) cosx°.▮

下を参照ください。


微分をする度に、π/180が出てくるのは煩わしいですね。sinxとは大きな違いです。▢



最近は、大学の教科書でもわかりやすい本が増えたので、高校数学Ⅲを学んでいなくても大学以降の数学が学びやすくなりました。

高校数学Ⅲは難しいと思われがちですが、数学ⅠAⅡBと比べたら、かなり易しいと思います。計算ばかりだから当然です。数列の極限、関数の極限とか級数を扱ってはいますが、形ばかりです。実数論をやる訳にはいかないので、当然ともいえます。数学Ⅲの内容は、専門書で学ぶことをお薦めします。でも、高校生は教科書で学んでください。


高校数学ⅠAⅡBがしっかり学べているのなら、一月集中すれば高校数学Ⅲの内容は習得できると思います。計算と理論とに分けて捉え、理論的なところは後回しでいいように思います。きちんとやるには道具が足りません。昔の数学科は、イプシロンーデルタ論法で多くの学生が躓き、数学科入学を後悔したものです。
高木の『解析概論』、杉浦の『解析入門』は有名な本ですが、初学者にはお薦めしません。

各大学の推薦図書には、読みやすい本が紹介されていると思います。まずは、計算習得を主にし、だいたいの理論構成を知り、その後にきちんとした理論を学ぶのがいいと思います。もしも大学で難しい本しか推薦図書に挙げていないのなら、次の2冊は読みやすいと思います。いずれも教科書でなく、読み物です。

左)小林昭七著『微分積分読本 1変数』(裳華房)
は過去にも紹介していますが、演習がないので、他に演習書が必要だと思います。

右)志賀浩二著『微分積分30講』(朝倉書店)
は30講シリーズの中の一冊で、シリーズ10の中の5冊は所蔵もし、読みました。この微分積分は読んでなく、所蔵もしていません。微積は大学推薦図書で学びました。



最後に、数学を学びたいのなら、受験参考書のような数学書はお薦めしません。▮

2021/06/09

△ACE≡△CFAを満たす平面図形ってあるの?

 現在、『理一の数学事始め』では、平面の幾何を連載しています。次の文は、合同記号の使い方を示すために書いたのですが...

"この約束に従うと、△ACE≡△CFAと書いてあったら、2つの三角形△ACEと△CFAは合同であり、3頂点A, C, EにはそれぞれC, F, Aが対応し、さらに3角に対し∠A=∠C, ∠C=∠F, ∠E=∠Aであり、3辺に対しAC=CF, CE=FA, EA=AC が成り立つことです。
このように書きましたが、この角の表現は混乱を招くので、∠A=∠C, ∠C=∠F, ∠E=∠Aでなく、それぞれ∠EAC=∠ACF, ∠ACE=∠CFA, ∠CEA=∠FACという表現の方がいいですね。" (9.10 平面の幾何(合同と合同記号の注意点)からの抜粋)

見直しをしていてふと思ったのです。自分で書いておきながら、△ACE≡△CFAを満たすような平面図形ってどんなのだろうと。

ここで問題です。
条件「△ACE≡△CFA」を満たす平面図形があればそれを図示し、なければその理由を述べてください。


この合同式△ACE≡△CFAを作るときに考えていたのは、同じ文字を2つ含めば、合同記号を正しく理解できるのではないかということです。実際、角の表現を頂点だけにすると、ややこしい問題が起こりそうですよね。3頂点を利用して表現する角の意義が確認できます。


さて、問題に当てはまる平面図形は描けましたか。こういうのを簡単に解ける人もいるのでしょうね。空間図形だったら、超かんたんなんですけど。


次の2つの図が考えられます。
イ)2点E,Fが直線ACに関して同じ側   ロ)2点E,Fが直線ACに関して反対側


他にあったら、教えてください。▢



『理一の数学事始め』の「平面の幾何」で、主な参考書を紹介します。

黒須康之介著『平面立体 幾何学』(培風館)絶版
寺阪英孝著『幾何とその構造』(日本評論社)絶版

左)瀧澤精二著『幾何学入門』(朝倉書店)復刊
タイトルは入門ですが、ヒルベルトの幾何を意識した内容でもあり、大学1年生で学ぶ教養は必要かと思います。

中)溝上武實著『ユークリッド幾何学を考える』(ベレ出版)
教育学部で行われた授業を元に書かれているようです。中学高校の幾何には、大いに役立つと思います。

右)小平邦彦著『幾何への誘い』(岩波現代文庫)
この本が刺激になり、瀧澤氏と寺阪氏の本を読むことになりました。溝上氏の本も穴を埋めるのには、欠かせないものです。この小平氏の本なら、中学生でも読めると思います。特に、中学数学の授業では物足りない人にとっては、おもしろいと思います。数学には拡がりがあり、境界がないということも感じると思います。

2021/06/05

sinθ/θの極限と円の面積 ~数学の鶏・卵問題~

まず


について話します。
θ →0とした式は大学受験必須の知識で、これを利用して極限値を求めさせますね。

        例.lim_(n∞) nsin(π/n) の極限値を求めよ(※1)。


さて、
記号「θ ↓0」は、上から0に近づけることを意味し、「θ→+0」と同じ意味です。つまり、正の方から0に近づけるということです。

次に、分子sinθのθは弧度であることは判ると思いますが、分母のθは何か判りますか。もちろん、弧度ではありません。半径1の円における中心角θに対する円弧の長さです。したがって、θ ↓0であることからθは鋭角としてよく、sinθ/θは下の図でいう円弧に対する高さの比を表しています。さらに、lim_θ↓0 であることから、0の十分近くでの様子を意味し、極限値が1ということから sinθ≒θ(ほぼ等しい)、つまり、高さ≒円弧を主張しています。


では、これによって何がうれしいかを説明しますが、その前に円の面積をどのように求めたかを思い出しましょう。(※2)

図のように、円の中心角を等分し、ミカン (円) を半分にして房を広げて上下で結合させるという発想でしたね。この房の数が多ければ多いほど上下で結合させたものは長方形状になると考えられるから、円の面積はその長方形の面積と等しい、というものでした。


※ 最後の部分は、半径rとしたものです。

式で表現すれば、2n等分された一つの中心角の大きさ π /nラジアンで、このnをどんどん大きくしていけば、究極的には長方形になると考えられるから、円の面積はπr^2と求められます。この保証を与えるものが最初に挙げた式です。nをどんどん大きくするということは、n→∞ のとき π /n↓0で、θ ↓0を意味します。このとき、sinθ≒θ と考えていいのだから、横の長さは (rsin( π /n) )・n≒r・π /n・n=πrで、高さはrであるから、面積はπr^2となります。


 

(ここからが本題)
ところで、高校数学Ⅲにおいて最初の式

(♪)lim_θ↓0 sinθ/θ=1

を求めるときに扇形の面積、つまりは円の面積公式を利用して説明していましたね。


ということは、

(♪)⇒ 円の面積 ⇒(♪)⇒ 円の面積 ⇒(♪)⇒ ・・・

という循環が得られました。でもこれでは卵が先か鶏が先かとなり、困ったちゃんです。


ではどう解決すればいいかというと、一つが高木貞治著『解析概論』の方法で、もう一つが小林昭七著『微分積分読本 1変数』の方法です。前者は弧長によるもので、後者は発想の転換です。

後者は、2週間前のブログ「角の大きさと不自然な度数法(角度)」で紹介した、角の大きさを面積によって定義するというものです。

詳細は小林昭七氏の著書をみてもらいたいのですが、氏の主張は、教育的には高校数学Ⅲの方法でよい。そこで、鶏・卵問題が起こらないように半径1の円の面積をπと定義し、これを利用して角の大きさを定義すれば問題ないというものです。

前者による方法はこのブログで触れる予定ですが、いつになるかは未定です。▢


左)高木貞治著『解析概論』(岩波書店)
右)小林昭七著
『微分積分読本(1変数)』(裳華房)

『解析概論』は、数学科なら知っているであろうという名著です。名著だからといって、分かりやすいということではないようです。これを手本にして、他の微分積分の本が書かれているといわれるくらいです。極限、1変数、多変数、級数、複素関数、ルベーグ積分について触れられています。微分方程式は入っていません。私の指導教官は、この本で複素関数を学んだとおっしゃってました。


※1 答え π.

※2 うれしいと言っても、小躍りする意味ではなく、有難いことを意味します。

2021/06/02

ある数学者の生家を訪ねて

高瀬正仁著『高木貞治 近代日本数学の父』 (岩波新書)



この本は、図書館で偶然みつけ、読みました。数学者 高木貞治は、氏の著書『解析概論』とか、偉大なる業績の「類体論」で知られていると思います。私にとっては整数論の大家で、2次体は『初等整数論講義(第2版)』で学びました。「イデヤル」表記の上、定義も古いので戸惑いもありましたが、いろいろなことが書かれていました。類体論を解説している『代数的整数論』を読んでもらおうと、懸命に書かれたのだと思います。


著書や業績などでしか知らなかったので、高瀬氏の著書を読んだときには、驚きと喜びがありました。隣の岐阜県で生まれ育ち、いまでは「高木貞治博士記念室」もあります。この本を読み終わったのが2018年の11月(読後ノートの記録)だったので、記念室(2018.3.29オープン)があったのです。本は2010年に出版されているので幸いしました。


新書を読んでる途中、本巣市を地図で確認したら自転車で日帰りできるくらいの距離だったので、読み終わってから直ぐに旅の下調べをしました。整数論の大家の力を分けてもらえればとの思いです。
そのときの自転車旅の順番は、胸像の置いてある学校・生家(生まれ育った建物は残っていません)・記念室です。ちょうど旬の時期だったようで、帰りに名産の柿を買い実家に送りました。


裕福な家に育ち、頭脳明晰。三高から東京帝大。地元の期待もあったのだと思います。展示品に自筆のものが何点もありましたが、字はとてもきれいでした。数学者にしてはめずらしいかと思います。時代の影響もあったのだと思います。


コロナ禍が収まったら、高木貞治記念室を訪ねてみてはいかがでしょうか。
岐阜県は観光地が多いので、登山・信長に興味あるなら金華山、映画『聲の形』に興味あるなら大垣、他に話題になった「モネの池」も近くにあります。▢



本文で紹介した高木貞治の著書
左)『解析概論』(岩波書店)
右)『初等整数論講義』(岩波書店)

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...