2023/09/23

画竜点睛 ~4次方程式の一般的解法~

ここで紹介するのは、16世紀イタリアの数学者Ferrari(フェラーリ)の発見した解法です。高校数学の知識があれば、流れを理解することはできます。完璧に解くには、3次方程式の根の公式が必要ですが、それは以前紹介した「三次方程式の根の公式」をご覧ください。


一般の4次方程式は

$$x^4+ax^3+bx^2+cx+d=0 \:\:(a, b, c, d \in \mathbb{C}) \quad ・・・①$$

と書けます。$x^4$ の項は $ax^4$ でないかと思われたかもしれませんが、係数 $a$ で割ることで①の形で書けます。

もしも与えられた4次方程式が

$$(x^2+px+q)^2=(rx+s)^2 \quad ・・・②$$

と変形できれば

$$x^2+px+q=rx+s \quad \text{or} \quad x^2+px+q=-(rx+s)$$

となり、この式はどちらも2次方程式であるから根の公式を用いて求めることができます。では①から②に変形できるかというと可能で次のように解けます。

その前に使う式を1つ紹介します。

$$(x^2+ex+f)^2=x^4+2ex^3+(\text{2次式以下}) \quad ・・・③$$

左辺を展開すると右辺のようになりますが、大切なのは右辺の3次の項までです。なので2次以降は省略しました。これを踏まえ、具体例を通して4次方程式の解き方を紹介します。


 4次方程式 $x^4-2x^3-4x^2+14x-5=0 \quad ・・・(♪)$ を解きます。

③の右辺と比べると $e$ に相当する値は $-1$ です。(♪)を②のように変形したいので左辺を  $(x^2-x+\alpha)^2$  とし、右辺は(♪)と同値になるように調整します。すると

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――

結論だけを書かず、裏の計算も見せます:

$$(x^2-x+\alpha)^2=x^4-2x^3+(1+2\alpha)x^2-2\alpha x+\alpha^2$$

(♪)の2次式以下の項を右辺に移項すると

$$x^4-2x^3=4x^2-14x+5 \quad ・・・④$$

この2式から  $x^4-2x^3$  を  $(x^2-x+\alpha)^2$  のように変形するには

$$(1+2\alpha)x^2-2\alpha x+\alpha^2$$

を④の両辺に加えればいいですね。これを実行すると、左辺は  $(x^2-x+\alpha)^2$  と変形でき、右辺は

$$4x^2-14x+5+(1+2\alpha)x^2-2\alpha x+\alpha^2$$

$$=(5+2\alpha)x^2+(-14-2\alpha) x+(5+\alpha^2)$$

と変形できます。つまり

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――

$$(x^2-x+\alpha)^2=(5+2\alpha)x^2+2(-7-\alpha) x+(5+\alpha^2) \quad ・・・⑤$$

と変形できます。右辺の2次式が平方式になるには重根を持てば良いですね。そこで判別式 $D/4=0$ を満たすような $\alpha$ を求めます。

$$(-7-\alpha)^2-(5+2\alpha)(5+\alpha^2)=0,$$

$$2\alpha^3+4\alpha^2-4\alpha-24=0,$$

$$\alpha^3+2\alpha^2-2\alpha-12=0.$$

この3次方程式を一般的に解くには根の公式を用いますが、幸い因数定理で解けるので

$$\alpha=2$$

が見つかります。1つあればいいので、これを⑤に当てはめると

$$(x^2-x+2)^2=9x^2-18x+9,$$

$$(x^2-x+2)^2=9(x-1)^2.$$

したがって

$$x^2-x+2=3(x-1) \quad \text{or} \quad x^2-x+2=-3(x-1),$$

$$x^2-4x+5=0 \quad \text{or} \quad x^2+2x-1=0,$$

$$x=2\pm i, \: -1\pm \sqrt{2}. ▮$$(ただし、$i=\sqrt{-1}$)


4次方程式までの一般的な解法が紹介できました。5次以上の方程式は代数的に(べき根を用いて)解けません。アーベル、ガロアによる仕事です。▢

他の問題で確認したいなら、次の4次方程式を解いてみてください。

$$x^4+4x^3+5x^2+2x-6=0$$



                           $x=-1\pm\sqrt{3}, \: -1\pm \sqrt{2}i$

※ 判別式を解くことによって出てくる方程式は分解方程式と呼ばれます。この4次方程式の分解方程式は

$$(2\alpha-1)^2-(2\alpha-1)(\alpha^2+6)=0$$

なので、$\alpha=1/2$ を得ます。

参考文献

     高木 貞治 著『代数学講義』(共立出版)
     岩切 晴二 著『代数学・幾何学精説』(培風館)
     志賀 浩二 著『数学が育っていく物語 第5週 方程式』(岩波書店)

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...