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2023/07/08

三角関数の加法定理を直観的に理解するための図形

 三角関数の加法定理 任意の実数 \alpha, \: \beta に対して

\sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta,

\cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta,


\sin(\alpha-\beta)=\sin\alpha\cos\beta-\cos\alpha\sin\beta,

\cos(\alpha-\beta)=\cos\alpha\cos\beta+\sin\alpha\sin\beta.


は三角関数で修得すべき項目の1つです。 

  「咲いたコスモス、コスモス咲いた」「コスモス コスモス、咲いた咲いた」

と覚えましたが

  「シンコス、コスシン」「コスコス、シンシン」

と覚える人もいるようです。中には直接覚えている人もいるかと思います。

「あれっ?タンジェントは?」と思ったかもしれませんが、これらの式から導けるし、今回の話には登場しないので省略しました。


この「加法定理を証明せよ」というのが 1999年に東京大学の入試で出題されたことは受験業界ではよく知られています。

高校数学の証明+\alpha『数学事始め』27.13三角関数(加法定理) をご覧ください。


これから次の2式

\sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta,

\cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta

がどのように導かれるかを説明します。


この説明で三角比を用いるので、三角比の性質を確認しておきます。



    性質 直角三角形において1つの鋭角を\thetaとする。斜辺の長さが1のとき

      \thetaの対辺の長さ(高さ)は \sin\theta, \thetaの隣辺の長さ(底辺)は \cos\theta である。

参考図


これを用いると、1つの鋭角が等しい直角三角形において、斜辺の長さが a のとき


            対辺 =a\sin\theta,  隣辺 =a\cos\theta  


となります。(相似を用いた)

 


(再掲) 

\sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta, \:\cdots ①

\cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta. \:\cdots ②


 説明 下図において、点Iは 点Aを通り辺BDと平行な直線 と 直線CD との交点である。 

このとき ∠CBD = ∠ACI である。AB = 1 とし、①を示す。

    

   △ABCに着目すると   AC =\sin\alpha,  BC =\cos\alpha である。

したがって

   △ACIに着目すると      IC = AC \cos\beta=\sin\alpha\cos\beta,
   △CBDに着目すると  CD = BC \sin\beta=\cos\alpha\sin\beta.

一方、△ABHに着目すると  AH =\sin(\alpha+\beta).

よって AH = ID = IC + CD より

\sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta.



次に下図において、AB = 1 とし②を示す。

    

   △ABCに着目すると  AC =\sin\alpha,  BC =\cos\alpha である。

したがって

   △CAIに着目すると     AI = AC \sin\beta=\sin\alpha\sin\beta,
   △CBDに着目すると   BD = BC \cos\beta=\cos\alpha\cos\beta.

一方、△ABHに着目すると   BH =\cos(\alpha+\beta).

よって BH = BD - HD = BD - AI より

\cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta. \: ▮
※ 重複している部分がありますが、流れを重視しました。


注1 図に依存し細かい説明を省きましたが、気になる場合は各自で補ってください。

注2 これは加法定理の一般的証明ではなく、直観的に理解するためのものです。
  証明でなく、説明と書いたのはそのためです。


ところで、一般的証明になっていないのはなぜでしょうか。





上の説明は任意の実数ではありません。実は制約があり


           \alpha>0, \: \beta>0 かつ 0<\alpha+\beta<\dfrac{\:\pi\:}{2}


です。ずいぶん条件が強いですね。

※ 「条件が強い」というのは、縛りがきついということです。このために適用できる範囲が狭くなっています。そのために \alpha=\dfrac{\:\pi\:}{3}, \: \beta=\dfrac{\:\pi\:}{4} を適用することが出来ません。最初に述べた加法定理の条件は「任意の実数」なので \alpha=\dfrac{\:\pi\:}{3}, \: \beta=\dfrac{\:\pi\:}{4} が適用できるだけでなく、\beta の代わりに -\beta を代入することもできます。これにより \alpha- \beta の加法定理も得られます。▢


余談 加法定理の証明でもっとも優れていると思うのは、正規直交基底を用いたベクトルでの証明です。でも高校数学の範囲では難しいように思います。▮

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ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...