2021/12/25

証明せずに使っていた空間図形に関する命題(高校数学A)

命題 縦横高さのある空間において、ある1つの直線Lが平面α上の交わる2直線M, Nに垂直ならば、直線Lと平面αは垂直である.▮

この命題を証明したことはありますか。


先日、『数学事始め』で正四面体の体積の話をするまで証明すべきことに気づかず使っていました。私の頃は中学数学で学びましたが、証明せずに認めていたと思います。現在は高校数学Aで学ぶ内容になっていますが、証明せず事実として認めているようです。

数学教師によってはきちんと証明しているかもしれません。証明自体は中学数学で十分だからです。10分ほど考えたら証明の見通しが立ちました。その後、少し工夫した証明も浮かびました。証明を確認する前に、独自で考えてみるのもおもしろいかもしれません。


証明の前に2つ確認しておきます。
空間内において2直線が垂直であるとは、交わらない2直線の場合は平行移動することにより2直線を交わらせたときの2直線の成す角が直角のときをいう。
直線と平面が垂直であるとは、その直線が平面上の任意の直線と垂直であるときをいう。


(再掲)命題 縦横高さのある空間において、ある1つの直線Lが平面α上の交わる2直線M, Nに垂直ならば、直線Lと平面αは垂直である.▮

考え方(少し下に参考図があります)
②から2直線M, Nの交点Oを通る平面α上の任意の直線KとLとが直交することを確認すればいいので、直線L上にOP=OQなる2点P, Qを、直線K上に点Cを任意に取ったときPQ⊥OCを示せればよい。△CPQに着目したとき、CP=CQであれば二等辺三角形の性質から示せる。
そこで点Cを通る平面α上の直線を考え、2直線M, Nとの交点をそれぞれA, Bとすると次の手順でCP=CQが示せる:△PAB≡△QAB から△PAC≡△QACがいえCP=CQとなる。
では△PAB≡△QABとなるのは、PA=QA, PB=QBが△PAO≡△QAO, △PBO≡△QBOからいえ、ABが共通による。

では証明します。考え方の逆順で次のようになります。細かい部分は各自に任せます。

証明 2直線M, Nの交点Oを通る平面α上の任意の直線K上に点Cを任意にとる.次に点Cを通る平面α上の直線を考え,2直線M, Nとの交点をそれぞれA, Bとする.

このとき2辺挟角相等により△PAO≡△QAOである.実際,OAは共通,仮定からOP=OQ,L⊥Mから∠POM=∠QOM=∠R(直角) である.△PBO≡△QBOも同様にいえる.

したがって PA=QA, PB=QB であるから,三辺挟角相等より△PAB≡△QABである.これにより∠PAC=∠QACがいえるから,△PAC≡△QAC(2辺挟角相等)となりCP=CQである.

よって 三角形CPQは二等辺三角形であるから,中線OCと底辺PQは垂直に交わる.▮


かなり省略しましたが、これでも証明は長いように思います。上の図形を漠然と眺めているだけでは難しく感じます。でも視点をあれこれ変えることはありますが、空間図形を平面で捉えるのはよくあることですし、一つ一つの三角形の合同証明はやさしいと思います。

高校数学Aで証明を省略しているのは、証明が長いからだと思います。空間図形の見方を中心に据えるなら、なくてもいいと考えたのだと思います。

実際どうでしたか。高校1年生はこの証明を難しく感じるのでしょうか。▢

この命題から「三垂線の定理」が得られます。

2021/12/18

余弦定理の 2bc cosA について ~余弦定理の図形的意味~

 余弦定理


の 2bc cosA って何なのだろうと思ったことはありませんか。それとも「定理なのだから考えるだけ無駄」なのでしょうか。


2bc cosA がなければピタゴラス定理の式なので、補正のためについていると考えられます。でも余弦定理を導くときにそれを感じられたでしょうか。頂点Cから垂線CHを下ろして△CAHに三角比を適用して、△CHBにピタゴラスの定理を適用すると導けました(※1)。

2bc cosA は計算したら出てきた、という感じですよね。
でも次のように考えると 2bc cosA の意味が感じられると思います。それには『数学事始め』の12.12ピタゴラスの定理【後】と同じ考え方をします。


では考えやすい 角Aが鋭角の場合を考えてみます。
下の図の3直線CE、AF、BI は三角形ABCの3頂点から対辺に下ろした垂線です。また三角形の周りにくっついている四角形は三角形の辺を一辺とする正方形です。
このとき、左図では△DBC≡△ABG で、右図では△DBC≡△ABGです。いずれも二辺挟角相等によります。


これにより次の青い2つの部分の面積は同じであり、赤い2つの部分の面積も同じだと判ります。なぜなら、等積変形によって△EDBと△CDBの面積、△ABGと△FBGの面積は等しいので、青い2つの部分の半分の面積が等しいからです。赤い2つの部分についても同様です。


最後に、次の図の黄色い2つの部分の面積を考えます。
                AK=c, AE=ACcosA=bcosA;AL=b, AI=ABcosA=ccosA
であるから、2つの黄色い部分の面積の和は
                                    c・bcosA+b・ccosA=2bc cosA.

したがって面積に着目すると

     正方形BGJC=正方形AKDB+正方形ACHLー(2つの黄色い部分)
から
が成り立ちます。2bc cosA が補正部分であることが分かったと思います。
これは角Aが鈍角の場合も同様に説明できます。
鈍角になると2頂点から対辺に垂線を下ろした場合、対辺の延長線上に下ろすことになるので、図が重なることを避けるために別々に書いて考える方がいいと思います。これは各自で確かめてみてください(※2)。理解を深めるのにいいと思います。▢


※1 詳しくは『数学事始め』の12.27余弦定理をご覧ください。

※2 自身でやってみると判りますが、上の部分と大きく異なってみえるのは補正部分です。角Aが鈍角なので途中 cos(180°-θ) を考えることになります。最終的には
            cos(180°-θ)=-cosθ
を用いるので余弦定理の式が得られます。
 動画では鈍角の場合も説明しているので、参考になると思います。

2021/12/11

余弦定理の式は三角形であるための必要条件!?

余弦定理を用いて長さを求めたとき、出た値がプラスのものを答えにしていると思いますがそれが正しいという保証はありますか。実際はプラスであれば答えにしていいのですが、その理由は知っていますか。余弦定理は三角形の3辺と1角の関係式で、この式を満たすからといって三角形を成すとは言ってませんよ。


『数学事始め』14.30 三角比(応用①2辺1角→他の1辺) からの抜粋

”例題 △ABCにおいて、b=√7, c=3, B=60° のとき、a を求めてください。

答え (略) a=1, 2.逆にこのとき三角形を成す。▮

:なぜ逆に触れたか分かりますか。それは余弦定理は三角形であるための必要条件であるからです。十分性は確認していません。だから逆が成り立たないこともあり得るのです。
実際はプラスであれば十分です(※1)。

※1 これまでは深く考えず、辺の長さなので余弦定理を解いてプラスであれば吟味せず答えとしてきました。しかしこの『数学事始め』を書くにあたって改めて考えてみたら、正しいとは簡単に言えないことが判りました。” (抜粋 終)


みなさんは上の例題を解いて a=1, 2 と出た後に問題に適しているかを確認してますか。


最初にこの敵・不適に疑問を持ったのは高校生のときなのですが、その切っ掛けとなったのは上のような例題ではなく

問題 △ABCにおいて、a=1, b=√7, B=120° のとき、cを求めよ。


のような問題です。
例題と同じように余弦定理を使って解いてc=-3, 2 を得るのですが、これを答えにしてはいけません。cは辺の長さなのでマイナスになることはないからです。
当時高校生だった私は c=-3, 2 と出てホッとしこれを答えにしたら、c>0だから-3は適さないと先生に言われました。c=2 が適するのはなぜかを訊いたのですが、これについてはプラスだから適するでお終いでした。みなさんは納得できますか。その当時の私は数学の先生がおっしゃっているのだからと納得しないまま受け入れてしまいました。


数学的なことを無視すれば、問題を解くには困りません。確かにプラスであれば適するからです。でもその理由はやさしくありませんでした。当時の私では解決できないものです。
ひょっとしたらかんたんなのに数学オンチが治っていない為に気づけないだけかもしれません。現在所有している教科書にはこのことについて特に何も書かれていません。


ではプラスなら適する理由を述べます。それには次のことを示せば十分です:

 正数 a, b, c および 0°<A<180° が余弦定理の式を満たせば、a, b, c は三角形を成す。▮

これが示せれば正数 a, b, c によって三角形が唯一つ存在し、このときAは余弦定理の式を満たすことから与えられたAそのものです。もちろんAはBやCと交換可能です。三角形を成すことを示すには三角不等式が成り立つことを示せばいいのです(♪1)。


♪1 三角不等式については『数学事始め』10.5「寄り道しない方が近い」で紹介していて、証明で使われている同値については、この中の問題(解答例)で述べています。


高校生のときには三角形の2辺の和は他の1辺より大きいという知識はありましたが、それを証明したことがなかったので深くは知りませんでした。だから上の証明には辿り着けません。先にも書きましたが、私が気づかないだけでもっとかんたんに説明ができるのかもしれませんが、私は知りません。▢

2021/12/04

シュプールと微分 (Spur und Differential)

スキーやスノボをたのしむ人は、ゲレンデ(整備された滑走斜面)の平均斜度、最大斜度が気になると思います。もちろん、脚前(腕前)に自信のある人はスピードをセイブして滑るから気にならないかもしれませんね。

さて平均斜度ですが、もっとも単純な平均斜度は斜面の始まりから終わりまでを直線で結んだときの傾きから求めていると思います。実際には、夏場に斜面の中央を通るようにフォールライン(ものが自然に落ちていく線)を折れ線で結んで算出しているかもしれませんね。

一方の最大斜度は上級者が実際に滑って測るか、スノーモービルに乗って測っていると思います。最大となるようなところでフォールラインに沿ってちょっと滑れば測定は可能です。


もしもフォールラインが関数 y=f(x) のグラフで表せるのなら平均斜度は平均変化率から角度を算出したもので、最大斜度は微分係数の最大値を角度に変換したものです。スキー場の大きさからみるとスキー板の長さは無視できるので、そのスキー板の瞬間瞬間の傾きが微分係数に相当し、その最大値から最大斜度が求められます。角度を算出するときには tan を考えることになります。正しくは逆tan関数です。

微分の話をするときにはこれが頭に浮かびますが、スキーやスノボをしない人には伝わりにくいので、これで微分を導入したことはありません。▢


スキーの余談
スキーでフォールライン通りに滑走することはまずありません。ただただ加速するだけで危険です。大回り・小回りのターンによってスピードを抑えながらフォールラインに向かって滑走しています。競技でない限り、自分で操作できる(安全に止まれる)スピードが最適で気持ちいいと思います。斜度がきついを感じたら、大きい弧または連続する小回りでスピードがセイブできます。マンガなどでは木に衝突し止まるシーンが描かれますが、これは別世界への入口でしかありません。

スキーシーズンが到来し脚がうずうすしているかもしれませんが、毛ガニは怪我には気をつけて素敵なシュプールを描いてください。
(DEPAPEPEさんの "Spur(シュプール)" を聴くと、ニセコアンヌプリ山頂からの新雪をたのしみたくなります)

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...