2022/03/26

これから高校数学Ⅲ(微分積分)を独学する人へ

高校数学Ⅲで学ぶ微分積分。難しいと聞いているかもしれませんが、実際は高校数学ⅠやⅡより学ぶのはやさしいと思います。それでも独学するとなると辛いものがあるので、その参考になればと思い書いておきます。


微分や積分の基本は数学Ⅱで終わっています。
微分は接線の傾き、積分は面積が基本イメージです。この辺りが怪しければ、数学Ⅱの教科書を読み直してください。微分係数のところと面積のところです。


数学Ⅲで学ぶ微分積分は「関数」「極限と級数」「微分」「微分の利用」「積分」「積分の利用」と分けられます。

「関数」というのは、分数関数・無理関数・合成関数・逆関数などですが、これは微分積分というよりもこれまで扱ってこなかった基本的な関数の残りと思ってください。以前は高校数学Ⅰで学んだ内容です。分数関数・無理関数は学びやすいと思います。合成関数・逆関数は微分でも登場するのできちんと理解したいところです。


「極限と級数」は、数列の極限・級数・関数の極限のことです。極限自体は数学Ⅱの微分で登場しました。このときの極限は関数の極限です。

すべての内容を修得するのは理想ですが、ここで抑えておきたいのは関数の極限です。次の「微分」および「微分の利用」で使うからです。数列の極限は関数の極限に繋がる内容なのですが、教科書では触れられていないようです。級数は積分の "区分求積法" で使います。一気に理解できない場合は、このときに見直せばいいと思います。


ここまで学ぶと計算量が多くなったことに気づくと思います。高校数学Ⅲは内容よりも計算量が圧倒的に多いのです。だから計算練習は必要になります。例題とその練習問題および節末問題がある程度の早さで解けるようになることを目標にしてみてください。


「微分」「積分」は基本公式を身に着けることが目標でいいと思います。先ほどと同じで、例題とその練習問題および節末問題がある程度の早さで解けるようになることが目安です。ややこしい計算は基本が身に付けば、解くのに時間は掛かると思いますができるようになります。


「微分の利用」「積分の利用」は数学Ⅱで学んだような問題が解けるようになるのが目標です。具体的に言えば

     ・増減表を書いて関数のグラフの概形が描けるようになる
     ・面積が求められる

を目標にしてみてください。これができれば極値、最大最小、方程式・不等式に関する問題、面積・体積・曲線の長さも解けるようになると思います。

最初は一通り目を通し、自分にとって修得しやすいものと修得し難いものが判別できれば2回目以降の読み直しがしやすいと思います。


最後に、独学で引っかかると思われるところを挙げておきます。
   ・級数   ・関数の連続性   ・中間値の定理   ・平均値の定理
   ・速度、加速度    ・近似式    ・区分求積法


関数の連続性、中間値の定理、平均値の定理を挙げたのは、これまでの関数はほとんどすべて連続関数を扱ってきていて、突然、不連続な関数としてガウス記号の入った関数を扱い混乱します(※1)。関数といえば連続関数だったので、中間値の定理や平均値の定理の有難みが分かり難いし、当たり前なんじゃないかと思ってしまうのです。関数の連続性を証明しろとなると困ってしまいます。数学オンチだった私は苦労しました。この辺りは指導者や数学のできる友だちがいるといいですね。

この辺りがスイスイ理解できるのなら、大学数学の解析系が楽に学べるように思います。▢


※1 ガウス記号の入った実数上で定義された関数 y=[x] は中学受験や難関校の高校受験では扱われ、グラフを図示すると階段状になるので階段関数とも呼ばれているようです。タクシーや小荷物の運賃料金として出題されます。

2022/03/19

等号「=」の意味を答えられますか? ~春から大学数学を学ぶ人へ~

※①③の答えについては末尾にある 追加 もご覧ください。(2022.3.25 追加)

数学で等号 "$=$" は基本中の基本ともいえる記号ですが、いろいろな使われ方をします。
次の問題に答えてみてください。

問題 次の①~⑥の等号の意味をそれぞれ答えてください。

問題のついでに等号を学んだ歴史もみてみましょう。
最初に学ぶ等号は ① $1+1=2$ ですね。この延長に方程式や関数があります。

次に学ぶ等号は ②$AB=DE,\: ∠A=∠B, \: \triangle{ABC}=\triangle{DEF}$ などです。

そしてその次は ③ $\pi =180^\circ$ (高校数学Ⅱ) の弧度法と度数法の関係です。

同時期に ④ $\vec{a}=\vec{b}$ と ⑤ $\vec{a}=(a_1, \: a_2)$ (高校数学B) のベクトルも学びます。

高校数学ではほとんど活躍しませんが、集合における ⑥$A=B$ です。 




このように問題にされると困りませんか。中学・高校までの数学だとあまり意識せずに等号を使っていると思います。私が⑤⑥をきちんと理解したのは大学2年だったと思います。



では答えを書きます。
①自然数の定義です。

②順に、線分の長さが等しい、角の大きさが等しい、三角形の面積が等しい です。

③弧度法の角の大きさと度数法の角の大きさが等しいという意味です。

④ベクトルが等しいということなので、向きと大きさが等しいということです。

⑤$\vec{a}$ を基本ベクトル$\vec{e_1}, \: \vec{e_2}$で表示した$\vec{a}=a_1\vec{e_1}+a_2\vec{e_2}$ と 数の組$(a_1, \: a_2)$ が一対一対応することによる同一視です。

⑥集合が等しいということなので、$A\subset B$ かつ $A\supset B$ ということです。
ここで $A\subset B$ の定義が気になるところですが、これも答えられますか。大学数学では基本中の基本になります。

集合$A$の任意の元$x$が集合$B$の元であることです。記号で書くと

            任意の $x \in A \Rightarrow x \in B$

です。"任意" というのが大切なところです。
例えば、$A=\{2,\: 4 \}, \: B=\{1,\: 2,\: 3,\: 4,\: 5 \}$ であれば $A \subset B$ 
ですが、$C=\{2,\: 4, \: 6 \}, \: D=\{1,\: 2,\: 3,\: 4,\: 5 \}$ であれば $C \not \subset D$ です。
$6 \in C$ ですが $6 \notin D$ だからです。


等号は定義や同一視の意味で上のように乱用されます。乱用されるのは演算記号 "$+, \: \cdot$" も同じなので、どのように定義されたのかに気をつけてください。早ければ大学1年の線形代数、たいていは大学2年で 集合と位相 または 代数学 を学んだときに定義の大切さに気付くと思います。いや、既に気づいているのでしょうか。大学1年の微分積分は高校数学の延長のように計算主体で進めると思うので、気づき難いと思います。最近は実数論を1年の後半か2年で学ぶからです。



最後に、以前「角の大きさと自然な弧度法」でも書きましたが、私は③のような表現はしません。どうしても表現したい場合は  $\pi \leftrightarrow 180^\circ$ のように表現します。理由は、弧度法と度数法では世界が異なるからです。だから一対一対応の意味を維持した $\leftrightarrow$ を使います。▢


追加:Twitter で指摘を受けました。①③は私の認識に問題があるようです。ここからこの記事を紹介したツイートに入り、引用ツイートおよびそれに連なるコメントを参考にしてください。より深く理解できると思います。

2022/03/12

オイラの式を鑑賞する ~現代数学~

小川洋子さんの作品『博士の愛した数式』のお陰で小説や映画を通して数学ブームが起こりました。雑誌『数学セミナー』でも関連した数学が取り上げられたりしました。


オイラーの関係式と呼ばれる

                 $e^{i\pi}+1=0$

も広く知られるようになったと思います。さてこの式ですが


自然対数の底 $e$, 虚数単位の $i$, 円周率の$\pi$, 数のはじまりである自然数の $1$, 偉大なる発見である整数の $0$。これらが足し算で結ばれ一体となっている


と読み取れます。高校数学Ⅲの無限級数までにこれらの記号はすべて登場し、一つ一つみると確かにそう捉えるのが自然だに思います。



このオイラーの関係式を一般向けに紹介している本はいろいろあるので読んでみるとおもしろいと思います。それから専門書を読むときちんと理解できると思います。

さてこの式の意味をどこまで知って満足するかですが、前回の話「整数の1と有理数の1は違うもの」くらいには目を瞑るのなら、高校数学Ⅲまたは1変数の微分から一気にオイラーの関係式を導くという手法でいいと思います。一般向け解説書はこのルートを辿っていると思います。


少し難しくなりますが、細かい証明は後回しにして1変数の微積分から複素関数を読んでしまうという方法もあります。ここまでくると複素関数論で

                 $e^z$ または $e^{i\pi}$ 

をどのように扱うかが気になります。謎の数学者さんがこの点に関する動画「オイラーの公式は定義?を上げられているのでそちらをご覧ください。


もちろん、1変数・多変数の微積分をきちんと学び、複素関数論を読めば式の意味を知ることができます。この道を辿った場合は "複素関数論" に惹かれると思います。


一方、代数的な見方をすると実数から複素数の構成が気になる所です(※1)。
もう一度

                 $e^{i\pi}+1=0$

の式を見ますが、この式は複素数 $\mathbb C$ における等式なので、先に述べた

"自然対数の底 $e$, 虚数単位の $i$, 円周率の$\pi$, 数のはじまりである自然数の $1$, 偉大なる発見である整数の $0$。これらが足し算で結ばれ一体となっている"

というのは問題があります。数学に興味を持たせるためのものとしてなら構わないと思うのですが、$+,1, =, 0$ の部分でさえ小学算数で習うものとは違うものです。便宜上同じ記号を使っているだけです。


前回の話はこういう見方を説明するための前振りでした。この感覚を代数学で知り衝撃を受けたものです。▢


※1 整数から有理数、有理数から実数の構成を理解した人なら楽に読めると思います。

2022/03/05

整数の1と有理数の1は同じ?  ~現代数学の基礎 集合4~

問題1 整数の $1 \in \mathbb Z$ と有理数の $1 \in \mathbb Q$ は同じ $1$ ですか? 



       「同じ $1$ でしょ?違うの?」
       「整数は有理数の部分集合なんだから同じ $1$」
       「有理数は整数に分数を加えたものでしょ。だから同じ」


などさまざまな反応があると思いますがもう1問考えてください。


問題2 等式 0.3+0.7=1.0 は誤りですか? 




:これから書く話は現代数学の目から見たものです。集合と代数の話なので易しくありません。分かってほしいのは、長い歴史を辿って数学が整備されているということです。




問題1をみて「あっ!違う $1$ かもしれないなあ。整数と有理数は違う世界だから」と小中高で学んできた数学しか知らない人がこのように考えられるものでしょうか。

問題2は問題1と繋がりがあるのですが、それが伝わっているでしょうか。


問題1は異なる $1$ であること、 問題2は自然な式であることを説明しようと思います。

 

考えるために有理数$\mathbb Q$ の定義を思い出しましょう。簡単に言えば、分数で表せる数でしたね。これを集合で表現すると

             $\mathbb Q:=\{ \dfrac{m}{n} \mid m \in \mathbb Z, \: n \in \mathbb Z_{>0} \}$

です(※0)。さてそうすると $1$ は分数でないので $1 \in \mathbb Q$ はかなり怪しいですね。$1$ は分数で表すとどのようになるのでしょうか。

                  $1=\dfrac{1}{\: 1 \:}$

と考えるのが自然だと思いますが、整数 $1$ と分数 $\frac{1}{\: 1 \:}$ を "=" で結んでいますが異なる世界の数ですよね、問題ないのでしょうか。さらに $\frac{2}{\: 2 \:}, \: \frac{3}{\: 3 \:}, \: \frac{4}{\: 4 \:}, \dots $ などは $1$ とは別の数なのでしょうか。

         「それくらい目を瞑ってもいいじゃん」
         「学校で $1=\frac{1}{\: 1 \:}$ と教えられたよ」
         「学校で教えられたのは、ホントは間違ってるの?」

と思ってしまいますよね。不十分ではありますが小学算数でこのことについて言及したはずです。小4算数で分数の概念を学ぶと思いますが次のように導入されていませんでしたか。

              $1=\dfrac{1}{\: 1 \:}=\dfrac{2}{\: 2 \:}=\dfrac{3}{\: 3 \:}=\cdots $

             $2=\dfrac{2}{\: 1 \:}, \: 3=\dfrac{3}{\: 1 \:}, \: 4=\dfrac{4}{\: 1 \:}, \dots $

を述べた後に約分についても書かれていたと思います。上の式と約分は約束事で、代数学では

      (♪1)   一対一対応 $a \leftrightarrow \dfrac{a}{\: 1 \:}$ を $a =\dfrac{a}{\: 1 \:}$ 

と書き
      (♪2)     $\dfrac{a}{\: b \:}=\dfrac{c}{\: d \:} \overset{def}{\Longleftrightarrow} ad=bc$

によって約束します。(♪1) は一対一対応による同一視で、(♪2) は同値関係を与えたのです(※2)。

これによって、

             $1=\dfrac{1}{1}=\dfrac{2}{2}=\dfrac{3}{3}=\dfrac{4}{4}=\cdots$
               ↕ 約束
             $3=\dfrac{3}{1}=\dfrac{6}{2}=\dfrac{9}{3}=\dfrac{12}{4}=\cdots$

が保証されているのです。この他に演算についても触れなければならないのですが、まだこの『数学雑談』で群(グン)しか紹介していないのでここまでにします(※1)。


このように整数の $1$ と有理数の $1$ は別のものなのですが、同一視によって同じものと考えましょうとしているのです。なので抽象代数学のはじめの頃は、明確に区別するために整数の $1$ を $1_{\mathbb Z}$, 有理数の $1$ を $1_{\mathbb Q}$ のように表記したりします。最初、このように書かれて何を難しくしているのかと思いましたが、実際は明確にしていたのです。

次に、代数の見地からすると問題2の式はとても自然です。それは等号の左辺は有理数の中での足し算で、右辺は有理数だからです。もしも右辺を1と書いたら整数の1にしか見えません。つまり、有理数と整数を等号で結んでしまっています。集合が異なっているので自然ではないのです。理科の視点(有効数字)でも自然な式です。


小学算数では $1.0=1$ だと教えますが、理科の視点(有効数字)でも数学の視点でも自然なものではないのです。なのでテストで $1.0$ と書いてあっても✖を付けずとし、「いまは1と書くようにしましょう」とコメントを付けておけば十分だと思います。成長するにつれ改善されるし、理科で有効数字を習ったときや抽象代数学を学んだときに理解が深まると思います。「あのときの話はこういうことだったのか」と。▢


補足
$0.1$ が有理数ということを言い忘れていました。$\dfrac{1}{10}$ と $0.1$ は等しいと約束したのです。これにより10進表記が可能になっています。10進表記というのは日常的に使っている10で1つ位を上げる方法で数を表すことです。10進数の方が馴染みがあるでしょうか。

          $0.3+0.7 \leftrightarrow \dfrac{3}{10} + \dfrac{7}{10} = \dfrac{10}{10}  \leftrightarrow 1.0$

ということです。



※0 $n \in \mathbb Z, \neq 0$ でも構いません。

※1 (♪1) は、本来、次のような写像を考えます。

             $\mathbb Z \ni a \mapsto \dfrac{a}{\: 1 \:} \in \mathbb Q$

これは包含写像(ホウガン シャゾウ)と呼ばれるものです。写像は関数と思ってよく、『数学事始め』のシリーズ15の1「名を正す」の※3でかんたんに説明しています。

※2 同値関係は同じとはどういうことかを数学的に定めたもので、集合論を学ぶと始めの方に書かれています。ここではかんたんに述べるに留めます。

集合$A$ の2元$a, \: b$ に何らかの関係 ~ が与えられいて、$a, \: b$ に関係が成り立っていることを $a \sim b$ と書くことにし、次の3条件が成り立つとき $\sim$ を同値関係といいます:

   条件1 $a \sim a$,
   条件2 $a \sim b \Rightarrow b \sim a$,
   条件3 $a \sim b$ かつ $b \sim c \Rightarrow a \sim c$. ただし、$a, b, c \in A$ である。

~ が = のときがもっとも分かり易い例になります。ふつうの = は同値関係です。

この同値関係があるとこれにより集合Aをうまく分類できるのです。少し高度な例だと、整数が高校数学Aで取り上げられたので合同式を知っている人も多くなったと思いますが、mod3で合同≡を定義すると同値関係が得られ、これによって整数を3の倍数、3で割ると余り1、3で割ると余り2 となるものの3つに分類できますね。

この説明では不足していますが、こういうことができるのです。


今回の内容は集合の同値関係と分類です。注意しなければならないことは、有理数を構成しただけで演算については触れていません。有理数どうしの足し算や掛け算などを導入するには、少なくとも群および環の準同型定理を理解する必要があります。結構険しい山を乗り越えることになりますが、これを乗り越えるとパッと視界が開けます。

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...