2021/10/30

一筆書きの数学

前回、話の流れで五芒星の一筆書きに感動したということを書きました。
そこで一筆書きの話をしておきます。一筆書きの話でよく知られているのは「ケーニヒスベルクの7つの橋問題」だと思います。問題を考えやすくするために、4つの小島に7つの橋が架けられていることにします。


「同じ橋を2度以上渡らずに歩いて7つの橋を渡れるか」

というのが7つの橋問題です。もっと一般的な話は「ケーニヒスベルク 7つの橋」と検索すれば簡単にみつけられます。

なぜこれが一筆書きに関連するのかというと、橋を渡るということは島から島へと移ることですね。だから4つの島を点で表し橋を線で表すと次のような図形(7つ橋図)になります。これが一筆で書ければ7つの橋をそのように渡れば問題が解決します。

そこで、一筆で書けるとはどういうことかを考えてみます。

一筆で書けるということは、同じ道を通らずに出発点(始点)から到着点(終点)に行けるということなので、始点と終点が一致するか別の点かのいずれかです。だから始点終点が2つより多くなることはありません。

次に、ある一つの点で「出る」「入る」を考えると出入りの数が同じか異なるかのいずれかです。同じ場合は合計が偶数です。そこでこのような点を偶点と呼びます。異なる場合は一方が多くなるので必ず合計は奇数です。この点を奇点と呼びます。

一筆書きが出来るとき始点と終点が一致するか異なる点で終わるかのいずれかで、同じ点で終わるときはすべての点が偶点でなければなりません。なぜなら、始点終点が一致しているので出たら必ず入って終わり、その他の点は入って必ず出るからです。異なる点で終わる場合は奇点が2つだけで残りは偶点でなければなりません。

これを踏まえて7つ橋図を考えると奇点が4つなので一筆書きは不可能です。だからケーニヒスベルクの7つの橋問題も渡れないが答えです。


この説明は「一筆書きが出来るなら、奇点は0個または2個である」を示しただけなので、一筆書きが出来るための必要条件を与えただけです。でも対偶を考えることで「奇点が1個または3個以上なら一筆書きが出来ない」もいえます。
注意してほしいのは、奇点が0個または2個のときに一筆書きが出来るとは主張していないことです。結論は真(正しい)なのですがその証明は次回以降です。


次の図形が一筆書きできるか否かを判断し、可能な場合は実際に描いてみてください。▢

2021/10/23

黄金比 ~相似余話②~

 黄金比はフィポナッチ数列にも現れるのですが、相似に関係する話だけに留めます。

正五角形のすべての対角線を結ぶと五芒星が現れますが、同時に黄金比もしくは黄金分割が現れます。また、長方形からその長方形の縦または横を一辺とする正方形を切り抜き、残った長方形が元の長方形と相似になるとき元の長方形は縦と横の比が黄金比になっています。

正五角形の対角線は他の対角線を黄金比に分割しています。例えばACがBEを黄金比に分割しています。その黄金比を求めてみましょう。FE=1としたときのBFを求めてみます。
BFをxとします。
△BFA∽△BAE(2角相等)より、BF:BA=BA:BE で BF=x, BA=AE=FE=1 から
 x : 1 = 1 : (x+1) を解くとx=(-1+√5)/2 (x>0) ≒0.618 となります。

長方形の場合も考察してみます。長方形ABCDから正方形ABEFを切り取った残りの長方形DFECが元の長方形と相似なので、縦ABを1としたときの横ADを求めてみます。
ADをxとします。AB:DF=BC:FE から 1 : (x-1)= x : 1 を解いて
x=(1+√5)/2 (x>0) ≒1.618 となります。


え?2つの答えが違う?
はい、これは基準による違いなので実質おなじです。実際

    (-1+√5)/2 : 1 →両方に (1+√5)/2 を掛けると→ 1 : (1+√5)/2 

となるので同じ結果ですね。黄金比というと (1+√5)/2≒1.618 の方が知られているかと思います。

最後に、もっとも解りやすい黄金比を見せます。それは縦2横1の長方形を対角線を半径とする円を描くと黄金比が現れます。

点Dを中心に半径BDの円を描いて得た長方形ABA'B'の縦と横の比 2 : (1+√5) が黄金比です。2で割れば 1 : (1+√5)/2 になっていますね。この画像のサイズも黄金比のように思います。どうですか。名刺だけでなくスマホやパソコンも黄金比かな?

この黄金比にピタゴラス学派が興味を示した最初が何かは分かりませんが、正五角形の対角線を引くと五芒星が現れると同時に正五角形も現れるところのに興味を示したと思います。私の場合は、五芒星(星形)が一筆書きできることを知ったときに感激したのを覚えています。幼心は大切だと思います。▢

補遺
正五角形の図で対角線ADはFEをも黄金分割しています。各自で確かめてみてください。
この正五角形を円を用いて書きましたが、正五角形は作図可能です。

参考文献 J.タバク『はじめからの数学1 幾何学 ー空間と形の言語ー』(青土社)
※ この本ではピタゴラス学派でなく、ピュタゴラス学派と表記しています。ピタゴラスを使っている理由は「ピタゴラスイッチ」がよく知られているからです。

2021/10/20

平面の幾何シリーズを終えて ~平面幾何を学びたい人へ~

 数学講座『理一の数学事始め』で連載していた平面の幾何シリーズが昨日の投稿(作図の超基礎)で完結しました。小学算数から高校数学で学ぶ内容はほとんど書けたと思います。当初はユークリッド原論よりは現代数学的に、でもヒルベルトの幾何学基礎論よりは軽く書こうと思っていました。特徴を持たせるために「三角形の合同定理」はきちんと紹介しようと考えていましたが、外角定理(三角形の外角は内対角より大きい)の証明を書くときに問題が発生したのです。中高数学のように図にたよる直観でいくのかどうかです。直観重視で話を展開した場合は「すべての三角形は二等辺三角形である」をどうするかという問題が生じます。ここが分岐点でした。

『数学事始め』は数学の学び直しという目的もあるのですが、数学を伝えるという目的もあるので直観でなく論理を重んじることにしました。これでユークリッド原論寄りからヒルベルトの幾何学基礎論寄りになりました。幾何学基礎論寄りになっても紹介していない公理は「連続性公理」と「平行線公理」の2つだったのですが、より明確にするために「平面分離公理」を前面に出しました。幾何学基礎論を読むと解りますが公理3と同系統です。

シリーズ 9 平面の幾何Ⅰ(小学算数から三角形の合同定理まで)
シリーズ10 平面の幾何Ⅱ(平面分離公理、連続性公理 三角形の諸性質)
シリーズ11 平行線の幾何(平行線公理 角度、平行四辺形、中点定理)
シリーズ12 平行線の幾何Ⅱ(平行と線分比、相似、ピタゴラス定理)
シリーズ13 円の幾何(中心角定理、円周角定理、円と相似)

シリーズ10平面の幾何Ⅱは他のシリーズと比べるとかなり難しいと思います。それは公理を元に話が展開されているからです。でもこれが理解できたら大学数学への橋を渡ったようなものなので、微分積分・線形代数・集合と位相・群環体も学びやすいと思います。

シリーズ11平行線の幾何は一般的に難しいと思いますがシリーズ10と比べると易しく感じると思います。平行線公理とユークリッドの第五公準の同値性を証明しているのが特徴です。シリーズ9および11の後半からは中高の数学です。

ユークリッド原論はとても優れた書です。いま読んでも幾何学のおもしろさを知ることが出来ると思います。▢

※ 赤茶色文字をクリックするとリンク先が別枠で見られます。

平面の幾何シリーズの参考文献
黒須康之介『平面立体 幾何学』(昭和30年代の中高生向け)
寺阪英孝『幾何とその構造』(昭和30年代の高校大学生向け)
小平邦彦『幾何への誘い』(もっとも読み易く、数学に興味のある人向け)
溝上武實『ユークリッド幾何学を考える』(数学教師志望の学生向けの本?)
瀧澤精二『幾何学入門』(大学以降の本格的な専門書)
D.ヒルベルト『幾何学基礎論』
小林昭七『円の数学』『ユークリッド幾何から現代幾何へ』

2021/10/16

紙のサイズ ~相似余話①~

日本で主に使われている紙のサイズはA判とB判で、どちらも構成は同じです。

紙を半分に折っても形は同じ(相似)で、サイズはA5(教科書)→A6(文庫本)のように表し判数が増えます。なのでA6とA5の面積比は1:2で、相似比は1:√2です(※1)。

次にこのような長方形の横・縦の比を求めてみます。長方形(A6)の横・縦の比を 1:x とすると判が一つ上(A5)の横・縦の比は2つ分なので x:2 (2つ下の画像を参照)となり、2つは相似だから 1:x=x:2 を解いてx=√2 です。よって長方形の横・縦の比は1:√2です(※2)。

視点を変えると、正方形の1辺を1とすると対角線は√2 なので


のように正方形の1辺と対角線の長さが紙のサイズの比ということです。▢


余談 AもBもA0, B0が元の大きさなので、教科書なら32冊、ノートでも32冊で元の大きさが判ります。「紙のサイズ」で検索すれば大きさは判りますが、実感するには実際に並べてみるのがもってこいの方法です。やったことのある私がいうのだから間違いないでしょ。尚、A6の文庫本なら64冊あれば確認できます。


※1 相似な図形の相似比 m:n ↔ 面積比 m^2:n^2 の関係を利用しました。尚、ノートは主にB5で開いた状態がB4です。B5は教科書(A4)よりひと回り大きいです。

ただ最近はノートもA4サイズがあり、数学だとこちらの方が使いやすいと思います。小学算数や中学数学だとノートを半分にして使いなさいと教わりましたが、大学以降の数学だとA4くらいないと困ることの方が多いです。

※2 縦長で考えています。縦・横や右・左は相対的なので基準を決めないと議論はできませんね。

2021/10/09

エレガントな解答と落とし穴

 


この問題をみなさんはどのように解きますか。これは4,50年前の大学入試問題で当時は高校数学Ⅰの範囲です。今なら数学Ⅱに相当するのかもしれません。出題した大学名は記憶にありません。大学を意識したときに購入した問題集に掲載されていたものでいまでは珍しいほぼ問題と答えしか書かれていないものです。この問題の答えのところには次のような略解が書かれていました。

みなさんならこれで理解できるのでしょうか。私の高校ではこのような問題は扱わなかったので自力で考えるしかありませんでした。実は答えだけは一致していたのですがその解法には問題があります(上の略解を質問している中で判明しました)。下2つがそれです。

 

略解の意味を先生に訊きましたが直ぐには解らないということなので解き方を教えてもらいました。「このように条件式が与えられていたら、その式を使って1文字を消去する」ものだと説明され


のような解法を教えてもらいました。分母の和が気になりますが基本に忠実な解答です。昼休みに略解の解説をしてもらえましたが奇抜なものでした。

どうですか。こういう解答が入試時に気づくと思いますか。青チャートなどの参考書には載っているかもしれませんが自然な解答には思えません。この発想を理解するのに1週間以上かかったと思います。しかしながらこの解答には感心しました。この問題のお陰で力づくではありますが教科書レベルの問題なら解けるようになりました。

しかしこの問題の略解はマイナスにも作用しました。どの問題にもエレガントな解答があるのではないかと思わせたのです。そのため自力で解けた問題でも先生にもっと上手い解答を訊くようになってしまいました。3か月ほど続いたのではないかと思います。


問題の捉え方は理解の深さや解いた経験の量で変わります。なので同じ問題であってもその日に依って解き方が変わります。エレガントな解答を考えるのもたのしいですが、理解が深まったり他の問題を解いている中でみつかると思います。解くということを考えると、問題文をどう捉えどう考えるかが大切だと思います。エレガントな解答も取り敢えず解いてからでないと話になりません。一度解けると別解が結構見つかるものです。

私が別解を考えるときは問題文の捉え方が複数あったときと、力任せに解いたという感じのとき、そして感覚的にかんたんに解けると思ったときです。特にいまは教える立場なので教科書で学ぶ知識を意識して解き、できるだけ自然な考えでの解答を心掛けています(※1)。

いまの私なら次のように考えて解きます。
一文字消去は思い浮かびますがめんどうそうなので、取り敢えず分数の話なのだから分母が同じもので計算してみると分子がうれしい式になります。だから


のように解きます。これは条件式が使えるかをみる基本問題です。出題者もその意図だったと思います。いまはそう思います。教科書は理解が深まれば解けるように工夫し配置されていると思います。参考書で解法を暗記すれば答えを早く導くことは出来ますが理解が深まっているかは謎です。

最後に教科書・参考書に関して疑問を投げかけて終わります。

は超基本問題で、対数の定義を理解しているか否かを問うものです(※2)。なぜ教科書でこれが定義の後の例とか問になっていないのでしょうか。さらに参考書で応用のように捉えられているのは不可思議でなりません(※3)。▢


※1 大学の先生が参考にするのは教科書が基本のはずです。過去問も参考にするとは思いますが学んでいない知識で解く問題は作りません。ただし、問題の中で定義して解かせることはあるかもしれません。

※2 答えは 4 です。『理一の数学事始め』で対数を扱ったときに説明します。

※3 ある数学教師が「=k」と置いてごちゃごちゃと計算して答えを出したことに驚きました。でもその解答はある参考書に書かれている方法です。
私は平方根を理解するのにかなーりの時間を要したので、対数を理解するのはあまり大変ではありませんでした。同じような定義だからです。

尚、その数学教師はある国大大学院修了で大学入試問題を解きまくっているほどの強者で、当時は高校の非常勤でした。定義を理解するのはそれほど難しいということです。教科書の最初に書いてあるからといって易しいということではないのです。問題が理解を深めるためにあるのは以前書いた通りです。

2021/10/02

物理現象と比例・反比例【活用編】

数学自体には比例・反比例というのはほとんど登場しません。比例に相当するのは線形でありこれはよく登場します。線形でないとき非線形といい私の知らない世界ですがよく耳にします。

前回の基本の確認でも触れた通り、理科の授業で扱うために算数・数学の授業で比例・反比例を扱っているのだと思います。それを示すために理科で学ぶ法則を抜粋してきました。


オームの法則電流I[A]は電圧E[v]に比例し、抵抗Rに反比例する。

落体運動】落下の速さvは時間tに比例する。

自由落下】静かに落とした物体の落下の距離hは時間tの2乗に比例する。

運動の第二法則
加速度の大きさα[㎨]は合力の大きさFに比例し、物体の質量m[kg]
に反比例する。

フックの法則
ばねの伸びまたは縮みがx[m]のときの弾性力の大きさF[N]はxに比例する。

ケプラーの第三法則】惑星の公転周期Tの2乗は軌道楕円の半長軸aの3乗に比例する。

万有引力の法則
2つの物体が及ぼし合う万有引力の大きさf[N]は2物体の質量m, M[kg]の積に比例し、距離r[m]の2乗に反比例する。(以上これらの法則は中高の教科書・参考書から抜粋)


比例・反比例という知識があれば、実験結果で上のようなことが予想され法則として受け入れられたときに有難いことが起きます。それらを式で表現してみます。いずれの場合も比例定数はkで統一して表すことにします。

オームの法則電流I[A]は電圧E[v]に比例し、抵抗Rに反比例する。
               ⇓
電流Iは抵抗Rに反比例するので
I・R=kで、電流Iは電圧Vに比例するのでI・R=k・E と書ける。単位をうまく調整したのが、よく知られているE=IRです。
  

落体運動】落下の速さvは時間tに比例する。⇒ v=kt (このkが重力加速度g)


自由落下】静かに落とした物体の落下の距離hは時間tの2乗に比例する。
               ⇓
             h=k・x^2
(中学の理科で自由落下を扱うために中学数学3で2次関数を比例で導入している)

運動の第二法則
加速度の大きさα[㎨]は合力の大きさFに比例し、物体の質量m[kg]
に反比例する。
               ⇓
オームの法則と同じに考えて、mα=kF という式が得る。k=1のときのFの大きさを1N(1ニュートン)と定義すれば、よく知られている 
mα を得る。

フックの法則
ばねの伸びまたは縮みがx[m]のときの弾性力の大きさF[N]はxに比例する。
               ⇓
             F=kx(このkがばね定数)

ケプラーの第三法則】惑星の公転周期Tの2乗は軌道楕円の半長軸aの3乗に比例する。
               ⇓
            T^2=ka^3


万有引力の法則2つの物体が及ぼし合う万有引力の大きさf[N]は2物体の質量m, M[kg]の積に比例し、距離r[m]の2乗に反比例する。
               ⇓
万有引力の大きさf距離rの2乗に反比例するのでf・r^2=kで、2物体の質量m, Mの積に比例するから f・r^2=kmM と書けます。このkが万有引力定数でGで表されます。▮


こうして理科の法則を数式で表現してみましたが、より高度な数学(微積分、微分方程式、ベクトル解析、微分幾何、複素解析等々)を学ぶと物理や機械が好きな人にはたまらなくおもしろいのだと思います。物理をおもしろいと思うのですが、なぜか苦手な私には知りたくても知れない世界です。▢

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...