2021/05/29

角の大きさと自然な弧度法

 角の大きさを表すのは、弧度法が自然というのは前回の話です。ただ、度数法を習ってしまってからだと、慣れてしまっているためそう感じられないかもしれませんね。

弧度法を理解するには「割合」と「相似」の知識が必要ですが、基本で十分です。では弧度法について説明します。


弧度法とは、円弧の長さによって角の大きさを表現しようというものです。すべての円が相似である(※1)ことを利用して、次のように定義します:

(♣)半径r,Rの2つの円の中心を重ね、中心から2本の半直線を引くと相似な2つの扇形が考えられます。それぞれの円弧の長さをℓ,Lとすると ℓ/r=L/R(変形に依らず一定)となり、相似であることから、中心角 ↔ (半径,円弧の長さ) の関係が1対1に決まります。


そこで
(♪)「半径rの円(円周 ※2)上に長さrの円弧をとり、このときの扇形の中心角の大きさを1ラジアンと定義する」

ラジアンはradianで、弧度と翻訳されています。でも、弧度というよりラジアンということの方が多いと思います。物理学では単位[rad]を用いることが多いようです。

数学では単位を書かないことの方が一般的だと思います(今回は書きます)。単位を書かなくても、前後の話の流れから判るように書くからです。例:角の大きさを1とする。
(もちろん、弧度を利用することを断っているという前提です)


話を展開します。(♪)は次のように言い換えられます。

(✲)「半径1の円上に長さ1の円弧をとり、このときの扇形の中心角の大きさを1ラジアンと定義する」

(♪)⇔(✲) (言い換えに過ぎない)の理由は解りますか。もう述べましたね、(♣)です。また、半径を1にしたのは割合の利用で、こうすると扱いやすくなります。

この定義(✲)から判るように、円の長さが2πより、一周の角の大きさは2π (ラジアン) です。すると、半周の角の大きさは π で、直角に相当するのが π/2 です。正三角形の一つの角の大きさは、半円を3等分した角の大きさだから、π/3 ですね(※3)。下図参照



ラジアンの定義(✲)から、次のことも明らかです。
半径1で中心角 θ の扇形を考えると円弧の長さは θ ですから、半径rで中心角 θ の扇形の円弧の長さ ℓ は rθ です。



また、半径r、中心角θの扇形の面積Sは、円弧の長さを ℓ とするとS=(1/2)rℓ. ℓ = rθ を使って S=(1/2)(r^2)θとも表せます。下図参照


高校数学Ⅱの三角関数で学ぶことは話せました。▢


左)小林昭七著『微分積分読本(1変数)』(裳華房)(「微分積分トクホン」と読みます)
は、定理の証明もきちんと書いてありますし、題名の通り、読み物としてもおもしろいです。弧度法についても触れられています。前回の、角の大きさの表し方で、扇形の面積を利用するという考えは、この本に書かれていたことです。

この本を購入した理由は、微分幾何学の研究者と言ったら「小林昭七」というくらいの人だからです。昔は、微分幾何学に取り組んでいたのですが、挫折してしまいました。

中央)小林昭七著『曲線と曲面の微分幾何』(裳華房)
で微分幾何を学びました。私は旧版を読みましたが、いまでも読まれている本です。


右)
小林昭七著『なっとくするオイラーとフェルマー』(講談社)
初等整数論の本を書いたのには驚きました。名につられてこの本も所蔵しています。整数論は他の本で学んだので、軽く目を通したくらいですが、きちんと書かれています。『博士の愛した数式』で数論に興味をもち、ちょっと覗いてみようかという人にはいい本だと思います。オイラーもフェルマーも整数論には欠かせない数学者です。

 

※1 中心を重ね、中心から任意に半直線を引き円との交点を考えると、任意の2円の中心から交点までの距離の比の値が一定となるからです。その値は半径の比の値です。

※2 小学算数では、円は図形で、円周を使うときは、円周の長さのように、円の枠を指すように教えているようです。どちらも円でよく、円周の長さは円の長さで十分です。

※3 高校数学でラジアンを教えると、度数法との換算を教えますが、混乱の元です。さらに、π=180°という表現も見かけますが、私は避けます。このときの等号「=」は等しいでなく、同一視の意味だと理解しています。だいたい、ラジアンを度数に直したり、度数をラジアンに直したりすることは、問題でしか見たことがありません。ラジアンで話をしているのに、度数を考えるのは不自然です。英語は英語で、suomea suomeksi(フィンランド語はフィンランド語で)、「微分のことは微分でせよ」と昔から言うではないですか(高木貞治)。

2021/05/26

洋書と和書

語学の学び方の一つに、自分の興味関心のあるものをその言語で読むというのがあります。もちろん、映画や音楽、YouTubeなどの動画の活用も含めます。

英語は中学レベルですが、数学の洋書は読めます。もちろん、知らない単語は調べることになりますが、それを除けば読む速さも日本語で書かれているものとあまり変わらないように思います。そもそも理解しながら読むのは、英語でも日本語でも変わらないからです。


実際に読み始めると判りますが、数学の本は読みやすいと思います。表現の仕方もあまり多くないので、一月もすれば慣れると思います。私でも三月くらいで慣れたように記憶しています。最初は辞書を引き引き読んでいましたが、それも少なくなります。


30年程前、旧漢字で書かれた遠山啓著『無限と連続』を町の古本屋で偶然みつけ手に入れました。



はしがきを読むと、縦書きで書かれ「厳密」「強調」「ある」「尊敬」「余地」「数学者」「鉄仮面」などが旧漢字で書かれています。本文では「点」や「体」も旧漢字で書かれているのですが、こういうのも慣れます。日本語なので英語よりは読みやすく、理解できているなら前後関係から判断もできます。洋書もこのような感じで読めるようになります。

もしも「洋書はなあ」と手を拱いているなら、洋書は和書の2~4倍と高価ですが、思い切って読んでみてください。翻訳された本を読むよりも読みやすかったりします。それと、日本語で書くよりも英語で書く方が書きやすいということもおこると思います。▢


左)遠山啓著『無限と連続』(岩波新書)
現在売られている本は、横書きの上、常用漢字で書かれています。これを立ち読みで確認したときは、とても異質な感じがしました。同じことが書かれているはずなのに...

右)小松勇作 編集『数学英和・和英辞典』(共立出版)
洋書を読むには欠かせません。

 

2021/05/22

角の大きさと不自然な度数法(角度)

角の大きさの測り方を学んだときに、違和感を持ちませんでしたか。

私は角の大きさを表すのに、なぜ長さを利用しないのか不思議に思っていました。2本の線分の開き具合を表すのだから、真っ先に時計の針が思い浮かび、弧長で表現できると考えたのです。もちろん、授業はそのようなことには触れずに天下り的に分度器の使い方に話が進みました。余談として、1年≒365日に関係して、1周を360等分したのが1度の大きさというくらいです。


いま思い返すと、そのセンセは数学が苦手だったのだと思います。頭ごなしにしか指導できませんでした。知識を詰め込むだけだったらそれで事足りると思いますが、子供の知的好奇心は満たされませんね。ものを考えなくなるのも当然に思います。


私が考えていたのは弧度法だったというのは、高校生になってから知りました。角の大きさの表し方は他にも考えられます。円の面積、弦の長さ、直角の利用というものです。

直角の利用についてのみ触れます。例えば、直角の2つ分を2直角といい、これは180度に相当します。同様に考えると、4直角の大きさは360度に相当します。さらに、1/2直角は45度です。直角(right angle)の頭文字Rを用いて、直角を∠Rで表し、2∠R、4∠R、1/2∠Rは、それぞれ180度、360度、45度に相当する角の大きさを表します。

弧度法については来週話しますが、この方法は図形に内在しているので、微積分(高校数学Ⅲもしくは、大学1年生の微積分(※1))を学ぶとその利点が明確に感じられると思います:

… → sinθ → cosθ → -sinθ → -cosθ → sinθ → …

は微分のサイクルで、逆向きが積分のサイクルですね。▢

動画(2021.5.23 9:17以降視聴できます)


初等幾何(※2)は、黒須康之介著『平面立体 幾何学』(培風館)を参考にしているのですが、絶版になってしまったようなので、所蔵している中から次の2冊を紹介しておきます。

左側)小平邦彦著『幾何への誘い』(岩波書店)
右側)J.タバク著『はじめからの数学1 幾何学』(青土社)

『幾何への誘い』は参考書として使っています。Euclid(ユークリッド)原論だけでなく、幾何学基礎論にも触れ、複素平面についても書かれています。『はじめから…』は読み物で、幾何学に関する数学史です。


※1 大学1年生が学ぶ微積分は、高校数学Ⅲで微積分を学ばなくても対処できます。高校数学は計算が主で、大学数学は理論と計算の両方です。計算は独自で習得することになります。でも最近は、演習本も充実しているので独学しやすいと思います。

高校数学Ⅲでは、微積分以外に複素平面や2次曲線を学びますが、専門の数学書にも書かれています。ただ、大学の授業は複素平面や2次曲線は周知のものとして、進むと思います。高校数学の内容であれば、それぞれ1週間あれば習得できると思います。

※2 幾何は図形のことを表す言葉です。`初等'幾何といっても`かんたんな'とか`やさしい'図形という意味ではありません。現代数学で扱っている幾何に対しての言葉だと思います。このように表現するときには、『Euclid(ユークリッド)原論』で扱われた図形が想定されています。わかりやすく言えば、小学・中学で扱った図形のことです。

現代数学の幾何というと、位相幾何、微分幾何などを指します。位相幾何、微分幾何だとまだ図形を扱っている感じがありますが、研究を進めると図形が消滅しているように思います。空間を対象にしているという点で、幾何なのだと思います。代数幾何、数論幾何というのもありますが、幾何でしょうか、代数でしょうか。代数っぽいかな。

代数、幾何、解析は便宜的な言葉で、はっきり・くっきりしているものではないと思います。はっきり・くっきりしているのは、最初の方だけです。

2021/05/19

数学用語ほんやくコンニャク

以前にも触れましたが、明治以来、日本の数学者たちが外国語を日本語に翻訳してくれたお陰で、日本語によって数学を学ぶことができます。母国語のまま学べるというのはふつうのことではないので、とても有難いことです。西洋で学問が発展したのも、ギリシャ語やラテン語で書かれていたものを母国語で研究するようになってからのようです。

そう考えると、外国語の授業ならいざ知らず、わざわざ英語で授業をしようとする行為は愚かにみえます。教養レベルのことは母国語で学ぶものだと思います。

さて、翻訳してくれたのはとても有難いのですが、漢語ばかりなのでこの点が気になります。漢字の特性(表意文字)を考えると自然なのでしょうか。

関数は数学が理解できなくなる一つの分岐点だと思いますが、もしもfunctionを中国語の翻訳 函数(ファンスー) (※1)をそのまま輸入せずに、「はたらき」と翻訳してくれたら良かったのにと思うのは私くらいでしょうか。▢


小松勇作 編集『数学英和・和英辞典』(共立出版)
洋書を読むときに愛用している辞典です。定義されているなら、そのまま英語で読むのですが、既に習っている用語のときにはとても助かります。



※1 中国語の函数は英語の音を踏まえての翻訳で、それをそのまま輸入し、漢字制限のために函を関にして今に至ります。昭和の本には函数が残っていたと思います。吉田洋一著『函数論』(岩波全書)が真っ先に思い浮かびます。

2021/05/15

(改題)代数学の世界【後編:群の同型】~少しだけ背伸びした世界~

 先週(前編)に引き続き、群の話をします。今回は「同型(同形)」(※1) が主役で、この概念があるから群を考える意味があります(※2)。


整数を3で割った余り(※3)を考えると、集合H={[0], [1], [2]} が得られます。記号[a]は3で割ると a 余る整数全体を表します。つまり、整数Zに対して

[a]={a+3n|n∊Z}.
( a+3nは3で割るとa余る形をしていますね。1+3nは3で割ると1余る数です)

この集合には次のような演算が定義でき、その演算に関して集合Hは群を成します。実際、

[a]+[b]:=[a+b]

のように演算を導入すると、次のような乗積表が得られ、群であることが確認できます。具体的に書くと:1+3n∊[1], 2+3m∊[2]に対して、
(1+3n)+(2+3m)=3+3n+3m=3(1+n+m)∊[0].
これを記号で表現すると、
[1]+[2]=[1+2]=[3]=[0]
となります。


演算が集合Hで収まっていて(※4);単位元は[0];[0]の逆元は[0], [1]の逆元は[2], [2]の逆元は[1];整数なので結合律を満たします。 

このとき、別の演算を入れても群になるように思いませんか。例えば、

[a]・[b]:=[a・b].

具体的に書くと:1+3n∊[1], 2+3m∊[2]に対して、
      (1+3n)・(2+3m)=2+6n+3m+9nm=2+3(2n+m+3nm)∊[2].
これを記号で表現すると、
                      [1]・[2]=[1・2]=[2]
となります。乗積表は

となります。演算が集合Hで収まっていて単位元は[1]ですが、[0]の逆元はありません。したがって、群を成しません。


さて、前回の群G={1, ω, ω^2}と今回の群H={[0], [1], [2]} の群表を並べてみると


同じ形をしていることが解りますか。1↔[0], ω↔[1], ω^2↔[2] という対応があります。 このとき、GとHは同型であるといって、等号「=」の上に「~」を載せた記号(※5)で

G≅H
と表現します。
群Gの元は複素数ですが、群Hの元は整数ですね。例が単純なので、あまり同型の有難みを感じませんが、群Hの方が簡単な形をしています。

有限群なので、群表によって、同型というのが判りやすかったと思います。一般論では、対応の部分が双射(全単射)に当たり、この条件を緩めた準同型写像(それぞれの群の演算を保存する対応)が活躍します。▢

 途中の議論「演算が定義でき」で、「well-defined」が気になった人がいるかもしれませんが、これは本格的に群を学ぶときに理解すればいいことだと思うので、ここでは触れませんでした。入門への入門と思い、目を瞑ってください。▮


代数学の専門書の紹介:新妻弘、木村哲三 共著『群環体入門』

代数学の本で「入門」が入った書名は数多ありますが、ほとんどは入門かもしれないけれど、入門かなあというくらい難しい入門書です。しかし、上の本は多くの人が感じている「入門」という名に相応しいものです。数学でいう入門は専門数学への入門という意味で、敷居はかなり高いですね。だから、数学の専門書は題名で選んではいけません。

数学書は高価なので、慎重に選んでください。私は右側の演習書だけ所有しています。基本は他の本で学んだからです。 


左)新妻弘、木村哲三 共著『群環体入門』 右)左の演習書

 


※1 同型・同形。isomorphismの翻訳をどちらにするかの問題で、形の方がいいと思いますが、型に慣れてしまっているので、型を使っています。他に、線形代数・線型代数、関数・函数、付値・附値、共役・共軛などがあります。本質からほど遠いので、好みで選べばいいのです。中学・高校のセンセがどうかは分かりませんが、数学者がペケや減点をするなど考えられません。

※2 中学・高校数学ではほとんど活躍しないので、「同値」という概念の有難みを感じませんが、数学ではとても活躍します。例えば、定義(公理)AがあってA⇔Bなら、Bを定義(公理)にして議論を展開することも可能だからです。身近なものだと、実数の連続性で何を公理にするか、というのがありますね。同型もこれに似て、扱いやすいもので考察できるのが利点です。

※3 合同式を知っているなら、mod3のことです。

※4 演算が集合内で収まっていることを、演算が集合で閉じているといいます。

※5 私は「ー」の上に「~」を書いた記号を使っていますが、この記号がなかったので「≡」を使いました。

2021/05/12

寅さん、月がきれい

夏目漱石はやはり偉大なのです。逸話「『月がきれいですね』とでも訳しなさい。」はよく知られていると思います。
 

数学者 志村五郎(故人)は、K大大学院哲学を修了した人から尊敬の念を抱かれています。
むかしの同僚が話してくれたのです。小説『檸檬』の舞台になった書店でアルバイトをしていたとき、志村五郎氏の著作『記憶の切繪図』『中国古典文学私選』を目にし、その著作が数学者であることを知り、それ以来、一目置くようになったのだそうです。私自身は数論の大家として存じ上げております。


夏目漱石は、日本人に素養を与えました。小説を通して、日本語を少しずつ整備したとみています。その恩恵を受け、共通語として普及したことによって、いまこうして意思を通じ合えます。数学者たちも日本人の教養を高めるべく、外国語を日本語に翻訳し、それによって日本語で数学の指導ができるようになりました。「ダッシュ」という日本語も定着させてしまいましたが。


「日本には総合大学は存在しない」
これは謎の数学者さんの言葉ですが、これを視聴すれば納得できると思います。


文系理系は昭和の前から使われているようで、受験予備校がつくったもののようです。「文系は、理系は」と言っている段階で、世界から取り残されています。これにより、もう、日本に漱石は出てこないと思います。安冨あゆみ氏が最後かなと思います。偏見だと思いますが、広く教養に溢れ、いろいろなことを研究する人は出てきにくいと思います。


本を読まない国語科教師、歴史を研究しない社会科教師、数学を研究しない数学科教師、物理を避ける理科教師とか、ありえません。教えないにしても、広く教養は身に着けてもらいたいですね。また、専門に固執してしまうのも困りものです。A.Einsteinらのように、悪のショッカーに利用されるだけではないでしょうか。



もしも車寅次郎に教養がもう少しあれば、マドンナの愛の告白にうまく答えらえれたでしょうに。『男はつらいよ 第46作』で愛が結ばれてます。いや、その前の第40作「サラダ記念日」でも告白されてたように記憶しています。でも結ばれたら完結してしまいますね。

葉 子「寅さん、月がきれい」
寅次郎「(月をみて)ほんとだねえ」
(がくっ)▢


左2冊は上で紹介した本、右の2冊は読んだことのある本です。
『記憶の切繪図』と『鳥のように』はエッセーです。教養の広さが感じられる作品ですし、政治的な見方も判ります。
『中国説話文学とその背景』は、指導教授から薦められて読んでみた本です。

2021/05/08

(改題)代数学の世界【前編:有限群、巡回群】~少しだけ背伸びした世界~

1の虚数立方根をωと書く、というのがωの定義でしたね。だから、当然 ω^3=1です。
(ωはオメガと読みます。ここで、ω^3はωの3乗を意味する表記と約束します) 


この顔文字の一部として知られる「ω」、高校数学Ⅱで登場しますが異質な感じを受けませんでしたか。でも受験数学には必須の知識ですね。

ωは悲しんでいると思います。教科書が「一般の3次方程式の根の公式と結びついている」ことに触れもしないから仕方ありません。今回は3次方程式の根の公式には触れませんが、いずれこの『数学雑談』で触れようと思っています。『理一の数学事始め』で、3次式の因数分解に触れた頃です。


以前、群については紹介しました。↓
少しだけ背伸びした世界:代数学~群の紹介~
ある集合に演算を1つ定義し、演算結果もその集合に収まり、その演算についてはある程度の自由度が保証されているときにといいました。詳しくは上のリンクをご覧ください。


今回は「有限群」「位数」「群表」「巡回群」「生成元」について説明します。


1の立方根全体{1, ω, ω^2} (※1) は複素数Cの部分集合ですが、この集合は複素数のふつうの積「・」に関して群を成します。有限集合の場合は次のような乗積表が有効です。縦横それぞれに1, ω, ω^2を書き並べ、表の縦列と横列で交差したところにその2つの積の結果を書き入れます。


この表から、①集合{1, ω, ω^2}だけで、積・が完結している ②1が単位元である ③1の逆元は1,ωの逆元はω^2,ω^2の逆元はωである ことが判ります。
群であるには、結合律について調べる必要がありますね。そこで、



問題 結合律が成り立つことを示してください。



専門書にありがちな問です。こういう場合、答えを探してもせいぜい「容易」としか書かれていません。

問題の解説 結合律は、a, b, c∊{1, ω, ω^2} に対して、a・(b・c)=(a・b)・c であることを確認すればいいですね。この場合は、a, b, c が複素数でなので、自然と結合律は成り立ちます。このことに気づかないと、3・3・3=27通りの場合を確認することになります。▮(※2)


複素数Cの部分集合G:={1, ω, ω^2}は、積に関してを成すことが判りました。有限集合が群を成すので、有限群と呼ばれます。このときの元の個数を群の位数といいます。つまり、群Gは位数3の有限群です。また、上の乗積表は群表ともいいます(※3)。

さらに、群Gにおいて、1つの元ωのべきを考えるとω, ω^2, ω^3=1となり、すべての元を表すことができます。このとき、群Gを巡回群、 ω を生成元といい、記号〈 〉を用いて次のように表現します:

G=〈ω〉.

問題 G=〈ω^2〉が成り立つことを確認してください。

このことから、生成元は一意的でないことが判ります。


問題の解説 ω^2のべきを考えます。
ω^2, (ω^2)^2=(ω^3)・ω=1・ω=ω, (ω^2)^3=(ω^3)^2=1^2=1 から、
             G={1, ω, ω^2}=〈ω^2〉.▮

「群の同型」まで話をしようと思ったのですが、考えていたよりも長くなったので、ここで区切ることにします。続きは一週間後です。▢


代数学の専門書紹介:新妻弘、木村哲三 共著『群環体入門』

代数学の本で「入門」が入った書名は数多ありますが、ほとんどは入門かもしれないけれど、入門かなあというくらい難しい入門書です。しかし、上の本は多くの人が感じている「入門」という名に相応しいものです。数学でいう入門は専門数学への入門という意味で、敷居はかなり高いです。だから、数学の専門書は題名で選んではいけません。

数学書は高価なので、慎重に選んでください。私は右側の演習書だけ所有しています。基本は他の本で学んだからです。


左)新妻弘、木村哲三 共著『群環体入門』 右)左の演習書



※1 1とωが x^3=1 の根であることは問題ないと思うので、ω^2 が根であることだけを確認します。そのために3乗した結果が1になるかをみます:
(ω^2)^3=(ω^3)^2=1^2=1
となり言えました。また、ω≠ω^2であることは、ω≠1であるから ω^2-ω=ω(ω-1)≠0であることから言えます。

※2 複素数には、加減乗除だけでなく、結合律、分配律、交換律も仮定されています。実数と異なるのは大小関係だけでしょうか。例えば、1と1+i に大小関係はありません。

※3 群表というときには、群を成していることが前提です。


2021/05/05

大学で数学を学ぶなら、学び方に困っているなら…お薦めの2冊

新学期もはじまり、コロナ禍で過ごしにくいと思いますが、大学1年生はこれまでとの数学との違いに戸惑っていると思います。人によっては、大学によっては、高校数学の延長のようなことをしていると感じているかもしれませんが、突然、数学が難しくなると思います。

多くの人は「イプシロン・デルタ論法」でしょうか。それとも「位相」とか「同値類で割る話(または、剰余類)」のところでしょうか。抽象度が上がるにつれ、どんどん、どんどん、どんどん意味不明になります。私なんかは目が回る思いでした。その反動でか、塾講師に熱を上げ留年する有様でした。微分幾何で挫折するのは必然だっと思います。

さて、大学で数学を学んでいて、どのように数学を学んだらいいのかと困っているなら、次の2冊をお薦めします。私の学部生時代には、存在すらしてませんでした。

伊原康隆著『志学数学』と 佐藤文広著『数学ビギナーズマニュアル』です。

伊原康隆さんの本は、独学している人には特にお薦めです。このように研究するのかということを教えてくれます。独学なら第一章だけで十分かと思います。

『数学ビギナーズマニュアル』は、大学1年生向けかなと思いますが、学部3年生までなら十分役立つと思います。大学院生には、知ってることしか書かれていないように思います。

絶版になっていたように思ってたのですが、新刊で手に入れることができるようで良かったですね。立ち読みできるなら、いちど目を通してみてください。▢


補遺 最近は動画でも数学の学び方がいろいろ紹介されていますが、本は考えながら読めるのがいいですね。読み直したい所だけを何度も読めるのもいいところです。

これまでも何度か紹介していますが、謎の数学者さんの動画(YouTube)も参考になると思います。■

2021/05/01

数学の専門書を2次方程式の根の公式で説明すると...

数学の専門書というものを、2次方程式の根の公式でもって紹介します。 


話の前提:平方完成を利用して2次方程式を解く話が終わったあと。


もう少し良心的な専門書なら


裏に書いてある解答を見てみると

パターン1)問1 容易

パターン2)問1 省略

パターン3)(何も書いていない)

※2枚の画像はパワーポイントで書いたものです。見にくいと思いますが、ご勘弁ください。


数学の専門書は、こういう感じのものが多いと思います。解答が省略されたり、何も書いていなかったりするのは、これくらいは自力で解きなさいというメッセージなのだと思います。中には解答を書くのがめんどうだから書かないこともあると思いますが。

数学は、自分で考えないと出来るようにはなりません。受験勉強のときのように、参考書の解法パターンを覚えて解けるようになっても出来るようにはなりません。将棋AIがプロ棋士より強くなったこともあり、AIを利用して研究する棋士が多くなっということですが、AIの出す手順だけを暗記しても強くならないのと同じです。なぜそう指すのかは自分で考えないとならないのです。

自分で学びたいと思って数学書を買う場合は、評判などではなく、ある程度時間をかけて選びましょう。学生なら、大学の図書館を利用することができますね。町の図書館では、数学の専門書はほとんど置いていません。最近は、各大学のシラバス等がネットで閲覧できるので、そのシラバスで紹介されている本を選ぶという手もあります。数学の専門書を置いている書店はほとんどないですからね。▢


最後に、読みやすかった専門書を紹介します。

線形代数に関しては、佐久間元敬 共著『線形代数教科書』が調度いい読みやすさでしたが、絶版になっていたので、
左)三宅敏恒著『入門 線形代数』(培風館)を紹介しておきます。この本はかなり読みやすかったです。解答もていねいなので、高校参考書の延長のように思いました。『線形代数教科書』を読んだ後に、読んだからかもしれませんが。

中央左)石田 信著『代数学入門』(実教出版)は授業の参考書として指定されたものです。これで代数の初歩を学びました。

中央右)E.アルティン著『ガロア理論入門』(ちくま学芸文庫) 現在は文庫で売られていますが、東京図書から出されていたA5サイズを読みました。

右)松本幸夫著『多様体の基礎』(東大出版会) 正に、多様体の基礎を学ぶ本だと思います。ここでいう多様体は微分多様体です。代数多様体ではありません。

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...