2021/05/15

(改題)代数学の世界【後編:群の同型】~少しだけ背伸びした世界~

 先週(前編)に引き続き、群の話をします。今回は「同型(同形)」(※1) が主役で、この概念があるから群を考える意味があります(※2)。


整数を3で割った余り(※3)を考えると、集合H={[0], [1], [2]} が得られます。記号[a]は3で割ると a 余る整数全体を表します。つまり、整数Zに対して

[a]={a+3n|n∊Z}.
( a+3nは3で割るとa余る形をしていますね。1+3nは3で割ると1余る数です)

この集合には次のような演算が定義でき、その演算に関して集合Hは群を成します。実際、

[a]+[b]:=[a+b]

のように演算を導入すると、次のような乗積表が得られ、群であることが確認できます。具体的に書くと:1+3n∊[1], 2+3m∊[2]に対して、
(1+3n)+(2+3m)=3+3n+3m=3(1+n+m)∊[0].
これを記号で表現すると、
[1]+[2]=[1+2]=[3]=[0]
となります。


演算が集合Hで収まっていて(※4);単位元は[0];[0]の逆元は[0], [1]の逆元は[2], [2]の逆元は[1];整数なので結合律を満たします。 

このとき、別の演算を入れても群になるように思いませんか。例えば、

[a]・[b]:=[a・b].

具体的に書くと:1+3n∊[1], 2+3m∊[2]に対して、
      (1+3n)・(2+3m)=2+6n+3m+9nm=2+3(2n+m+3nm)∊[2].
これを記号で表現すると、
                      [1]・[2]=[1・2]=[2]
となります。乗積表は

となります。演算が集合Hで収まっていて単位元は[1]ですが、[0]の逆元はありません。したがって、群を成しません。


さて、前回の群G={1, ω, ω^2}と今回の群H={[0], [1], [2]} の群表を並べてみると


同じ形をしていることが解りますか。1↔[0], ω↔[1], ω^2↔[2] という対応があります。 このとき、GとHは同型であるといって、等号「=」の上に「~」を載せた記号(※5)で

G≅H
と表現します。
群Gの元は複素数ですが、群Hの元は整数ですね。例が単純なので、あまり同型の有難みを感じませんが、群Hの方が簡単な形をしています。

有限群なので、群表によって、同型というのが判りやすかったと思います。一般論では、対応の部分が双射(全単射)に当たり、この条件を緩めた準同型写像(それぞれの群の演算を保存する対応)が活躍します。▢

 途中の議論「演算が定義でき」で、「well-defined」が気になった人がいるかもしれませんが、これは本格的に群を学ぶときに理解すればいいことだと思うので、ここでは触れませんでした。入門への入門と思い、目を瞑ってください。▮


代数学の専門書の紹介:新妻弘、木村哲三 共著『群環体入門』

代数学の本で「入門」が入った書名は数多ありますが、ほとんどは入門かもしれないけれど、入門かなあというくらい難しい入門書です。しかし、上の本は多くの人が感じている「入門」という名に相応しいものです。数学でいう入門は専門数学への入門という意味で、敷居はかなり高いですね。だから、数学の専門書は題名で選んではいけません。

数学書は高価なので、慎重に選んでください。私は右側の演習書だけ所有しています。基本は他の本で学んだからです。 


左)新妻弘、木村哲三 共著『群環体入門』 右)左の演習書

 


※1 同型・同形。isomorphismの翻訳をどちらにするかの問題で、形の方がいいと思いますが、型に慣れてしまっているので、型を使っています。他に、線形代数・線型代数、関数・函数、付値・附値、共役・共軛などがあります。本質からほど遠いので、好みで選べばいいのです。中学・高校のセンセがどうかは分かりませんが、数学者がペケや減点をするなど考えられません。

※2 中学・高校数学ではほとんど活躍しないので、「同値」という概念の有難みを感じませんが、数学ではとても活躍します。例えば、定義(公理)AがあってA⇔Bなら、Bを定義(公理)にして議論を展開することも可能だからです。身近なものだと、実数の連続性で何を公理にするか、というのがありますね。同型もこれに似て、扱いやすいもので考察できるのが利点です。

※3 合同式を知っているなら、mod3のことです。

※4 演算が集合内で収まっていることを、演算が集合で閉じているといいます。

※5 私は「ー」の上に「~」を書いた記号を使っていますが、この記号がなかったので「≡」を使いました。

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ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...