2022/01/29

数学するときの文字の選び方

       定数には $a, b, c, ...$ を使い、変数には $x, y, ...$ を使う。


と高校数学の参考書に書かれていたと記憶しています。数学オンチだったので高校生のとき

数学教師から文字の使い方を指摘されて調べたことがあったのです。この外にも数学的帰納

法で固い ”k” を使ったら、柔らかい "$k$"(筆記体のk) を使うようにと指導されました。


いま思えば、これはその教師の趣味だったように思います。いまは動画で数学者による講演

や授業が視聴できます。その人たちの文字は様々です。固い文字を使っているのも少なくな

いのが現状です。


                              定数は $a, b, c, ...$ 、変数は $x, y, ...$ 

                        パラメータ(媒介変数)は $s, t, ...$ 、関数は $f, g, ...$ 、

集合は大文字表記するのが一般的なようです。

こういうのには歴史的な流れがあるようですが、絶対にこの文字を使わなくてはならないと

いうものではありません。$a$ を使っても変数やパラメータということもあります。実際には

文字の選び方は専門書を読んでいる中に自然と身に付くもののようです。


ただしこれらに共通しているのは、似たものを表現したい場合はアルファベットの近い文字

を使います。関連性を持たせることで分かりやすくするためです。

他に、文字で指定する場合は認識しやすいように用語の頭文字によって関連を持たせます。

関数の "$f$" はfunction の頭文字です。だから関数を表すときには $f, g, h$ がよく用いられま

す。高校数学では判別式(determinant)のDや(sum)・総和(summation)記号の $S, \Sigma $

($\Sigma $はギリシャ文字で、アルファベットのSに相当します), 添え字(index)記号では $i$, 素数

(prime number)の $p$, 虚数(imaginary number)単位の $i$ などが直ぐに思い浮かびます。 


中学数学は英語のアルファベットで十分ですが、高校数学になるとアルファベットに添え字

を付けたり $\Sigma$ のようにギリシャ文字を使ったりしますね。$\alpha, \beta, \theta, \pi, \omega$ はお馴染みですね。


大学以降になるとこれでも文字が足りないのでドイツ語の飾り文字 $\mathfrak{a}, \mathfrak{O}$ やアルファベット

の飾り文字 $\mathscr{C}$ も使われます。ロシア文字も使われます。そうであっても用語の頭文字に

関連させて使われます。▢


余談

アルファベットに添え字を付けることで関連性のある別の文字を表現するのですが、最初に

出会ったときには、$x_1, y_1$のように添え字を付けるので数字の1に深い意味があるのかと思

いとても難しく捉えてしまいチンプンカンプンでした。慣れると何てことないのですがこう

いう些細なことでも数学オンチの私には難しく思えたのです。


リーマン幾何のアインシュタイン規約の影響で、曲線・曲面の微分幾何でも点の座標を

               $(x^1, y^1), (x^2, y^2)$

などと表したりもするので、きちんと内容を掴んでいないと酷いことになります。

例えば第1成分の平方という場合は $(x^2)^2$ のように表現しますが

                $(x^2)^2=x^4$

とやってはいけません。▮

2022/01/22

数学の7つの迷信


この本は 小針晛宏(こはり あきひろ)著『数学の七つの迷信』です。


【七つの迷信】

1.数学はむつかしく、数学のできる人は頭がよい。
2.数学は計算技術である。
3.記号は文字ではなく、数式は言葉でない。
4.公理は絶対自明の理である。
5.数学は答の決まった問題を解くことである。
6.数学は頭の体操として人間に役に立つ。
7.数学と政治は無関係。

※ pp.22-23「数学についてのいくつかの迷信」からの抜粋


小針氏の死を悼んで、いくつかの雑誌に生前発表されてたものを数学者の森 毅さんが編纂したようです。本のタイトルの元となった「数学についてのいくつかの迷信」は『数学セミナー』1968年4月号, 5月号に掲載されたものです。


七つの迷信から生まれる七つの大罪(pp.22-37)という気になる副題をつけて論じられていますが、掲載誌および掲載号から理工学部の新入生へ向けてのメッセージかと思います:

  

   「入学するために、懸命に勉強した数学とこれからはじまる数学は違いますよ」


と言いたかったのだと思います。▢

2022/01/15

関数の表記 ~ $f(x)$は関数ではない?~

$y$ が $x$ の関数であることを表現するときに $y=f(x)$ と書くので、大学以降も $x$ の関数という意味で $f(x)$ を使っていました。でもこの表記には問題があります。微積分における "関数値の収束" と "関数の収束" の区別がし難いという点です。

"一様収束" を学んだときに混乱してしまって訳がわからなくなってしまいました。

この表記の問題を明確に知ったのは、解析系を研究している人にお願いしルベーグ積分講座をしてもらったときです。

     「関数を表現したいのなら $f(x)$ ではなく $f$ と表現するものだ」

ということでした。区別ができればどちらでも構わないのですが、意識して書く方がいいようです。確かにいまはそう思います。このことはその人自身が学部生のときにゼミの指導教官から繰り返し指摘されたとのことでした。

           $f(x)$ は関数 $f$ に $x$ を入れた値を意味する。

同じ代数系の人でもこのことを知っていたので、講義で説明されたのを聞き逃していたのだと思います。いまは多項式を表現するときにも $f(x)$ や $P(x)$ とは書かず、単に $f, P$ と表記しています。これに倣うと関数 $y=x^2+5x+2$ に対して $x=1$ のときの $y$ の値を出したいなら $y(1)$ と表記できます。$y=y(1)=1^2+5 \cdot 1+2=8$ というようにです。この表記はたいへん便利です。

中高生には違和感があると思いますが、関数の表記で $y=y(x)$ や $x=x(t)$ というのもあります。なお、中高数学においては $y=f(x)$ や $x=g(t)$ という表記でなんら問題はありません。▢

2022/01/08

年賀問題の種明かし


 

前回の画像を消してしまったようなので、動画のサムネを持ってきました。


さて問題は解けたでしょうか。力づくで解くことが出来るだろうことはわかったと思いますが、それでは計算がたいへんそうです。酔った頭で考えるとなると悪酔いしそうですね。


この問題は次のように考えて作りました。前回の「年賀問題と整数論への招待」でほとんどすべてですが、それに補足します。


【種明かし】
素因数分解すると、2022=2・3・337 となります。337 が素数であることは手計算で確認しました。

$20^2=400$ なので、20より小さい素数の平方を考えると $19^2=361$, $17^2=289$ です。したがって、337 が2,3,5,7,11,13,17 を因数にもつか否かを確認すればいいですね。2,3,5,11 でないのは一目なので、実際は7,13,17を調べます。7は暗算で、13と17は13・17=221, $13^2=169$ なので違うと判ります。 

素因数分解 2・3・337 を眺めてもはじめは何も感じなかったのですが、337 は4で割ると1余るので平方和で表せる(代数的整数論)ことを思い出しました。最初は

"2022を素因数分解し、最大の素因数を2つの平方数の和で表せ"

という問題を考えていたのですが、$337=81+256=3^4+2^8$ なので、少し修正して年賀問題にしたのです。2022の素因数が337の他に 2,3 のみだったから、2022がその2つの素因数 2,3 のべき和で表せました。



答え (m, n)=(9, 5).

答えがこれだけであることは、ガウス整数環ℤ[i] における素元分解の一意性によります。実際
                             $337=256+81=16^2+9^2=(16+9i)(16-9i)$
により
              2022=2・3・(16+9i)(16-9i)
となるからです。▮
※ もちろん他の可能性をすべて調べ、他にはないとするのもあります。


啓蒙書でフェルマーの最終定理が書かれていれば、ガウス整数環の素元分解の一意性も紹介されていると思います。同時にフェルマーの最終定理の解決に貢献した数学者の一人クンマー(Kummer) も紹介されていると思います。代数的整数論には欠かせない数学者です。▢

2022/01/01

年賀問題と整数論への招待


『理一の数学雑談』を読んでくれてありがとうございます。今年もよろしくお願いします。2022年がみなさんにとって素敵な年になりますようとの願いを込めて問題を奉納します。
                                  こと はじめ




問題をつくるのは難しいですね。

2022は合成数なので、とりあえず素因数分解して何ならかの性質がないか、平方数やべき和で表現できないかを考えました。おもしろそうな数の関係が見つけられなかったので


     ボツにした問題① 2022を2つの素数の和で表せ。

     ボツにした問題② 2022を4つの平方和で表せ。

     ボツにした問題③ 2022を異なる3つの平方数の和で表せ。


①②にしようと思ったのですが、たくさんの答えがありそうなのでボツにしました。

①はゴールドバッハ予想(未解決)です。小さい数なら真であることが確認されています。でも解くには素数の判断がめんどうなので素数表をみることになります。大きい方の素数から考えるとすぐにいくつか見つかりました。

②もよく知られている結果で、正の整数は4つの平方数の和で表せる(0を平方数に含める)というものです。これを解くのはとても計算がめんどうでそれだけのように思います。
これを解く1つの方法は、"4で割って1余る素数は2つの平方数の和で表せる" ということを知っていれば①の答えの中から 1 mod 4 なる素数を見つければ解決します。この方法ですべて見つかるかは分かりません。

③は②からの発想で、少しおもしろくできるかと思ったのですが...計算がたいへんです。
2つ見つけたところで止めましたが、時間を掛ければすべてみつけられそうです。


私の知っている数学者の一人は、「正の整数は4つの平方数の和で表せる」が切っ掛けで数学に興味を持ったとおっしゃっていました。3つだと表せない数があるのに、4つだとすべて表せるところに不思議さを感じ、さらにきちんと証明できる点にも惹かれたようです。

書きませんでしたが、"ピタゴラスの定理" の数学雑談にいいかもしれませんね。▢


ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...