2021/04/28

数学と受験数学のギャップ

 "根の公式が独力で導けるようになるのは理想です。ずっと昔、ある大学で根の公式を導きなさいという問題が出されたようです。私の恩師が話していました。数学科に入るのなら、これくらいは解けてほしいという大学からのメッセージなのだと思います。"

これは『理一の数学事始め』のシリーズ7の4「2次方程式の解法(根の公式①)」のはじめに書いたものです。これで思い出したのですが、三角関数の加法定理を証明しなさいという問題が東京大学で出題されたことがありました。


推薦入試やAO入試が各大学で実施するようになった頃、「数学の出来る生徒を推薦して欲しい」と言われたことがありました。その面接では簡単な数学の知識を訊くことを知らされていました。例えば、2次方程式の解の公式を述べてもらい、それを証明するようなことです。実際は、受験生はこれでも答えられないようです。面接という緊張もあると思いますが、数学の基本の基を理解していないためだと思います。大学側が基本的な問題を面接で訊くということは、そのことを十分認識しているからだと思います。「入試の点数は良いのに数学ができない」という嘆きは、何度か耳にしました。

実際、基本の基を知らないために説明で苦労することは何度もありました。当然、理解が浅いので定着もしません。近視眼的にしか物事を考えられないために、基本に戻って理解することを怖れるのだと思います。長い目で見れば、基礎を固めることが如何に大切であるかが解ると思うのですが、当人にとっては難しいことのようです。受験は時間との勝負だから、どうしても焦るのでしょうね。その気持ちは十二分に解ります。


森 毅 著『数学受験術指南』(中公新書)
この本を最初に読んだのは、高校3年の夏だと記憶しています。図書館で偶然これを見つけて読みました。学習をしに図書館に行ったのに、夢中になって読みました。その中に、受験生の数学の力をみるのに「自宅から受験会場まで、どのように来ましたか」を訊けばいいというようなことが書かれていました。自分が解っていることをどのように説明するのかで、数学の証明と同じ力がみられるという主張だったと記憶しています。この考えは、いまでも納得できます。▢

2021/04/24

数学者 志村五郎氏が提案した入試問題

"入試問題などというものは基本的知識の有無と理解の程度を調べればよいのである"

という考えのもとで、志村氏が提案したという問題の一つが

 「一辺の長さ1の正四面体ABCDの辺ABの中点と辺CDの中点との距離を計算せよ。」


で1960年頃の東京大学の入学試験で採用されたようです。

※ 志村五郎著『数学で何が重要か』ちくま学芸文庫 pp.028-032「4.入学試験と数学オリンピック」から一部抜粋  詳しくは、この本をご覧ください。

 


そう考えると次の問題はそれに該当するでしょうか。

「縦2,横1+√5の長方形の壁を出来るだけ大きい同じ大きさの正方形のタイルで隙間なく埋めたい。このときのタイルの一辺の長さを求めよ。もしも隙間なく埋められない場合は、その理由を説明せよ。ただし、タイルの厚さは考えないものとする。」


これは湯舟の中で思いついた問題(ルート5の5に屋根がないことはご勘弁を)で、このくらいの問題が解ければ高校卒業後の数学も学べると思います。もちろん、これだけだと知識は足りませんが、数学の啓蒙書を読むのには困らないと思います。▢


補遺 最初の問題を少しだけ変えて、
 「一辺の長さ1の正四面体の捩れの位置にある二辺の中点間の距離を計算せよ。」
とすれば、基本的知識がもう一つ確認できそうです。


只の雑談
「pp.028-032」のpp. はpageの複数形pagesを意味しています。p.028~p.032と表現されることが多いようですが、この表現はpm5:00やX'masくらい気になります。▮

この雑談に気づいてくれた人へのおまけ
一目置いている謎の数学者さんの動画を紹介します:
数学の問題には2種類ある。慣れるための問題と数学のなぞなぞ


2021/04/21

数学学習の基本の基

 数学オンチだった頃、数学のテストで数学のできる人(=高得点を取る人)というのは、授業を一回受けただけで、独力で解法を見つけて解いているのだと思っていました。

数学科に入ってからも、そう思っていました。小学校の頃の級友と矢野健太郎氏か小平邦彦氏のエッセーが要因だと思います。実際は、そういう人(=数学のできる人)は極めて稀で、多くは塾で解法を教えてもらったとか、参考書で解き方を覚えたとか、中には解法の丸暗記をしている(=高得点を取る人)ということを、数学を教えるようになってから徐々に認識しました。できる≠高得点をとる、だったのです。

数学ができるようになりたいなら、基本を大切にしてください。そして納得がいくまで考えましょう。理解が進まないのなら、それは以前に学んでいることをきちんと理解しない可能性が高いと思います。これを自分で見つけるのは大変なので、こういうときは数学の先生や数学のできる友人に頼りましょう。ただ、頼りすぎると数学はできるようになりません。時間はかかりますが、自分で考え抜くことが基本の基です。

基本というのは、教科書でいうと最初の導入部をきちんと理解することです。次に定義を覚え定理の意味を理解することです。計算に関しては、理解するだけでなく、独力で計算できるようになる練習が必要です。例や例題およびそれに付随している問題で十分です。特に、多くのことを学ぶ必要のなる中高生には有効だと思います。定理の証明は、定義を覚え、定理を理解し使えるようになってからで構いません。その頃には、証明を理解するのがらくだと思います。

尚、定期テストなどで点が取れることは別です。▢


矢野健太郎氏や小平邦彦氏のエッセーが絶版だったので、所有しているもので現在も手に入るものを一冊だけ紹介しておきます。

岡 潔 著『春宵十話』(光文社)
数学者のエッセーは、数学の魅力を掻き立ててくれると思います。画家の故 安野光雅氏は、森毅氏と交流があったようだし、数学と絵画を融合させた本も出版されています。

 


矢野健太郎著『おかしなおかしな数学者たち』(新潮文庫)絶版
小平邦彦著『ボクは算数しか出来なかった』(日経サイエンス社)絶版
小平邦彦著『怠け数学者の記』(岩波現代文庫)絶版

3冊とも絶版だとは...古本ですが手に入るようです。
小平邦彦氏はフィールズ賞をとった数学者なのだから、再版されてもいいと思うのですが。

2021/04/17

(改題)本来、Euclidの互除法は図形的に捉えるものだ ~ユークリッドの互除法の図形的説明~

問題 縦4370mm、横7130mmの長方形の部屋を同じ大きさの正方形のタイルカーペットで敷き詰めたいと思います。敷き詰められる正方形で最大のものは、一辺が何mmのタイルカーペットですか。


読者の中には、「最大公約数を求めればよい」と即答された方もいると思いますが、では答えはというと簡単ではないと思います。

素因数を見つけるだけでも大変なので、こういうときにはEuclid(ユークリッド)の互除法が有効です。その仕組みを説明したいので、数を簡単にします。

縦6mと横14mとして説明します。このとき、敷き詰められる最大の正方形の候補は、一辺が6mの正方形ですね。それを表現したのが下図です。

一辺が6mの正方形で敷き詰められないことは分かりました。

ここで、《もしも赤い部分が正方形で敷き詰められたら、2つの正方形もその正方形で敷き詰められますね。また、赤い部分が正方形で敷き詰められなかったら、2つの正方形もその正方形では敷き詰められません。だから、赤い部分の長方形を出来るだけ大きい正方形で敷き詰めることが出来れば全体の長方形もその正方形で敷き詰められます》。

その最大の正方形の候補は、一辺が2mの正方形です。6-2-2-2=0なので、一辺が2mの正方形で敷き詰められます。▮

上の《 》の部分が本質的な部分で、それを繰り返し用いたものがEuclidの互除法なのです。この考え方であれば、小学生でも気づいている子がいると思います。


では、もう少し値を大きくし、縦21㎝、横51㎝とします。これを図で表現すると

です。式で表現すると、

51-21-21=9(←51-21×2=9)※一辺が21㎝はダメ
21-9-9=3(←21-9×2=3)※一辺が9㎝もダメ
9-3-3-3=0(←9-3×3=0)※一辺が3㎝でうまくいく
よって、一辺が3㎝の正方形で敷き詰められます。▮


では、最初に挙げた問題を解いてみます。
7130-4370=2760 ※一辺が4370mmはダメ
4370-2760=1610 ※一辺が2760mmもダメ
2760-1610=1150 ※一辺が1610mmもダメ
1610-1150=460 ※一辺が1150mmもダメ
1150-460-460=230(←1150-460×2=230) ※一辺が460mmもダメ
460-230-230=0(←460-230×2=0) ※一辺が230mmでうまくいく
よって、一辺が230mmのタイルカーペットで敷き詰められます。▮


上の2つの計算は、次のようにしています。


ユークリッドの互除法の計算の仕方は他にもありますが、仕組みは同じです。▢


※計算の仕方は、動画だと分かりやすいと思います。(2021.4.18 9:33以降視聴可)


2021/04/10

数を発見された順に並べてみると…驚きの結果!

問題です。気楽に答えてみてください。

知らない数も含まれていると思いますが、次の①~⑨で知っている数だけについて、あなたたち人類が発見した順に並べてみてください。知らない数を並べるのは無意味です。クイズではありませんし、テストでもありません。ただ、「へーっ」て感じてもらいたいのです。私自身、以前に少し調べて、「へーそーなんだー」と感心したからです。それを味わってもらいたいのです。だから、私の答えは完璧ではありません。その時代に生きていませんから。ドラえもんがいたら、タイムマシンで数の発見の旅に行けるのですが。

だからもし、「数の歴史に詳しく発見の順を知っているなら、答えに誤りがあったら指摘してください。」みんなで「へー」を分かち合いましょう。

①「1,2,3」   ②「0」(位取り記数法)    ③「1/2, 3/5」

④「0.1, 1.5」    ⑤「-2, -5」             ⑥「円周率π(パイ)」

⑦「√2,√3」           ⑧「自然対数の底e」     ⑨「i (虚数単位)」


次の順で文献を調べました。(蔵書のみ 他にも関係ありそうなものを用意したけど)

岩波数学辞典(第3版)
小川束,平野葉一共著『数学の歴史』(朝倉書店)
中村幸四郎著『数学史』共立全書
ジョン・タバク著『はじめからの数学3 数』(青土社)
黒木哲徳著『なっとくする数学記号』(講談社)
エビングハウスら8名の共著『数 (上)』(シュプリンガー・フェアラーク東京)
(8名の共著だけのことはある。P進数が書かれていたから購入した本なのに 驚)

次を結論とします:①, ③, ⑦, ⑥, ④・⑤, ②, ⑧, ⑨.
※ 東洋と西洋で異なることは知っていたので、「人類」を大前提としました。
♪ 分数は早くから使われていましたが、分数の概念を人類の叡智として得たのは、可換環が
 整備された20世紀だと主張する数学者もいます。

①自然数は人類誕生前の鳥も知っていたといわれています。
③分数は早くから使われていました。
⑦ピタゴラスは無理数を怖れたらしい。
⑥近似値を用いていました。
④・⑤中国数学の『九章算術』。紀元1世紀にはまとめられていて、小数・負の整数が書かれていたたらしい。赤字・黒字(負の数・正の数)は今でも伝えられていますね。
②位取り記数法の発見によって、たった10個の記号で、想像もできないくらい大きい数も表現できます。岩波新書(赤)『零の発見』は今でも読まれています。
⑧対数表を作った時に、ネイピアは想定していたようです。
⑨オイラーが使い始めだそうです。■

※ 西洋では、負の数・小数をなかなか認めなかったらしいのです。
    15世紀以降に徐々に使われはじめたようです。

岩波数学辞典、学部生の頃は使いこなせなかったのに、いまはとても便利です。wikiでは、自分の専門に関しては不足を感じるので、日本の数学者たちの汗の結晶である数学辞典は重宝しています。第2版の頃とは雲泥の差の量で、現在は第4版が出ています。一人で何もかも知るのは不可能なのは、ぺらぺらとめくっただけで判断できます。何でもそうだと思いますが、知れば知るほど無知であることを自覚します。「ほとんど、何も知らんなあ」と。
だから、おもしろいのだと思います。ゲームでも似たものがあるのではないでしょうか。パーティを組んで、いざ冒険の旅へ。▢

2021/04/03

三角数とGauss少年と数列の和(お子さんが数に興味をもったら…)

問題 (正の整数)1から10までをすべて足すといくつか。


小学5年生のときに、クラスメイトのHからこの問題を出された。ちょっと考えて45と答えたが、Hは「直ぐに答えないといけない」と言った。「知ってる訳ないじゃん」と思ったが、そんなんどーでもいいことのようだ。「どーやって出したか」と訊かれたので、1+9,2+8,3+7,4+6の結果に5を足したと言ったが、「そんなんダメだ」と言って、「答えは55」と自慢げに言った。「しもたー、10を足し忘れた」というのはどーでもよく、ただ学習塾で習ったことを自慢したかっただけのようだ。「ぢゃー、1から100まで足したらいくつか」と問題を出してきたが、「ポットじゃあるまいし」と思っていたら、答えるよりも早く「5050だよ」と言った。アホらしっ。まあ、これがあったから、今でも「55」だけはずっと覚えている。


つまらぬことをずっと覚えているものです。脳に、傷として刻み込まれたのだと思います。

ここに出てきた「55」や「5050」が三角数です。小さい方から順に並べると

1, 3, 6, 10, 15, 21, 28, 36, 45, 55, 66, 78, 91, 105, 120, 136, ...

となります。どのような規則で並んでいると思いますか。

「2,3,4,5,6,…と増えている」という回答が多いでしょうか。もちろん、正解です。その場合、第n項(n番目の数)は簡単に求められそうですか(※1)。例えば、第100項はいくつですか、と訊かれたら直ぐに答えられそうですか。


この数列はもっと単純で、少年Hが言ったように、正の整数を1から順に足したものを並べたものです。
        1, 1+2, 1+2+3, 1+2+3+4, 1+2+3+4+5, ...

という具合にです。高校数学Bの例題にありそうですね。これが三角数と呼ばれるものです。
次の絵をみると、その由来は納得してもらえると思います。

黒白で色分けし見やすくしたつもりですが、三角形が見え難くなってしまったかな。次の絵だと三角形が見やすいと思います。黒の碁石だけを見てくださいね。



では先ほどの第100項は、

               1+2+3+・・・+99+100

の答えなので、少年Hが自慢気に言った「5050」です。

実はこれ、数学者ガウス (Gauss, 1777-1855 ※2) の逸話で知られている問題なのです。
ガッコのセンセが、自分の仕事をするための時間稼ぎのために、受け持ちの子供たち(小学3年生?)に「1から100までを足したらいくつか」と出題したのですが、少年ガウスに即答されてしまったのだそうです。

(1+100)×100÷2を計算し、5050を導いたのです。

単に、1,2,3,4...でなく、いろいろな物を使ったりして数を習得したのなら、小2・3年生でも思いつくとおもいます。最近だと、小学受験や中学受験などで詰め込まれているため、即答できる子がいると思いますが…。


閑話休題。次のように数を認識していると、ガウス少年のように解けると思います。


理由は、次の図で明らかだと思います。パズルやブロック(レゴ)遊びをしている子も気づくと思います。流石に、1から100までの整数の和は並べられないので、1から10までの和を表現してみました。黒の碁石が 1+2+3+4+5+6+7+8+9+10 を表しています。


黒の碁石の個数がかんたんに求められますね。
長方形状に並んでいるから、全部の碁石の個数は 10×11個で、白の碁石はその半分だから

10×11÷2=55.

だから、黒の碁石は55個です。これにより、1から100までの合計も同様に考えて、

               (1+100)×100÷2=5050.


もちろん、碁石でなく、みかんやお猪口を並べてもおもしろいですね。私の場合は、小学1年生の授業で「スタンプを押す」という作業を通して、数を図形的に捉えていました。□

動画あり(2021.4.4 9:17以降視聴可)


余談
その授業はいろいろな形のスタンプを帳面(チョウメン:ノートの意)に書いた1から10までの数の横に、その数の分だけスタンプを押すというものでした。最初の1から3まではできた人から順にセンセに見せに行き、〇をつけてもらうという形式でした。5からは「自由に押していい」と指示されたから、数字の横に自由に押したらペケされました。
その当時も、いまも寡黙でまじめな少年一は、文句も言わずじっと耐えました。まあ、カトセンセの「自由に」というのは、「スタンプの種類」について言ったもので、「個数を好きなだけ押してもいい」という意味でないことは、いまは判ります。でも当時の私には、そのように受け取れませんでした。級友のひとりは帳面一杯にスタンプを押していました。やはり、センセの指図に問題があったのだと思います。■


※1 高校数学Bの数列で、1からnまでの整数の和は、公式として習うと思います:

n(n+1)/2.


※2 数学者 Gauss について書かれた本は数多あると思います。所蔵本から次の3冊を紹介しておきます:

・左の 安倍 齊著『代数ことはじめ』(森北出版 1993年出版)は、中古しかないようです。
ただ、これは書名の通り、数学の本です。でもやわらかく書かれています。

・中の E.T.ベル著『数学をつくった人びと Ⅱ』(ハヤカワ文庫 NF)は、新刊で入手できそうです。所蔵のは、東京図書から出版されたもので、上下巻だったものが文庫化で3分冊になったようです。上巻の後半だったので、第2巻に収録されたようです。感想をみてガウスが載っていると確認しました。
この本は、数学者の伝記です。読み物としておもしろいと思います。1976年以来読み継がれているようです。所蔵のは1984年版です。

・右の S.G.ギンディキン著『「ガウスが切り開いた道」』(丸善)は、新刊で入手できるようです。所蔵のは、シュプリンガー・フェアラーク東京から出版されたものですが、いまは丸善から出されているようです。
ガウスの業績を知る格好の本だと思います。内容も他2冊の中間的なものだと思います。

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...