2021/11/27

道路標識と三角比

原付免許や自動車免許を取得した人は覚えたはずです。円形、三角形、正方形、長方形、菱形などで規制、指示、警戒を一目で報せてくれる道路標識。警戒を報せるのは黄地で正方形を45度傾けたもので、菱形と認識されている標識です。この中で急勾配を報せる標識には黒い直角三角形と矢印と百分率が書かれています。

黒い直角三角形と矢印でこの先に上り坂か下り坂かを表し、百分率によって勾配を示しています。勾配(傾き)をパーセントで表すので、この道路標識は難しさを漂わせます。数学用語でいえば直線の傾きを表しているのであまり不自然ではないのですが、数学に泣かされた私にとっては異様にしか感じませんでした。


 「道路標識 急勾配」で画像検索すると 勾配10% の黄色標識がでてくると思います。

この 10% は 10/100 なので100m進んだら10m上る(下る)ことを意味しています。百分率は100点満点のテストと捉えると分かりやすいと思います。

でも勾配なのだから角度が気になりますよね。これは三角比表を見ればかんたんに知ることができます。三角比表はネット検索でかんたんに見つかります。

10%=0.1 なので三角比表の tan の列で 0.1 を探すと 0.1051 が見つかります。横をみると6度であることが判ります。

ノートの上で6度というとほとんど傾いていないように思いますが、いま住んでいる家が6度傾いていたり、三輪車や車椅子で6度の坂を上ったりするのはたいへんです。初心者にとってはスキー場の斜度6度も、止まり方を知らないと怖いと思います。

勾配の感覚を知るには近くの公園の滑り台がいいと思います。傾きも調べやすいし、実際に滑ることができます。危ないのですが、斜面に垂直に立とうとすると角度と怖さが乖離していることに気づくと思います。(※実験するなら大怪我は覚悟の上で)

スキー場なら斜度27度(勾配50%)は気持ちよく滑れるのに、ロードバイクだと上るのが大変だし、下るのでも怖く感じます。
身近なところに「tan」や「傾き」が隠れているという話でした。▢


2021/11/20

入試では出題されない問題

 角度問題をいじっているときに思いついた問題です。まずは解いてみてください。

問題 下図のようにユークリッド平面上の半直線OX, OY上にOA=AB=BC=CD=DE=EFとなるように6点A, B, C, D, E, F を取る。

∠XOY=20° のとき次の角の大きさを求めてみてください。

 (1) ∠CBD             (2) ∠FEX


こういう問題を入試で出したら大問題となるでしょうね。でも入社試験では出されるかもしれません。なぜなら、Microsoftの入社試験で次のような問題が出されたからです。

(M) ∠Bが直角の三角形ABCがあり、頂点Bから対辺に垂線BHを下ろす。BH=6, AC=10 のとき△ABCの面積を求めよ。


試験問題を作る側はその問題が成り立っているかまで考えるので気付けますが、解答者はその問題が成り立っている前提で解きますよね。だから多くの場合、気づかないと思います。



問題の答えは
(1) 60度
(2) 問題が成り立っていません。なぜなら ∠EDY=100° なので点Fは存在しません。底角が100度の三角形は存在しませんね。三角形の内角の和は180度です。
※ 平行線公理を使いたいので "ユークリッド平面" という表現をしました。

(M)問題は解けましたか。この問題をどう捉えたかですが、問題に不備があるので条件を付けないと解答できません。たぶん、そこが問題なのだと思います。解答者がどう考え、どう解いたかを試しているのだと思います。

問題の不備というのは、考えている空間が提示されていない点です。もしもユークリッド平面が前提なら、問題に当てはまる図形は存在しません。角Bが直角なので辺ACは三角形ABCの外接円の直径になります。半径が5なのだからBH=6はあり得ませんね。辺角大小定理に反するからです。▢


(ただの雑談)
企業の採点官でないので以下は憶測です。
企業ということを考えるとカスタマー対応はとても大切です。「問題に不備があるので解答不可」のような態度で顧客対応してしまったら、もう二度と商品を買ってくれなくなります。なので出来る限り誠意を込めて問題に対処することになります。そのため問題を解決する手段を提示しながら解くことになると思います。

だが研究員であるならはっきりと不備は指摘すべきで、優れた研究員なら問題を解決させるための提案も出してほしいものです。

2021/11/13

平面上の点の位置 ~直交座標・極座標~

平面上の点を表す方法は中学1年で学ぶ座標だけでなく、高校数学Ⅲで学ぶ極座標というのもあります。自然なのは後者の極座標の方だと思います。


左が座標で、右が極座標です。極座標というのは、基準となる点と半直線を決めて距離と成す角の大きさで決めます。かんたんに言えば、距離と方角で点の位置を決めるものです。距離と方角は日常でも使っていると思います。この意味で自然なのです(※1)。

もう少し詳しく言えば、左の座標は基準となる軸が直交しているので直交座標といい、基準線の交点を原点と呼びます。横・縦の位置を組にしてに (a, b) のように表現します。一方の極座標は基準点を、基準線を始線と呼びます。図のOPは動径と呼ばれます(※2)。

ふつう極から点までの距離rはプラスを用いますがマイナスを使うこともあります。そのときは極を中心とする対称な点を意味します。また動径と始線の成す角もふつうは左回りを正の向きとしてプラスで表しますが、時計回りで測った場合はマイナスを用いて表します。正負(プラス・マイナス)を考え合わせた角を一般角といいます。角の大きさを表すのは度数法でも弧度法でも構いませんが、数学では弧度法が好まれます。

極座標を数学Ⅲ以降で学ぶのは、三角関数の知識を使うことと微積分で使うからだと思います。ところで平面上の同じ点を直交座標と極座標で表した場合の関係が気になると思いますが難しくありません。三角比と三角関数の知識があれば独自に導けると思います。次がその関係です。



中学1年で直交座標を学ぶとき、哲学者・数学者のR.デカルト(René Descartes)の逸話と共に学ぶと思います。著作『方法序説』で考えを示し、図形を数量で表現する方法は当時は画期的でした。これを活用し研究したのはフェルマーの最終定理で知られているP.フェルマー(Pierre de Fermat)です。図形を数式で扱う解析幾何学創成期の数学者です。中学数学では直線の初歩を学び、高校数学Ⅱでは直線と円を学びます。これが解析幾何です(※3)。▢


※1 複素数を平面上の点と考えた複素平面というのがあり、ここで極形式を学びます。これは極座標を利用した表現方法なので、数学者によってはこの極形式も極座標と呼びます。複素関数論で複素数zをz=re^(iθ) と表現する方法も学びます。この表現方法も極座標と呼ばれたりします。一見混乱しそうですが、話の流れでかんたんに区別できます。

※2 極は北極や南極の極、動径の径は半径の径です。極は最果て、径は小道という意味がありますがほど遠いですね。なので北極や半径を連想する方が覚えやすいと思います。

※3 いまは解析幾何学を学ぶことはないと思います。高校数学Ⅲの楕円と双曲線は解析幾何の欠片です。線形代数でもいまは解析幾何の話はないと思います。本は売られていますが、いまは微分多様体や代数多様体を学ぶ時代だと思います。

2021/11/06

オイラーの一筆書き定理

 オイラーの一筆書き定理
   連結グラフが一筆書きできる必要十分条件は,奇点が0個または2個である.▮

前回は必要条件であることを示して、7つの橋問題を解決しました。
今回は十分条件であることを示します。これにより下図の8つの橋は2度以上通ることなく歩いて渡ることができます。

実際に何度か試してみれば渡れることは確認できます。ここで大切なのは実際にやらなくても可能だと判断できることです。


4つの島を点だと思えば、北島・下島は偶点で中島・横島は奇点なので中島か横島からスタートすれば8つの橋を渡ることができます。もしも中島と横島にもう1本橋が架けられたらどの島からスタートしても2度渡ることなく9つの橋を渡ることができます。

(ここから本題です)
まずは確認です。奇点はその点から出ている線の本数が奇数の点で、偶点はその点から出ている線の本数が偶数の点でした。次に連結グラフです。点と線だけの図形をグラフと呼び、そのグラフの任意の2点がそれらの線で結ばれているとき連結グラフと呼びます(※0)。例えば曇の天気記号◎は連結でないグラフです。このように線は曲線でも構いません。それに連結でないなら考えるまでもなく一筆書きはできませんね。


補助命題 どんなグラフも奇点は偶数個である.▮(証明は※1)
定理 連結グラフが一筆書きできる必要十分条件は,奇点が0個または2個である.▮

(十分性の証明の流れ)
連結グラフを一筆書きの要領でなぞり通過した線をどんどん消していき、すべての線が消えれば一筆書き可能といえます。その消し方を次に提示します。

すべて偶点のときは任意に点をとりそれをA、同時にA’とします。奇点が2つのときは一方をA、もう一方をA’とします。このときAは始点、A’は終点を意味します。
(1) Aから出ている線が1本のときはその線を消し、その端点を新しいAとする。
(2)
 Aから出ている線が2本以上のとき任意に1本の線を選ぶ。
 ①その線を消してもグラフが連結ならそれを消し、その端点を新しいAとする。
 ②その線を消してグラフが連結でなくなるなら別の線を消し、
その端点を新しいAとする。これにより連結性は保たれる。(これは証明が必要で、このとき補助命題が使われます ※2)
この(1), (2)の操作によってどんどん線が消えていき次々新しいグラフが出来ますが、そのグラフは連結グラフで奇点は0個または2個です。こうして最後には2点A, A’を結ぶ線が1本残るのでそれを(1)によって消し一筆書き完了です。▮


※緑の〇は1つのグラフを形成していることを意味しています。上の左下のようなグラフを考えてください。

参考文献など
前回の逆を示そうとすべて偶点であることが示せれば十分とみてあれこれ考えてみたのですがうまくいかず、蔵書で一筆書きの記述を読んだ記憶があるので探してみたら、難波 誠 著『幾何学12章』に書かれていました。世紀末2000年に出版された本で、読んだときに理解できなかったのを思い出しました。pp.81-86に記述されています。読んでは考え、読んでは考えし、理解できないので別証を考え、そして4度目に理解できたのでそれを書きました。上の(2)の証明からあとの理解がなかなかできなかったのです。別証を考えることで理解することができたのです。

話のついでに、記憶は定かではありませんが多湖 輝 著『頭の体操』シリーズ(光文社)に次のようなことが書かれていました:「ケーニヒスベルクの7つの橋の下を流れる川には必ず源流が存在するのでその源流まで歩いて行きその裏を回れば一筆書きができる(7つの橋問題は可能)」。実に柔軟な考えですね。▢


※0 連結は繋がっているということです。位相を知っている人には弧状連結と言った方がいいかと思いますが、グラフ理論ではこのような言葉遣いをするようです。グラフもそれに倣いました。

※1 m個の点がk本の線で結ばれているとする.m個の点はs個の奇点とt個の偶点に分けられる.これらの奇点,偶点から出ている線をすべて数えると 2k 本である.なぜなら,どの線も両端点で数えられているからである.したがって,
   (s個の奇点から出ている線の本数)+(t個の偶点から出ている線の本数)=2k
が成り立つ.そこで

   (s個の奇点から出ている線の本数)=2k-(t個の偶点から出ている線の本数)
と変形したとき右辺は偶数なので左辺も偶数である.よってsは偶数でなければならない.▮

※2 (2)-②:選んだ線の端点の一方はAであるからもう一方をBとする.この線ABを消すと連結でなくなるとする.
[1] すべて偶点のとき
線ABを消すと連結でなくなり,線を消した後の2点A, Bは奇点になる.このとき分断された2つのグラフのそれぞれには奇点A, Bが1個ずつしかない.これは補助命題に反する.したがってすべて偶点のときに線ABを消して連結でなくなることはない.
[2] 奇点が2個のとき
点A, A’が奇点である.線ABを消すと連結でなくなるとき,分断される2つのグラフを考えると点Aは偶点となるので,補助命題から点A’は点B側にあることになる.このとき点B側には奇点が0個か2個ある.奇点が0個となるのは点BとA’が一致しているときである.
さて点A側は点Aを除いてすべて偶点で線ABの他に任意に線ACを選べる.線ABを消さずに線ACを消すことでグラフの連結性は保たれる.このとき奇点は点C(改めてこれをAとする)と点A’の2点である.なお,線ACを消して連結でなくなることはない.もし連結でなくなったら再び補助命題に反するからである.▮



ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...