2022/08/27

写像(全射、単射、双射) ~この話はどこに向かっていくのか②~

:※2の集合の包含関係の示し方を追加しました。(2022.8.29)

今回は特殊な写像を紹介します。特殊とはいっても写像を扱うときにはよく目にするものなので、学び進めていくうちにお馴染みさんになります。


2つの集合 $A, \: B$ に対して、写像 $f:A \rightarrow B$ を考えます。このとき写像の定義から $f(A)\subset B$ です(※1)。これがふつうなので、写像は 中への写像 ともいいます。

写像の中には $f(A)=B \: ・・・ \: (★)$ となるものもあります。このとき、終域 $B$ 全体に写ることから、この写像を 全射 と呼びます。
※※ $A \subset B$ は $A=B$ も含みます。


全射は次のように言い換えることもできます:どんな $b \in B$ に対しても $f(a)=b$ となるような $a \in A$ が必ず存在する。・・・ (★★)


これは $f(A) \supset B$ であることを意味しています(※2)が、写像であれば $f(A) \subset B$ が成り立っているので $f(A)=B$ であることがいえます。

:$f(A)=B$ は集合が等しいということなので $f(A) \subset B$ かつ $f(A) \supset B$ であることを意味しています。等号は、数の他に集合や関数などにも使われるので注意が必要です。


つまり (★) と (★★) は同値なのでどちらを全射の定義にしても構いません(※3)。この話の流れだと (★) を定義にしています。


例(全射)関数 $f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}_{\geq 0} \: ; \: f(a)=a^2 , \: a \in \mathbb{R}$.

(理由:0以上の実数を何でもいいので想定してください。仮にそれを $b$ とします。このとき、$b=x^2$ となる $x \in \mathbb{R}$ が見つけられますね)



次は、元が違えば写った先も違うという写像です。至ってふつうの写像に見えませんか。式で表現すると "$a \neq b \Rightarrow f(a) \neq f(b)$" です。このような写像を 単射 と呼びます。"$\neq$" が扱いにくいことから、対偶 "$f(a)=f(b) \Rightarrow a=b$" を定義にすることもあります(※3)。

例(単射)関数 $f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \: ; \: f(a)=2^a , \: a \in \mathbb{R}$.

(理由:$a \neq b$ であれば、単調増加関数であることから $f(a) \neq f(b)$ です)

このことから実数を未知数とする方程式 $2^x=8$ を解くことができます。
一見、中学生にも解けそうですが... $x=3$ と出せたからといって解けたといえるのでしょうか。パズルなら目を瞑ります。


:単射をふつうの写像のように書きましたが、実際は特殊な写像です。高校までの関数を考えても単射でないものがいくつも出てきます。例えば、実数上の関数 $f(x)=x^2$ は単射ではありません。$-2 \neq 2$ ですが $f(-2)=4=f(2)$ だからです。


写像の中には、全射かつ単射である写像もあります。この写像を 全単射 または 双射 と呼びます。"全単射" は "行列" に並ぶ名訳だと思います。

例(全単射)関数 $f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \: ; \: f(a)=2a+1, \: a \in \mathbb{R}$.

特に、写像 $f:A \rightarrow B$ が単射であれば、$f:A \rightarrow f(A) \: (\subset B)$ とすることにより $f$ は全単射になります。$f$ が全射であっても少し工夫すれば全単射の写像を構成することはできますが、知識が足りないのでお楽しみとして取っておきます。


最後に、単調な写像を紹介します。自分自身に写す対応で 恒等写像 と呼ばれるものです。でも知識が増えるにつれ大切な写像であることに気づきます。恒等写像は $1, \: I, \: id$ などを用いて表されます。$1$ は単位元から、$I, \: id$ は identity mapping (恒等写像) から来ています。恒等写像を式で表現すると

            $1_A:A \rightarrow A \: ; \: 1_A(a)=a, \: a \in A$ 

です。このように index (添字) を付けて表現することもあります。


例(恒等写像)関数 $f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \: ; \: f(a)=a, \: a \in \mathbb{R}$. (関数 $y=x$ のこと)


例がすべて関数になってしまったのは、高校数学までを前提にして書いているのでお許しください。線形代数、位相幾何、微分幾何、代数などを学べばいろいろな例に出会えます。▢


余話
全射は 上への写像 とも呼ばれます。これは 中への写像 に対応している言葉です。単射は対応が1対1なので単(1つ)を使った翻訳になっていますが、そのまま 中への1対1写像 とも呼ばれます。

上への写像は onto-mapping、1対1写像は one-to-one mapping の翻訳です。一方、全射は surjection、単射は injection、全単射は bijection の翻訳です。双射としているのは bi-jection だからです。冗談だと思いますが、sur-jection を上射、in-jection を注射というのも考えられたそうですが、上射は乗車、注射は注射器の注射を連想するので浸透しなかったようです。中射としても中への写像が連想されるのでよくないですね。
(数学者の森毅氏の本[不明]でこのようなことを読んだ記憶があります)

他人に説明するときには 全射・単射・全単射 を使うことが多いのですが、ふだんは全射・単射・双射 もしくは surj.・inj.・bij. を使います。▮


※1 前回の 「関数と写像」 をご覧ください。

※2(追加) 集合の包含関係 $A \subset B$ を示すには、集合Aが集合Bに含まれることを言えばいいから、"$a \in A \rightarrow a \in B$" を示せばよい。これは包含関係を示すときによく使われるものです。

※3 どちらを定義にするかは好みです。指導者や本によって異なり、数学ではよくあることです。どのように組み立てたいかに依ります。

2022/08/20

関数と写像 ~この話はどこへ向かっていくのか~

階乗が出てくる実例としてn次対称群の話を書き、ついでに対称群も...と思ったら写像の知識が必要でした。写像は現代数学には欠かせない基礎知識です。「関数と写像は同じ」と説明すると、解析でしか使わないように思えますし、中高数学で学んだ関数だけを思う浮かべてしまうかもしれません。この点に注意して話を進めていきます。(※1)


「関数」は1670年代にライプニッツ(G.W.Leibniz ニュートンと並ぶ微積分法の始祖)が用いたが、この頃の関数は現代の意味とは異なり "何かに従属して変動する量またはそれを表現する式" を意味していた。1745年、オイラー(L.Euler オイラーを冠した定理や概念が多い)は "変数と定数から組み立てられた解析的な式" として定義した。$f(x)$ も用いられている。
※※ 中高の数学はこのころの関数を意識して書いているから「定義域を求めよ」が問題になるのだと思います。

ディリクレ(P.G.L.Dirichlet ディリクレ級数、ディリクレL関数)の1837年のフーリエ級数に関する論文で、"$x, y$ の関係が数学的算法で表されると考える必要はない" ことに言及し "関数とは対応に他ならない" ことを明らかにした。だんだん整備され現代の写像に到る。

黎明期は集合の概念も数の概念も現代のように整備されていません。現代でも「関数」が使われているのは、先人への敬意が感じられますね。解析系では関数が多く使われ、幾何系では両方、代数系では写像の方が多いように思います。「関数」を使うのは、行先が実数とか複素数のときのようです。


(ここから本題)

写像について 空でない2つの集合 $A, \: B$ に対して、任意の $a \in A$ に何らかの約束によって1つの $b \in B$ が対応しているとき、 $A$ から $B$ への写像が定義されているといいます。与えられた写像を $f$ で表し、この写像 $f$ によって $a$ が $b$ に対応することを

               $f:a \mapsto b$ または $b=f(a)$

と書きます。$f(a)$ は $f$ によって $a$ に対応する $B$ の元を表しています(※2)。この定義で大事な部分は、対応する元が1つであることと "任意の $a \in A$" とあるので対応しない $A$ の元はないことです。もしも対応する元が2つ以上あったり、対応しない $A$ の元があったりしたら写像ではありません(※3)。

$f$ が $A$ から $B$ への写像であることを

                   $f\: : \: A \rightarrow B$

と書き、集合 $A$ を定義域、集合 $B$ を終域といいます。このように写像には定義域が付きものなので、定義域を問題にするのはおかしいのです。上で述べたように定義域の元(ゲン)には必ず何かが対応しますが、終域には対応しない元があっても構いません。

$a$ に対応する $f(a)$ を $a$ といい、集合 $A$ の各 $a$ に対応する像 $f(a)$ 全体を $f$ による $A$ の像といい、$f(A)$ と書きます。つまり

               $f(A):=\{f(a)\in B \mid a \in A \}$

ということです。この定義域 $A$ の像のことを値域ともいいます。集合の像は $A$ の部分集合 $A' \subset A$ に対して考えることもできます。(※4)

補足 写像を考えはじめると 集合の直積 がよく顔を出します(※5)。集合の直積というのは元の組全体のことです。2つの集合 $A, \: B$ に対して $A \times B$ を次のように定義します:

                                 $A \times B:=\{(a, \: b) \mid a \in A, \: b \in B \}$.


用語の説明はこれくらいにして、写像の理解を深めましょう。高校数学までに現れるものを例に挙げます。〇〇関数は例としてつまらないので除きます。

例1(数列) 「えっ」と思いましたか。数列は "数を一列に並べたもの" と覚えていると思いますが、最初はこれで十分だと思います。もし "数列は関数だ" と言われたら混乱します。教師によっては ”自然数から実数への関数” という説明をしているかもしれませんが、教科書には書かれていないと思います。

数列を $\{a_n \}$ と表記しますが、集合ではないので $(a_n)$ という表記もされます。数列を正の整数から実数への写像としたとき

              数列 $\{1, \: 3, \: 5, \: ,..., \: 2n-1, ...\}$

と書かれていれば、$1 \mapsto 1, \: 2 \mapsto 3, \: 3 \mapsto 5, \: ,..., \: n \mapsto 2n-1,...$ というように、番号 $1, 2, 3,..., n,...$ の対応を意味しています。 $5$ は第3項なので $a_3=5$ ということです。

自然数(正の整数)を $\mathbb{N}$ とし数列を $f$ で表し 

               $f \: : \: \mathbb{N} \rightarrow \mathbb{R} \: ; \: f(n)=2n-1$

と書くことができます。ここまでしなくても $f(n):=a_n=2n-1$ と書けば、数列 $\{a_n \}$ は関数(写像)に見えますね。▮

高校数学では写像と像を混同しているようにみえます。教科書や教師は関数であることを知っているので区別していると思いますが、受ける側はどうでしょうか。もし記述テストで説明部分に赤い訂正が入れられていたら、それは写像と像の違いを指摘していると思います。


例2(整数の足し算) 「写像じゃなくて演算でしょ」と言いたくなりますが、写像とみることができます。こういう見方は現代的です。次のように捉えます:

             $\phi \: : \: \mathbb{Z} \times \mathbb{Z} \rightarrow \mathbb{Z} ; \: (a, \: b) \mapsto a+b$.

$\phi (a, \: b)=a+b$ と書けば、写像だと認識しやすいでしょうか。引き算や掛け算も同様にみることができます。これを一般化したものが二項演算です。▮

以前、群を定義したときに写像を使って演算を定義したかったのですが、写像を紹介していなかったので、$a, \: b \in G$ に対して演算・を考えたときに $a \cdot b \in G$ と表現しました。専門書でも両方の記述をみますが、写像が好みです。環上の加群を定義するとき、ずばり言えば作用させるときに有難く感じます。線形代数の本によってはベクトル空間の和とスカラー積を写像で定義していると思います。


例3(ベクトルの内積) $V$ でベクトル(vector) $\overrightarrow{a}$ の住処を表すことにすると内積は

            $V \times V \ni (\overrightarrow{a}, \: \overrightarrow{b}) \mapsto \overrightarrow{a} \cdot \overrightarrow{b} \in \mathbb{R}$.

表現方法を少し変えましたが、何を表しているかは読み取れると思います。内積はベクトルから実数(スカラー)への写像です。▮


例4(微分) 微分可能な関数 $f \: : \: \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}$ に対して

                $\mathbb{R} \ni a \mapsto f'(a) \in \mathbb{R}$. 

これは導関数を表しています。$f'(a)$ は、$x=a$ における微分係数で、関数のグラフで言えば点 $(a, \: f(a))$ における接線の傾きです。$x$ の値を変化させているので導関数です。▮


中高の数学ではこのような表現をしませんが、このように隠れていたのです。写像の利点は定義域と終域が明示されているところです。ただ、中高の数学でこのようなことをしてもこれ以上先には進まないので、却って混乱されるだけですね。▢


注1:$f$ の像 $f(A)$ は集合です。記号だけをみていると、Aに対応する何かを表しているのか $f$ の像を表しているのかは分かりません。大抵は集合Aの像 $f(A)$ とか、元Aに対応する元 $f(A)$ などと書かれているので判別できます。この他の意味を表すこともあるので、記号だけでは判断できません。

注2:像には $f$ による集合の像と $f$ による元の像の2つがありました。このように数学では同じ語を乱用するので「~の」にも注意が必要です。数学の専門書などでは新しい用語だけを太字表記しますが、「~の」の部分も一緒に認識してください。


参考文献
『岩波 数学辞典 (第3版)』
三村征雄 著『微分積分学Ⅰ』(岩波全書)
松坂和夫 著『代数系入門』『集合・位相入門』(岩波書店)
稲葉三男 著『微積分の根底をさぐる』(現代数学者)

※※ これを書くにあたり『微積分の根底~』を読み直して思ったのは、定義域を問題にすることに問題意識を持っていたのはこの本からの影響だったようです。上に挙げた参考文献は辞書代わりによく使用しています。▮


※1 『理一の数学事始め』のシリーズ15「関数とグラフ」 で関数と写像について話をしています。中高数学の関数向けなので深入りはしていません。

※2 写像(関数) $f(x)$ というような表現がされますが、$f(x)$ と書くと $x$ に対応する元を表すことになるので、意識的に $f$ と表記することもあります。多項式を表現するときも同様です。私自身は $f$ という表現を多用します。どうしても変数表記を必要とする場合は大文字にして $f(\mathsf{X})$ と書きます。何となく無機質な感じがするからです。

※3 多価関数というのを考えたりもしますが、写像ではなく "関数" です。この用語に対してただ1つ対応する関数を一価関数とも呼びます。多価関数は複素解析に現れます。

※4 集合表記は 『理一の数学事始め』15.2「関数とグラフ (集合)」 をご覧ください。

※5 直積にはいろいろありますが、ここでは「集合の」直積です。大学以降の数学を学ぶといろいろな直積に出会います。だから「何の」直積かは注意です。直積が直和だったり、記号もいろいろ使われたりで混乱させる用語の一つです。

2022/08/13

場合の数が顔を出すところ

高校数学で学ぶ「場合の数」には「確率」が付きものですが、これは 古典的確率 と呼ばれる ラプラス(P-S.Laplace) による定義を用いているからです(※1)。試行における各事象が "同様に確からしい" ことを前提にして、全事象Ωが N 通り でその中の事象Aが a 通り のとき事象Aの起こる確率P(A) を $\dfrac{a}{\:N\:}$ と定義する というものです。(※2)

この定義は直観と合致し、割合として捉えられるので分かりやすいですね。ただ "同様に確からしい" って何なのとなると "起こり得る確率が等しい" となり確率が出てきてしまいます。これを起こる頻度とか起こる割合って言い直しても、頻度とか割合は確率の言い換えなので意味がありません。ここが欠点です。


閑話休題。場合の数がすぐに活かされるので、確率と1セットにされます。確率以外の要素も出そうとすると、突然、二項定理や約数の個数が話題に上がりますが、単発的でおもしろ味に欠けます。数式の計算や集合、そして場合の数は数学の至る所に顔を出すので基礎知識として組み直すと少しはさっぱりするかもしれません。

[1] 二項定理というのは、2項の多項式のベキ $(x+y)^n$ を展開したときの関係式

             $(x+y)^n=\displaystyle \sum_{k=0}^{n}\dbinom{n}{k}x^{n-k}y^k$

のことです。$\dbinom{n}{k}$ は $_nC_k$ と同じ意味です。文字n,kが大きく書けるのが利点です。このように二項定理の係数として現れるので、$\dbinom{n}{k}$ は二項係数とも呼ばれます。


[2] 約数の個数というのは、例えば 600の正の約数の個数は次のように求められます:

600を素因数分解すると $600=2^3 \cdot 3 \cdot 5^2$ となるから約数の形は $2^l3^m5^n$ です。いま、$l=0, 1, 2, 3, \: m=0, 1, \: n=0, 1, 2$ のいずれかなので、積の法則を用いて $4・2・3=24$ 個と判ります。



[3] 整数と絡めた次のような問題が考えられます。

$X, \: Y, \: Z$ を0以上の整数とする。方程式 $X+Y+Z=8$ を満たす解の組 $(X, Y, Z)$ は何個あるか。

このときの個数は $\dbinom{10}{2}$ で求めることができます。

この話は『理一の数学事始め』シリーズ21の21(2022.8.18 公開)をご覧ください。



[4] 集合 $A=\{a, \: b, \: c, \: d, \: e \}$ の部分集合の個数で使われます。この個数は積の法則を使って $2^5$ 個です。この話は数学事始めシリーズ21の7 の練習問題(3)で紹介しました。

集合Aのすべての部分集合全体をベキ集合(power set) といい $\mathcal{P}(A)$ という記号を用いたりもしますが、集合Aが有限集合でその元の個数を $|A|$ で表すとベキ集合の個数が $2^{|A|}$ と表せることから、Aのベキ集合を $2^A$ と書いたりもします。ベキ集合の一般的定義は

                                    $\mathcal{P}(A):=\{X \mid X \subset A \}$

です。もちろん、記号 $2^A$ でも構いません。



[5] 医学部・難関大学の受験を経験すると、ガンマ関数と階乗との関係を知ると思います。
ガンマ関数 $\Gamma (x)$ は

                                     $\Gamma (x):=\displaystyle \int^{\infty}_{0}t^{x-1}e^{-t}dt$

と定義され上端が $\infty$ なので広義積分と呼ばれるものなのですが、極限記号を利用して $\infty$ を $p$ にして $p \rightarrow \infty$ すれば高校生でも扱えると思います。この他にある極限値を仮定すれば計算も出来ます。問題を

            等式 $\Gamma (x+1)=x\Gamma (x)$ を証明せよ

とすれば解けると思います。特に $x$ が正の整数nのとき

            $\Gamma (n)=(n-1)!$ が成り立つことを示せ

で大学入試問題になります。過去問でこのような問題を見たように思います。この関数がおもしろくなるのは複素解析を学んでからです。数論でも扱います。


その他、テイラー展開(高校数学Ⅲの教科書でも少し触れてます)で階乗が顔を出します。



このように至る所に場合の数は顔を出すので、場合の数は基礎の1つです。
[1]~[5] を紹介しましたが、真っ先に思い浮かんだ例は n次対称群 でした。この話をするなら置換群対称群の話もしたいのですが、写像(単射、全射、双射)の話をしていないので見送ることにしました。置換群は線形代数の行列式で出てくるのでおもしろいと思います。ただ、線形代数は大学1年で扱うのでの色は薄く、「だから何」というくらいの繋がりなので群より行列式の計算が主だと思います。私はそうでした。▢


※1 ラプラスによる確率の定義は、古典的の他に算術的、先験的なども冠されます。これは他の確率と区別するための便宜的呼び名です。

※2 確率を公理的に扱うと 集合、測度、ルベーグ積分 が活躍するようで、解析が好きな人にはおもしろい話のようです。実解析...辛かった思い出しかありません。気にはなっているので、何度かページをめくっています。

余談
『数学事始め』シリーズ21で紹介した記号は階乗記号!と組合せ記号 $\binom{n}{r}$ だけで、公式としては和の法則、積の法則の2つです。上で挙げたように階乗と組合せは大学以降もよく使います。順列記号Pや重複組合せ記号Hは紹介していません。重複順列、円順列、同じものを含む順列などの公式も紹介していません。円順列の公式は軽く触れた程度です。考え方を重視したいからです。
場合の数を友達でもいいから教える立場になったときによくあるのは「Pなの?Cなの?どの公式なの?」という反応です。このような数学は苦痛でしかないと思います。歴史の年号の暗記が苦痛なのと同じです。歴史は流れや事件が起こった原因を知るのがおもしろいし、古典だって活用や読み下し方でなく、その当時の人たちの考え方を知るのがおもしろいですよね。古典を学びたくなるのは外国語文献をその人の言語で読みたいという気持ちと同じだと思います。数学も原書で読むときはこの気持ちになります。▮

2022/08/06

夏の数学に組合せ論 ~夏の読書~

現在、『数学事始め』では高校数学の場合の数の話を進めています。組み合わせまで進んだので、これを機に少し背伸びして大学以降の数学「組合せ論」を読んでみるのもおもしろいと思います。


高校数学「場合の数」の続きとして、次の本なら専門書ですが読めると思います。

      [1] ラスロウ・ロバース 他 著『入門 組合せ論』(共立出版)
          秋山 仁+ピーター・フランクル 翻訳

この本は絶版になってしまっているようで、中古本で手に入れるか図書館で借りることになると思います。

目次 1.集合と写像  2.組合せ論の基本的証明法  3.順列と組み合わせ

   4.グラフ    5.グラフ因子        6.漸化式
 

第3章、第2章と読み、必要に応じて第1章を読むのがいいと思います。これまで集合や写像を学んだことがないと、第1章だけで辛く感じてしまいます。その後、第6章に飛ぶか、第4章、第5章と読むかです。

専門書の読み方は、謎の数学者さんの動画「数学に向かない人の数学書の読み方。数学者はこうやって読む」およびこの動画の概要欄にある動画がとても参考になります。

高校も含め学生時代にこの読み方を知っていたら、もっと数学をたのしめたように思います。現在、この読み方で専門書を読んでいます。これまでの読み方と比べると随分らくになりました。



上の本は絶版ですが、次の本なら現在(2022.8.1)でも入手可能です。

      [2] 樹下 真一 著『組合せ論入門』(共立出版)

情報系の離散数学入門コースの教材としてつくられていて、この本でどのようなことを学ぶのかを知り、興味をもったらさらに読み進めていけばいいと思います。立ち読み、もしくは図書館で借りて取り敢えず読むというのもありです。
([1][3]の本は手元にあるのですが、この本は所有していないので各自で調べてください)


次の本は絶版ですが、場合の数の先に何があるかを大まかに知ることができる薄い本です。

                [3] 野崎昭弘 著『組合せ論・グラフ理論』(日本評論社)
            (現代応用数学の基礎シリーズの1冊)

第1章が組合せ論で、2節まででも十分おもしろいと思います。3節、4節は同値類、群、べき級数の知識が必要になります。その説明もあるのですが、一度も学んだことがなければ険しい道かと思います。


補遺
専門書によっては、その本で使用する知識を第1章で紹介していることがありますが、現代数学の基礎となる 微積分、線形代数、集合と位相、群と環 は各大学で参考書に挙げている本(各大学のHPのシラバスで確認できます)で学んだ方がいいように思います。名著と呼ばれる難しい本でなく、理工系向けと書かれている本で十分だと思います。その上でより詳しく知りたくなったら、それなりの本を読めばいいのだといまは思います。なお、洋書が読み難いのは最初だけです。日本語の方が分かり難いということは結構あります。ふだん数学者は英仏文に目を通しているので、日本語で数学を書くのが苦手なのだと思います。▢

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...