2022/08/13

場合の数が顔を出すところ

高校数学で学ぶ「場合の数」には「確率」が付きものですが、これは 古典的確率 と呼ばれる ラプラス(P-S.Laplace) による定義を用いているからです(※1)。試行における各事象が "同様に確からしい" ことを前提にして、全事象Ωが N 通り でその中の事象Aが a 通り のとき事象Aの起こる確率P(A) を $\dfrac{a}{\:N\:}$ と定義する というものです。(※2)

この定義は直観と合致し、割合として捉えられるので分かりやすいですね。ただ "同様に確からしい" って何なのとなると "起こり得る確率が等しい" となり確率が出てきてしまいます。これを起こる頻度とか起こる割合って言い直しても、頻度とか割合は確率の言い換えなので意味がありません。ここが欠点です。


閑話休題。場合の数がすぐに活かされるので、確率と1セットにされます。確率以外の要素も出そうとすると、突然、二項定理や約数の個数が話題に上がりますが、単発的でおもしろ味に欠けます。数式の計算や集合、そして場合の数は数学の至る所に顔を出すので基礎知識として組み直すと少しはさっぱりするかもしれません。

[1] 二項定理というのは、2項の多項式のベキ $(x+y)^n$ を展開したときの関係式

             $(x+y)^n=\displaystyle \sum_{k=0}^{n}\dbinom{n}{k}x^{n-k}y^k$

のことです。$\dbinom{n}{k}$ は $_nC_k$ と同じ意味です。文字n,kが大きく書けるのが利点です。このように二項定理の係数として現れるので、$\dbinom{n}{k}$ は二項係数とも呼ばれます。


[2] 約数の個数というのは、例えば 600の正の約数の個数は次のように求められます:

600を素因数分解すると $600=2^3 \cdot 3 \cdot 5^2$ となるから約数の形は $2^l3^m5^n$ です。いま、$l=0, 1, 2, 3, \: m=0, 1, \: n=0, 1, 2$ のいずれかなので、積の法則を用いて $4・2・3=24$ 個と判ります。



[3] 整数と絡めた次のような問題が考えられます。

$X, \: Y, \: Z$ を0以上の整数とする。方程式 $X+Y+Z=8$ を満たす解の組 $(X, Y, Z)$ は何個あるか。

このときの個数は $\dbinom{10}{2}$ で求めることができます。

この話は『理一の数学事始め』シリーズ21の21(2022.8.18 公開)をご覧ください。



[4] 集合 $A=\{a, \: b, \: c, \: d, \: e \}$ の部分集合の個数で使われます。この個数は積の法則を使って $2^5$ 個です。この話は数学事始めシリーズ21の7 の練習問題(3)で紹介しました。

集合Aのすべての部分集合全体をベキ集合(power set) といい $\mathcal{P}(A)$ という記号を用いたりもしますが、集合Aが有限集合でその元の個数を $|A|$ で表すとベキ集合の個数が $2^{|A|}$ と表せることから、Aのベキ集合を $2^A$ と書いたりもします。ベキ集合の一般的定義は

                                    $\mathcal{P}(A):=\{X \mid X \subset A \}$

です。もちろん、記号 $2^A$ でも構いません。



[5] 医学部・難関大学の受験を経験すると、ガンマ関数と階乗との関係を知ると思います。
ガンマ関数 $\Gamma (x)$ は

                                     $\Gamma (x):=\displaystyle \int^{\infty}_{0}t^{x-1}e^{-t}dt$

と定義され上端が $\infty$ なので広義積分と呼ばれるものなのですが、極限記号を利用して $\infty$ を $p$ にして $p \rightarrow \infty$ すれば高校生でも扱えると思います。この他にある極限値を仮定すれば計算も出来ます。問題を

            等式 $\Gamma (x+1)=x\Gamma (x)$ を証明せよ

とすれば解けると思います。特に $x$ が正の整数nのとき

            $\Gamma (n)=(n-1)!$ が成り立つことを示せ

で大学入試問題になります。過去問でこのような問題を見たように思います。この関数がおもしろくなるのは複素解析を学んでからです。数論でも扱います。


その他、テイラー展開(高校数学Ⅲの教科書でも少し触れてます)で階乗が顔を出します。



このように至る所に場合の数は顔を出すので、場合の数は基礎の1つです。
[1]~[5] を紹介しましたが、真っ先に思い浮かんだ例は n次対称群 でした。この話をするなら置換群対称群の話もしたいのですが、写像(単射、全射、双射)の話をしていないので見送ることにしました。置換群は線形代数の行列式で出てくるのでおもしろいと思います。ただ、線形代数は大学1年で扱うのでの色は薄く、「だから何」というくらいの繋がりなので群より行列式の計算が主だと思います。私はそうでした。▢


※1 ラプラスによる確率の定義は、古典的の他に算術的、先験的なども冠されます。これは他の確率と区別するための便宜的呼び名です。

※2 確率を公理的に扱うと 集合、測度、ルベーグ積分 が活躍するようで、解析が好きな人にはおもしろい話のようです。実解析...辛かった思い出しかありません。気にはなっているので、何度かページをめくっています。

余談
『数学事始め』シリーズ21で紹介した記号は階乗記号!と組合せ記号 $\binom{n}{r}$ だけで、公式としては和の法則、積の法則の2つです。上で挙げたように階乗と組合せは大学以降もよく使います。順列記号Pや重複組合せ記号Hは紹介していません。重複順列、円順列、同じものを含む順列などの公式も紹介していません。円順列の公式は軽く触れた程度です。考え方を重視したいからです。
場合の数を友達でもいいから教える立場になったときによくあるのは「Pなの?Cなの?どの公式なの?」という反応です。このような数学は苦痛でしかないと思います。歴史の年号の暗記が苦痛なのと同じです。歴史は流れや事件が起こった原因を知るのがおもしろいし、古典だって活用や読み下し方でなく、その当時の人たちの考え方を知るのがおもしろいですよね。古典を学びたくなるのは外国語文献をその人の言語で読みたいという気持ちと同じだと思います。数学も原書で読むときはこの気持ちになります。▮

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ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...