2022/12/24

虚数の平方根? ~高校数学、代数学、複素解析学~

 問題 $\sqrt{2\:}\: i$ と $\sqrt{2i\:}$ は等しいのか等しくないのか。
  等しくない場合 $\sqrt{2i\:}$ はどのような複素数か $a+bi \: (a, \: b \in \mathbb{R})$ の形で表せ。


みなさんは2次方程式 $3x^2-2x+1=0$ を解いたときに

$$x=\dfrac{1 \pm \sqrt{2i}}{3}$$

というように書いてしまったがあるでしょうか。

初めて虚数単位を習ったのは中3数学でした。ルートの中身がマイナスのときには $i$ を付けて表現する方法があると教えてくれたからです。当時の学習指導要領にどう書かれていたかは知りません。ひょっとしたら、問題作成ミスでルートの中身がマイナスになるものが含まれてしまったのかもしれません。

高校で再び根の公式および虚数単位を習いルートの中身がマイナスになったときは $i$ を使って書くと教えられました。でもルートの中身がマイナスになったら $i$ を付けると覚えているだけなので $\sqrt{-2}$ を $\sqrt{2\:}\: i$ と書かずに $\sqrt{2i\:}$ と書いてしまうことがありました。理解して書いている訳ではないので、間違っているなんて思ってもいませんでした。

数学演習の時間に $\sqrt{2\:}\: i$ と $\sqrt{2i\:}$ は別の数だと指摘されて初めて認識しました。数学演習は別の教師が指導していたので説明も多少異なり

$$\sqrt{-2\:}=\sqrt{2\:}\sqrt{-1\:}=\sqrt{2\:}\: i$$

と説明されて正しい表記を覚えました(※1)。それまでは $i$ を $\sqrt{\:\:}$ のすぐ横に書いていたので、ルート記号の屋根に入ったり入らなかったりしていたのです。書き方は理解しましたが $\sqrt{2\:}\: i$ と $\sqrt{2i\:}$ がどう異なるかの説明はありませんでした。勉強嫌いの集団だったので難しい話を避けたのだと思います。この頃は質問するような生徒ではありませんでした。


ここで最初の問題になります。

                   問題 $\sqrt{2\:}\: i$ と $\sqrt{2i\:}$ は等しいのか等しくないのか。


これに答えるには $\sqrt{2i\:}$ を $a+bi \: (a, \: b \in \mathbb{R})$ のように表せれば解決します。でもここで問題が生じます


              $\sqrt{2i\:}$ はどういう意味なのでしょうか。


$i=\sqrt{-1\:}$ と定義していますが、これは2次方程式 $ax^2+bx+c=0 \: (a, \: b, \: c \in \mathbb{R})$ を根の公式で解いたときにルートの中身がマイナスになったときの処理方法で使うことが前提になっています。つまり、ルートの中身は実数です。虚数は想定していません。

したがって、定義しないと話が進められません。ということは高校数学の範囲では解決する術がありません。つまり $\sqrt{2i\:}$ 自体が考えられないのです。


答え 高校数学では問題自体が成り立たない。

なーんだと思いますよね。でも定義していないので仕方ありません。なお、高校数学Ⅲの複素数平面でも定義されてません。


ここから大学以降の数学になります。

代数ではルート記号は形式的なものと捉え、次のように解釈します(※2):

           $\sqrt{2i\:}$ は自乗すると $2i$ となる複素数を表す。


したがって $\sqrt{2i\:}$ は2次方程式 $x^2=2i$ の根ということになります。
:この解釈によって2次方程式の根の公式は複素数係数でも使えます)


ここで実数 $a, \: b$ に対して

$$x=a+bi$$

と置き、 $x^2=2i$ に代入して

$$2i=(a+bi)^2=(a^2-b^2)+2abi$$

を満たす $a, \: b$ を求めれば問題は解決します。実部、虚部を比較し

$$a^2-b^2=0 \: \text{かつ} \: 2ab=2.$$

第二式から $a, \: b$ は同符号なので、第一式から $a=b$ を得ます。

したがって

$$a=b=\pm 1.$$

よって

$$\sqrt{2i\:}=1+i \:\: \text{または} \:\: \sqrt{2i\:}=-1-i.$$

ゆえに

$$\sqrt{2\:}\: i \neq \sqrt{2i\:}. ▮$$


複素解析では次のように考えます。

$z$ を複素変数とするベキ関数 $f(z)=z^a \: (a \in \mathbb{C})$ は (複素変数の) 指数関数および対数関数を用いて次のように定義されます:

$$f(z):=e^{a \log z}=\exp(a \log z).$$

ここで、$\sqrt[n]{z}=z^{\frac{1}{n}}$.  特に $\sqrt{z}=z^{\frac{1}{2}}$とする。

これにより

  $\sqrt{2i\:}=(2i)^{\frac{1}{2}}=\exp({\frac{1}{2} \log 2i})$,

  $2i=2\exp(i \frac{\pi}{2})=2\exp(i \frac{\pi}{2}) \cdot \exp(i 2n \pi)=2\exp(i (2n+\frac{1}{2}) \pi) \: (n \in \mathbb{Z})$

であるから

$$\log 2i=\log2+(2n+\frac{1}{2})\pi i ,$$

$$\frac{1}{2}\log 2i=\frac{1}{2}\log2+(n+\frac{1}{4})\pi i$$

となり

$$\sqrt{2i\:}=\exp\Big(\frac{1}{2} \log 2 +i(n+\frac{1}{4})\pi\Big)=\exp\Big(\frac{1}{2} \log 2\Big) \cdot \exp\Big(i(n+\frac{1}{4})\pi \Big)$$

              $=\sqrt{2\:}\cdot \Big(\pm\frac{1}{\sqrt{2\:}}\pm\frac{1}{\sqrt{2\:}}i\Big)=\pm 1 \pm i .$  (複合同順) 

以下略 ▮


代数と複素解析とで整合性が取れていますね。

記憶違いかもしれませんが、ルート記号を自乗すればルートの中身になる複素数と定義して$\sqrt{i\:}$ を $a+bi \: (a, \: b \in \mathbb{R})$ で表せという大学入試問題があったと思います。▢


※1 $\sqrt{-2\:}=\sqrt{2\:}\sqrt{-1\:}=\sqrt{2\:}\: i$ の説明はもっともらしいのですが、最初の等号も第二の等号も約束です。当時は何の疑いもなく受け入れていました。

$\sqrt{ab\:}=\sqrt{a\:}\sqrt{b\:}$ と出来るのは $a>0, \: b>0$ のときであり、$\sqrt{-1\:}=i$ は約束です。


 実数の場合は $\sqrt{▲}$ と表記すれば、自乗して▲になる正の実数を表しましたね。複素数には正負がないので、$\sqrt{▲}$ は自乗すると▲になる複素数と解釈します。つまりルート記号は形式的なものです。その意味で

$$\sqrt{▲}=▲^{1/2}$$

と指数表記します。 これは解析でも同じように使わます。

形式的に使われる例
合同式 $x^2 \equiv 2 \pmod 7$ の解を形式的に

$$x \equiv \pm \sqrt{2\:} \pmod 7$$

と書き

$$\sqrt{2\:} \equiv 3 \: \text{または} \: \sqrt{2\:} \equiv 4 \pmod 7$$

となります。

有限体 $\mathbb{F_7}$ においては

      $\sqrt{2\:}=3, \: -\sqrt{2\:}=4$ または $\sqrt{2\:}=4, \: -\sqrt{2\:}=3$

と書けます。どちらにするかは決めることになります。

2022/12/10

判別式は何を判別するのか

 方程式の判別式は、本来、重根を持つか否かを判断するものです。

方程式の判別式の定義

       「根の差積の平方を方程式の係数で表したもの」(※0)

が最も明快だと思うのですが...

これだと2次方程式 $ax^2+bx+c=0 \: (a, \: b, \: c \in \mathbb{C})$ の2根を $\alpha, \: \beta$ としたとき判別式 $D$ が

           $D=(\alpha-\beta)^2=(\alpha+\beta)^2-4\alpha\beta$

               $=\big(-\dfrac{b}{\:a\:}\big)^2-4\cdot \dfrac{c}{\:a\:}=\dfrac{\:b^2-4ac\:}{a^2}$

となり、分母に $a^2$ が残るので次のように定義されます。


方程式 $a_0x^n+a_1x^{n-1}+a_2x^{n-2}+\cdot+a_{n-1}x+a_n=0 \: (a_i \in \mathbb{C}, \: 1 \leqq i \leqq n, \: a_0 \neq 0)$

のn個の根を $\alpha_1, \dots , \alpha_n$ としたとき、判別式 $D_n$ を次式で定義する(※1):

$$D_n:=a_0^{2(n-1)}\prod_{i<j}(\alpha_i-\alpha_j)^2.$$


 $D_3=a_0^{2(3-1)}\displaystyle \prod_{i<j}(\alpha_i-\alpha_j)^2$

            $=a_0^4(\alpha_1-\alpha_2)^2(\alpha_1-\alpha_3)^2(\alpha_2-\alpha_3)^2$.


判別式で差積を平方しているのは、平方しないと交代式ですが平方すると対称式になり基本対称式で表せるからです。つまり、方程式の係数で判別式を表すことができることが理由です。

                 定理 対称式は基本対称式を用いて表すことができる。▮



判別式の定義式をみると、方程式が重根を持つために必要十分条件は判別式が0であることが分かります:重根を持つ  $\iff \: D_n=0$.


特に、実数係数2次方程式のとき判別式 $D_2$ と根の関係は
                                   $D_2>0 \: \iff$  異なる2実根,
                                   $D_2=0 \: \iff$  重根(実根),
                                   $D_2<0 \: \iff$  共役な2虚根.

さらに、実数係数3次方程式のとき判別式 $D_3$ と根の関係は
                                   $D_3>0 \: \iff$  異なる3実根,
                                   $D_3=0 \: \iff$  2重根または3重根(実根),
                               $D_3<0 \: \iff$  1実根と共役な2虚根.


このような結果(※2)があると、4次以上の方程式の判別式でも同じような結果が成り立つことを期待してしまいます。ところが結果は否定的です。

例1 4次方程式 $x^4-1=0$ を解くと
    $$0=x^4-1=(x^2)^2-1^2=(x^2-1)(x^2+1),$$
      $$x^2-1=0, \quad x^2+1=0.$$
よって
           $x=\pm 1, \: \pm i$ ($i$ は虚数単位) となる。
このとき判別式 $D_4$ は
$D_4=\big(1-(-1)\big)^2(1-i)^2\big(1-(-i)\big)^2\big((-1)-i\big)^2\big((-1)-(-i)\big)^2\big(i-(-i)\big)^2$
      $=2^2(1-i)^2(1+i)^2(-1-i)^2(-1+i)^2(2i)^2$
      $=2^2\big((1-i)(1+i)\big)^2\big((-1-i)(-1+i)\big)^2(2i)^2<0$.
(共役な複素数の積はプラス、純虚数の平方はマイナスであるから)

つまり、判別式がマイナスでも実根をもつ。▮



例2 4次方程式 $x^4+1=0$ を解くと
   $$0=x^4+1=(x^2+1)^2-2x^2=(x^2+1-\sqrt{2}\: x)(x^2+1+\sqrt{2}\: x).$$
$$x^2-\sqrt{2}\: x+1=0, \: x^2+\sqrt{2}\: x+1=0$$
を根の公式を用いて解くと
$$x=\pm \dfrac{\:\sqrt{2}\:}{2} \pm \dfrac{\:\sqrt{2}\:}{2} \: i.$$

ここで、$a:=\dfrac{\:\sqrt{2}\:}{2}$ と置くと、4つの根は

$$a+ai, \: a-ai, \: -a+ai, \: -a-ai$$

と書けます。先に6つの差を計算すると
          $(a+ai)-(a-ai)=2ai$,
          $(a+ai)-(-a+ai)=2a$,
          $(a+ai)-(-a-ai)=2a+2ai$,
          $(a-ai)-(-a+ai)=2a-2ai$,
          $(a-ai)-(-a-ai)=2a$,
          $(-a+ai)-(-a-ai)=2ai$

したがって判別式 $D_4$ は
$D_4=(2ai)^2(2a)^2(2a+2ai)^2(2a-2ai)^2(2a)^2(2ai)^2$
   $=(2ai)^2(2a)^2\big((2a+2ai)(2a-2ai)\big)^2(2a)^2(2ai)^2>0$
(共役な複素数の積はプラス、純虚数の平方はマイナスで2つあるから)

例を提示しませんが、4つの実根をもつ4次方程式の判別式はプラスです。つまり、判別式がプラスであっても4つの根が実数の場合もあるし、虚数の場合もあるのです。▮

一般に判別式で実根か虚根かの判断はできません。2次、3次方程式は特殊なのです。▢


※0 差積は差の積なので $(x_1-x_2)(x_1-x_3)(x_1-x_4) \cdot (x_1-x_n)$ のような式です。3つの根の差積なら $(\alpha_1-\alpha_2)(\alpha_1-\alpha_3)(\alpha_2-\alpha_3)$.

このような差積を表すのに便利な記号が総積記号 $\prod$ です。総和記号 $\sum$ に似ています。

※1 多くの場合多項式の係数は有理数・実数・複素数のような体(タイ)で考えるのだから、最高次の係数で割って最高次の係数が1のモニック多項式で考えることもできますが、整数(環)係数の多項式を考えてのことなのかと思います。


※2 2次方程式の場合は高校数学で学んでいるので問題ないのですが、3次方程式の場合は証明する必要があります。証明するなら右から左をそれぞれ示し、これらですべての場合を尽くしているので逆向きも成り立つことが言えます。このとき、実数係数の方程式が虚根をもつならこれと共役な虚数も根であることを事実として用います。

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...