方程式の判別式は、本来、重根を持つか否かを判断するものです。
方程式の判別式の定義は
「根の差積の平方を方程式の係数で表したもの」(※0)
が最も明快だと思うのですが...
これだと2次方程式 $ax^2+bx+c=0 \: (a, \: b, \: c \in \mathbb{C})$ の2根を $\alpha, \: \beta$ としたとき判別式 $D$ が
$D=(\alpha-\beta)^2=(\alpha+\beta)^2-4\alpha\beta$
$=\big(-\dfrac{b}{\:a\:}\big)^2-4\cdot \dfrac{c}{\:a\:}=\dfrac{\:b^2-4ac\:}{a^2}$
となり、分母に $a^2$ が残るので次のように定義されます。
方程式 $a_0x^n+a_1x^{n-1}+a_2x^{n-2}+\cdot+a_{n-1}x+a_n=0 \: (a_i \in \mathbb{C}, \: 1 \leqq i \leqq n, \: a_0 \neq 0)$
のn個の根を $\alpha_1, \dots , \alpha_n$ としたとき、判別式 $D_n$ を次式で定義する(※1):
$$D_n:=a_0^{2(n-1)}\prod_{i<j}(\alpha_i-\alpha_j)^2.$$
例 $D_3=a_0^{2(3-1)}\displaystyle \prod_{i<j}(\alpha_i-\alpha_j)^2$
$=a_0^4(\alpha_1-\alpha_2)^2(\alpha_1-\alpha_3)^2(\alpha_2-\alpha_3)^2$.
判別式で差積を平方しているのは、平方しないと交代式ですが平方すると対称式になり基本対称式で表せるからです。つまり、方程式の係数で判別式を表すことができることが理由です。
定理 対称式は基本対称式を用いて表すことができる。▮
判別式の定義式をみると、方程式が重根を持つために必要十分条件は判別式が0であることが分かります:重根を持つ $\iff \: D_n=0$.
特に、実数係数の2次方程式のとき判別式 $D_2$ と根の関係は
$D_2>0 \: \iff$ 異なる2実根,
$D_2=0 \: \iff$ 重根(実根),
$D_2<0 \: \iff$ 共役な2虚根.
さらに、実数係数の3次方程式のとき判別式 $D_3$ と根の関係は
$D_3>0 \: \iff$ 異なる3実根,
$D_3=0 \: \iff$ 2重根または3重根(実根),
$D_3<0 \: \iff$ 1実根と共役な2虚根.
このような結果(※2)があると、4次以上の方程式の判別式でも同じような結果が成り立つことを期待してしまいます。ところが結果は否定的です。
$$x^2-1=0, \quad x^2+1=0.$$
$=2^2(1-i)^2(1+i)^2(-1-i)^2(-1+i)^2(2i)^2$
$=2^2\big((1-i)(1+i)\big)^2\big((-1-i)(-1+i)\big)^2(2i)^2<0$.
$$0=x^4+1=(x^2+1)^2-2x^2=(x^2+1-\sqrt{2}\: x)(x^2+1+\sqrt{2}\: x).$$
※0 差積は差の積なので $(x_1-x_2)(x_1-x_3)(x_1-x_4) \cdot (x_1-x_n)$ のような式です。3つの根の差積なら $(\alpha_1-\alpha_2)(\alpha_1-\alpha_3)(\alpha_2-\alpha_3)$.
このような差積を表すのに便利な記号が総積記号 $\prod$ です。総和記号 $\sum$ に似ています。
※1 多くの場合多項式の係数は有理数・実数・複素数のような体(タイ)で考えるのだから、最高次の係数で割って最高次の係数が1のモニック多項式で考えることもできますが、整数(環)係数の多項式を考えてのことなのかと思います。
※2 2次方程式の場合は高校数学で学んでいるので問題ないのですが、3次方程式の場合は証明する必要があります。証明するなら右から左をそれぞれ示し、これらですべての場合を尽くしているので逆向きも成り立つことが言えます。このとき、実数係数の方程式が虚根をもつならこれと共役な虚数も根であることを事実として用います。
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