2023/01/28

3次方程式の根の公式を導く下準備

 一般の3次方程式は

$$ax^3+bx^2+cx+d=0 \cdots (1)$$

(ただし、$a, \: b, \: c, \: d \in \mathbb{R},\: a \neq 0$)

と表すことができますが、巧みな式変形によって

$$x^3+px+q=0 \quad p, \: q \in \mathbb{R} \cdots (*)$$

のように表すことが出来、導こうとしている根の公式はこの方程式に対するものです。



ではどのように変形するかというと、$a \neq 0$ であるから $(1)$ の両辺を $a$ で割って

$$x^3+\dfrac{\:b\:}{a}x^2+\dfrac{\:c\:}{a}x+\dfrac{\:d\:}{a}=0$$

と出来ます。説明をかんたんにしたいので

$$x^3+b'x^2+c'x+d'=0 \cdots (2)$$
のように書き直します。この式から2次の項が消去できれば $(*)$ を得ます。




$x=y-\dfrac{\:b'\:}{3}$ によって未知数を変換するとうまく行きます。実際 $(2)$ に代入すると
$$\Big(y-\dfrac{\:b'\:}{3}\Big)^3+b'\Big(y-\dfrac{\:b'\:}{3}\Big)^2+c'\Big(y-\dfrac{\:b'\:}{3}\Big)+d'=0,$$
$$y^3+\Big(-\dfrac{1}{\:3\:}b'^2+c'\Big)y+\Big(\dfrac{2}{\:27\:}b'^2-\dfrac{1}{\:3\:}b'c'+d'\Big)=0$$

となり、式は込み入っていますが見事に2次の項が消去できました。この式で $y$ の係数を $p$、定数項を $q$ にし、$y$ を $x$ にして書き直したのが $(*)$ です。

ところで、どのようにして未知数の変換 $x=y-\dfrac{\:b'\:}{3}$ を得たか分かりましたか。「こうすれば上手くいく」も1つの答えですが、時間を掛ければ気づく人もいると思います。
$$(x+a)^3=x^3+3ax^2+3a^2x+a^3$$
の右辺の2次の項に着目して、$b'x^2$ を消去しようと思えば $a=-\frac{\:b'\:}{3}$ としますよね。
仕組みは単純ですが、発見するのはかんたんではありません。
まして $(1)$ が $(*)$ に変形でき、この形が一般的に解けるなんて思えますか。




上でやっていることを具体例で確認しておきましょう。
 根から導いた方程式 $x^3+3x^2-6x-8=0$ を上の未知数の変換を用いて解いてみます。
 なお、この方程式の根は $-4, \: -1, \:2$ です。

$x=y-1$ とすると
$$(y-1)^3+3(y-1)^2-6(y-1)-8=0,$$
$$y^3-9y=0.$$
これを解くと
$$y(y+3)(y-3)=0,$$
$$y=-3, \: 0, \: 3.$$
したがって、元の方程式の根は $x=y-1$ によって
$$x=-4, \: -1, \: 2$$
となり、根が一致しています。▮


次回、3次方程式の根の公式を導きます。▢

2023/01/15

解答解説『解けないと思っていたら・・・』

(再掲) 年賀問題2023

$$\displaystyle \sum_{k=1}^m 2^{k-1}=2023+n!$$

を満たす正の整数の組 $(m, \: n)$ をすべて求めてください。


答え  $(m, \: n)=(11, \: 4)$.  (これ以外に存在しないことの証明が必要です)

 noteで出題したのとは少し変えたので、「m=11」 になっています。

解答例
$$\displaystyle \sum_{k=1}^m 2^{k-1}=2^m-1$$

なので与えられた式は

$$2^m-2024=n!$$

と変形できます。ここで $n!>0$ より $m>10$ であり、 $2024=2^3\cdot 11 \cdot 23$ であることから $2^3$ で括って

$$2^3\cdot (2^{m-3}-11 \cdot 23)=n!.$$

右辺が階乗なので、左辺も階乗の形にならなければなりません。そこで必要条件を考えてみます。見やすいように左辺をもう少し変形してみます。

$$4\cdot 2\cdot 1\cdot (2^{m-3}-11 \cdot 23)=n!. \quad \cdots (*)$$

すると $2^{m-3}-11 \cdot 23$ が3を因数に持たなければならないことが分かります。
そこで mod 3 で考えると

$$2^{m-3} \equiv 11 \cdot 23 \equiv 1 \pmod 3 .$$

$2 \equiv -1 \pmod 3$ より

$$(-1)^{m-3} \equiv 1 \pmod 3$$

なので

$$m-3 \equiv 0 \pmod 2 ,$$

$$m \equiv 1 \pmod 2 \quad \cdots [1]$$

であることが必要です。

さらに $n \geqq 5$ で (*) が成り立つには  $2^{m-3}-11 \cdot 23$ が5を因数に持たなければならないので

$$2^{m-3} \equiv 11 \cdot 23 \equiv 3 \pmod 5 .$$

でなければならず、$3 \equiv 8=2^3 \pmod 5$ かつ $2^4 \equiv 1 \pmod 5$ より

$$m-3 \equiv 3 \pmod 4 ,$$

$$m \equiv 6 \equiv 2 \pmod 4 \quad \cdots [2]$$

である必要があります。ところが [1], [2] を同時にみたす整数 $m$ は存在しないので、$n \geqq 5$ で (*) が成り立つことはありません。したがって (*) が成り立つには

$$2^{m-3}-11 \cdot 23=3$$

のときしかあり得ず

$$2^{m-3}=11 \cdot 23+3=256=2^8$$

から $m=11$ のときのみです。このとき $n=4$ です。▮

(補足) [1], [2] を同時にみたすmが存在しない理由は、[1] を満たすmは奇数で [2] を満たすmが偶数だからです。



種の元
原案では $n!$ の部分を $n^2$ にしていました。これは

$$2023=1+2+2^2+2^5+2^6+2^7+2^8+2^9+2^{10}$$

で、2023 に 25 を足せば $2048=2^{11}$ となることから

$$2023+n^2=2^m$$

と勘違いしてのものでした(※1)。

$$\displaystyle \sum_{k=1}^m 2^{k-1}=2023+n^2$$

とした場合には解が存在しなく、うまく修正も出来なかったので已む無く $n!$ にし、これを note で出題しました。$n$ を大きくするに連れて急速に $n!$ は大きくなるので、あまり検討しないまま一般的に解けないだろうと判断し1組だけ見つける形にしました。

投稿後問題が気になり、一般的に解けないだろうと思いつつ他に解をもつ条件を考えていたら解けたのです。どこかに誤りがあるだろうと思っていたのですが、見つけられなかったので急遽投稿したのです。▢


※1 この式も一般的に解けますが、これが分かったのは 2023.1.14 です。

2023/01/08

年賀問題の種明かし

2023年の年賀問題

$$2023=m^2-n^2$$

を満たす正の整数の組 $(m, \: n)$ をすべて求めてください。


年賀問題の答え $(m, \: n)=(68, \: 51), \: (148, \: 141), \:(1012, \: 1011).$



すべて見つけられましたか。問題のアイディアは

$$2023=7 \cdot 17^2$$

で、$7=16-9=4^2-3^2$ と出来ることから得ました。これにより

$$2023=7 \cdot 17^2=(4^2-3^2) \cdot 17^2=(4 \cdot 17)^2-(3 \cdot 17)^2$$

が得られるのでこれを一般化して問題にしました。



解説

$$7 \cdot 17^2=2023=m^2-n^2=(m+n)(m-n)$$

$m, \: n$ が正の整数なので $m+n > m-n$ です。幸い 2023 の約数がすべて奇数なので

$$(m+n, \: m-n)=(7 \cdot 17^2, \: 1), \: (17^2, \: 7), \: (7 \cdot 17, \: 17)$$

の3組を解いたのが答えになります。▮


※ 1月1日12時に投稿した『解けないと思っていたら・・・ ~年賀問題2023(note版)~』の解答は1月15日に投稿予定です。

2023/01/01

解けないと思っていたら・・・ ~年賀問題2023(note版)~

迎春2023

解けないと思っていた問題が解けたようです。

noteでは『理一の数学事始め』を書いていて、今年はnote版にも年賀問題を投稿しました。note版はそこで話した範囲で解ける問題というのが条件です。

note版に投稿した問題は当初の問題を少し変えた形で、その問題をこちらに投稿しようと考えていたのですが解が存在しないことが分かり諦めたのです。それを修正したのがnote版で、その一般的な解法が見つからなかったので「一組挙げよ」という形にしました。こちらに投稿した問題は、元々はnote版として用意していたものです。


ところが先ほど考えていたら一般的に解け・・・ました(怪しい)。問題は次の通りです:


年賀問題2023

$$\displaystyle \sum_{k=1}^m 2^{k-1}=2023+n!$$

を満たす正の整数の組 $(m, \: n)$ をすべて求めてください。


:一般的に解けたと判断していますが、後日、もう一度その解答を見直して間違いが見つかるかもしれません。そのときは訂正の報告をします。



ちなにみ原案は次の通りです:

$$\displaystyle \sum_{k=1}^m 2^{k-1}=2023+n^2$$

を満たす正の整数の組 $(m, \: n)$ をすべて求めてください。


※ これは解を持たないというのが答えです。「解がないことを示せ」という問題は好まれないので却下しました。▢

年賀問題2023 ~みなさんにとって素敵な年になりますように~

今年も年賀問題を作ってみました。たのしんでもらえると幸いです。


年賀問題  

$$2023=m^2-n^2$$

を満たす正の整数の組 $(m, \: n)$ をすべて求めよ。


般若湯やおせちなどをお伴に気楽に考えてみてください。

2023.1.1 こと はじめ

※1月8日9時30分に解答を公開します。

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...