内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。
現在、『数学事始め』では指数関数・対数関数の話をしています。この機会に雑談としてまとめておこうと思います。
※ 有料記事になっていますが、ロハで見られる範囲を設定しています。
(その1) 教科書の章末問題に次のようなものがあります:
問題1 a^{\log_ab}=b を証明せよ。
問題2 4^{-\log_23} をかんたんにせよ。
問題1は何をさせたいのでしょうか。問題2は対数の定義をした後に載せてもいいくらいの基本問題です。
問題2に関しては、ある高校の非常勤講師をしていたときにこのようなことがありました。ある教諭と授業の話をしていたときに、その教諭が次のような解答をしました:
A氏の解答 x=4^{-\log_23} とおくと
\log_4x=-\log_23
\dfrac{\:\log_2x\:}{\log_24}=-\log_23
\log_2x=-2\log_23
\log_2x=\log_2\dfrac{1}{\:9\:}
\therefore \:\: x=\dfrac{1}{\:9\:}\://
答えは合っていますが、定義を理解していない解き方にみえます。その教諭は某国大大学院を修了されている上、受験数学にも造詣の深い方です。
高校数学の教科書には
a>0, \: a\neq1 かつ M>0 とするとき
M=a^p \iff \log_aM=p \quad (★)
とあるので、高校生に提示するには自然なのかもしれません。こうみると問題1もそういうことなのでしょうか。でも問題1は定義から明らかですよね。「明らか」というのは問題がありそうなので " \log_ab の定義そのものである " とでも書くのでしょうか。
例えば「a>0 のとき (\sqrt{a})^2=a であることを証明せよ」って言われたら困りませんか。
本当に数学研究者が執筆したのでしょうか。ひょっとして(★)は定義のつもりで書かれているのでしょうか。
その他の話題
(その2) _nC_r=\dfrac{n!}{r!(n-r)!} は定義?
(その3) 方程式 x^2=i の解を x=\pm\sqrt{i} とするのは間違いである。高校数学ではルートの中に虚数を入れてはいけないから?
(その4) 方程式 6x^3+13x^2-4=0 の整数解を求めよ。
解答 (x+2)(2x-1)(3x+2)=0
\therefore \: x=-2, \: \dfrac{1}{\:2\:}, \: -\dfrac{2}{\:3\:}
x=\dfrac{1}{\:2\:}, \: -\dfrac{2}{\:3\:} は分数であるから
x=-2 \://
(その2)について 定義にしても構いませんが、そのときは組み合わせの数が _nC_r で求められることを示す必要があります。高校の教科書では組み合わせの数として定義しているので、定義から得られる性質です。
なお、関数 (x+a)^\alpha のテイラー展開で、展開式を簡略化するために二項係数を
\binom{\alpha}{r}:=\dfrac{\alpha(\alpha-1)(\alpha-2)\cdots (\alpha-r+1)}{r!}
と定義します。このときの \alpha は実数で、正の整数のときは二項係数 _{\alpha}C_r と一致します。でも大事な数が小さいので C あまり使われません。
これと混同しているのかもしれません。
(その3)について いろいろ問題があります。確かに x=\pm\sqrt{i} は間違いであるし、高校数学では虚数のルートは定義していないようです。でも高校生にとっては自然な解答に見えます。教科書もこの問題もそうですが、どの範囲で方程式を解くのかについては曖昧にしています。それに i が何を表すのかも示されていません。出題者は虚数単位を想定しているのでしょうが断るべきです。このようなことが起こるのは問題文に不備があるからなので、未知数 x の範囲を指定し、i=\sqrt{-1} であることも断っておきます。さらに解が虚数となる場合は a+bi \:\: (a, \: b \in \mathbb{R})
と表記することも付け加えておきます。このようにしておけば、正答とその導き方を示すだけでなく、なぜ x=\pm\sqrt{i} が間違いであるかも明確に示せます。実際、これでは4通りの値が示されています。詳しくは過去記事の「虚数の平方根?」をご覧ください。
なお、i^2=-1 と表記しても構いませんが、この場合は i=\sqrt{-1} なのか i=-\sqrt{-1} なのかは分かりません。これは \omega^3=1 とした場合の虚数 \omega が
\omega=\dfrac{-1+\sqrt{-3}}{2}\quad \text{or} \quad \omega=\dfrac{-1-\sqrt{-3}}{2}
のどちらなのかが分からないのと同じです。
(その4)について 問題文を読み解くと "整数の範囲で解け" ということなので
x=\dfrac{1}{\:2\:}, \: -\dfrac{2}{\:3\:} は分数であるから x=-2 \://
は減点されると思います。とは言っても、このような説明を大学の先生もしているところを見たことがあるので、減点されないかもしれません。中高生の定期テストでは減点されないと思います。ここまで指導できる時間がないと思うからです。国立大学入試の記述式では分かりません。意図的に出題していると考えられるからです。その場合は
(再掲) 方程式 6x^3+13x^2-4=0 の整数解を求めよ。
解答 (x+2)(2x-1)(3x+2)=0,
x+2=0, \: 2x-1=0 \:\: \text{or} \:\: 3x+2=0,
x=-2, \: 2x=1 \:\: \text{or} \:\: 3x=-2.
2x=1 および 3x=-2 は整数解を持たない. なぜなら 2x=1 の左辺は偶数だが右辺は奇数であり, 3x=-2 の左辺は3を因数にもつが右辺は3を因数にもたないからである.
よって x=-2. ▮
のようにします。現行課程では「整数」も扱うようになりましたが、それでも難しいように思います。「整数解を持たないことを示せ」というようなことを入れておけば、解けると思います。
もう一つ触れておきたい話題があるのですが、記憶が定かでないので書けません。内容はある高校での授業で「単射」を説明されそれについての質問だったのですが、そのノートをみても私も分かりませんでした。定義域、対応が明確でなく、定義式も何かおかしいのです。なので思い出そうと思っても思い出せないのです。以前書いた「写像(全射, 単射, 双射)」とは異なるという記憶しかありません。板書の写し間違いだったのかもしれません。
最初に触れたA氏のような解答は、広く名の知られている参考書にあるようです。▢
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