問題 \sqrt{2\:}\: i と \sqrt{2i\:} は等しいのか等しくないのか。
等しくない場合 \sqrt{2i\:} はどのような複素数か a+bi \: (a, \: b \in \mathbb{R}) の形で表せ。
みなさんは2次方程式 3x^2-2x+1=0 を解いたときに
x=\dfrac{1 \pm \sqrt{2i}}{3}
というように書いてしまったがあるでしょうか。
初めて虚数単位を習ったのは中3数学でした。ルートの中身がマイナスのときには i を付けて表現する方法があると教えてくれたからです。当時の学習指導要領にどう書かれていたかは知りません。ひょっとしたら、問題作成ミスでルートの中身がマイナスになるものが含まれてしまったのかもしれません。
高校で再び根の公式および虚数単位を習いルートの中身がマイナスになったときは i を使って書くと教えられました。でもルートの中身がマイナスになったら i を付けると覚えているだけなので \sqrt{-2} を \sqrt{2\:}\: i と書かずに \sqrt{2i\:} と書いてしまうことがありました。理解して書いている訳ではないので、間違っているなんて思ってもいませんでした。
数学演習の時間に \sqrt{2\:}\: i と \sqrt{2i\:} は別の数だと指摘されて初めて認識しました。数学演習は別の教師が指導していたので説明も多少異なり
\sqrt{-2\:}=\sqrt{2\:}\sqrt{-1\:}=\sqrt{2\:}\: i
と説明されて正しい表記を覚えました(※1)。それまでは i を \sqrt{\:\:} のすぐ横に書いていたので、ルート記号の屋根に入ったり入らなかったりしていたのです。書き方は理解しましたが \sqrt{2\:}\: i と \sqrt{2i\:} がどう異なるかの説明はありませんでした。勉強嫌いの集団だったので難しい話を避けたのだと思います。この頃は質問するような生徒ではありませんでした。
ここで最初の問題になります。
問題 \sqrt{2\:}\: i と \sqrt{2i\:} は等しいのか等しくないのか。
これに答えるには \sqrt{2i\:} を a+bi \: (a, \: b \in \mathbb{R}) のように表せれば解決します。でもここで問題が生じます。
\sqrt{2i\:} はどういう意味なのでしょうか。
i=\sqrt{-1\:} と定義していますが、これは2次方程式 ax^2+bx+c=0 \: (a, \: b, \: c \in \mathbb{R}) を根の公式で解いたときにルートの中身がマイナスになったときの処理方法で使うことが前提になっています。つまり、ルートの中身は実数です。虚数は想定していません。
したがって、定義しないと話が進められません。ということは高校数学の範囲では解決する術がありません。つまり \sqrt{2i\:} 自体が考えられないのです。
答え 高校数学では問題自体が成り立たない。
なーんだと思いますよね。でも定義していないので仕方ありません。なお、高校数学Ⅲの複素数平面でも定義されてません。
ここから大学以降の数学になります。
代数ではルート記号は形式的なものと捉え、次のように解釈します(※2):
\sqrt{2i\:} は自乗すると 2i となる複素数を表す。
したがって \sqrt{2i\:} は2次方程式 x^2=2i の根ということになります。
(注:この解釈によって2次方程式の根の公式は複素数係数でも使えます)
ここで実数 a, \: b に対して
x=a+bi
と置き、 x^2=2i に代入して
2i=(a+bi)^2=(a^2-b^2)+2abi
を満たす a, \: b を求めれば問題は解決します。実部、虚部を比較し
a^2-b^2=0 \: \text{かつ} \: 2ab=2.
第二式から a, \: b は同符号なので、第一式から a=b を得ます。
したがって
a=b=\pm 1.
よって
\sqrt{2i\:}=1+i \:\: \text{または} \:\: \sqrt{2i\:}=-1-i.
ゆえに
\sqrt{2\:}\: i \neq \sqrt{2i\:}. ▮
複素解析では次のように考えます。
z を複素変数とするベキ関数 f(z)=z^a \: (a \in \mathbb{C}) は (複素変数の) 指数関数および対数関数を用いて次のように定義されます:
f(z):=e^{a \log z}=\exp(a \log z).
ここで、\sqrt[n]{z}=z^{\frac{1}{n}}. 特に \sqrt{z}=z^{\frac{1}{2}}とする。
これにより
\sqrt{2i\:}=(2i)^{\frac{1}{2}}=\exp({\frac{1}{2} \log 2i}),
2i=2\exp(i \frac{\pi}{2})=2\exp(i \frac{\pi}{2}) \cdot \exp(i 2n \pi)=2\exp(i (2n+\frac{1}{2}) \pi) \: (n \in \mathbb{Z})
であるから
\log 2i=\log2+(2n+\frac{1}{2})\pi i ,
\frac{1}{2}\log 2i=\frac{1}{2}\log2+(n+\frac{1}{4})\pi i
となり
\sqrt{2i\:}=\exp\Big(\frac{1}{2} \log 2 +i(n+\frac{1}{4})\pi\Big)=\exp\Big(\frac{1}{2} \log 2\Big) \cdot \exp\Big(i(n+\frac{1}{4})\pi \Big)
=\sqrt{2\:}\cdot \Big(\pm\frac{1}{\sqrt{2\:}}\pm\frac{1}{\sqrt{2\:}}i\Big)=\pm 1 \pm i . (複合同順)
以下略 ▮
代数と複素解析とで整合性が取れていますね。
記憶違いかもしれませんが、ルート記号を自乗すればルートの中身になる複素数と定義して\sqrt{i\:} を a+bi \: (a, \: b \in \mathbb{R}) で表せという大学入試問題があったと思います。▢
※1 \sqrt{-2\:}=\sqrt{2\:}\sqrt{-1\:}=\sqrt{2\:}\: i の説明はもっともらしいのですが、最初の等号も第二の等号も約束です。当時は何の疑いもなく受け入れていました。
\sqrt{ab\:}=\sqrt{a\:}\sqrt{b\:} と出来るのは a>0, \: b>0 のときであり、\sqrt{-1\:}=i は約束です。
※2 実数の場合は \sqrt{▲} と表記すれば、自乗して▲になる正の実数を表しましたね。複素数には正負がないので、\sqrt{▲} は自乗すると▲になる複素数と解釈します。つまりルート記号は形式的なものです。その意味で
\sqrt{▲}=▲^{1/2}
と指数表記します。 これは解析でも同じように使わます。
形式的に使われる例
合同式 x^2 \equiv 2 \pmod 7 の解を形式的に
x \equiv \pm \sqrt{2\:} \pmod 7
と書き
\sqrt{2\:} \equiv 3 \: \text{または} \: \sqrt{2\:} \equiv 4 \pmod 7
となります。
有限体 \mathbb{F_7} においては
\sqrt{2\:}=3, \: -\sqrt{2\:}=4 または \sqrt{2\:}=4, \: -\sqrt{2\:}=3
と書けます。どちらにするかは決めることになります。
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