2023/04/30

「カラスは黒い」の否定は?  ~ろんり・論理・ロジック~

                「カラスは黒い」

を否定してください。





              「カラスは黒くない」

ではありません。

              「黒くないカラスがいる」

もしくは

              「あるカラスは黒くない」

となります。



ではなぜなのかをそれらしく思える手順で考察していきます。もしも形式的な説明を早く知りたいなら、この部分を飛ばして下の方の3⃣に進んでください。

考察を通じて

        「カラスは黒くない」と「あるカラスは黒くない」

が異なることを主張していることもわかります。



「カラスは黒い」を分析してみましょう。

このときのカラスは1羽でしょうか。それともカラス全体でしょうか。日本語は冠詞を付けなくても前後関係から複数か単数かを判断しますが、この場合は「カラス全体」を指していると判断するのが自然だと思います。曖昧さを無くしたいのなら、冠詞を意識して表現するのが良いですね。数学の議論をするときには曖昧さを避けるために

             「どのカラスも黒い」

もしくは

             「カラス ならば 黒い」

などと表現します。他にも表現はできそうですが、この2つで考察を進めます。

1⃣ まずは「どのカラスも黒い」を絵で表現してみます。カラスを四角で表すことにすると、1羽の黒いカラスは■で表すことができます。したがって「どのカラスも黒い」は

      ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

と表現できます。数が少ないですが、気持ちをこれですべてのカラスを表しているとみてください。これを否定するにはどうすればいいでしょうか。よくあるのは

      ▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢

のようにすべてを黒くないカラスにしてしまうものですが、否定するだけなので全否定しなくてもいいのです。例えば

      ■■■■■■■■■■■■■■■■▢■■■■■■■■■■■■

は「どのカラスも黒い」ではありませんね。ここ↑に黒くないカラスが一羽います。

このように1羽でも黒くないカラスがいればいいので

         「少なくとも1羽は黒くないカラスがいる」

で否定になっています。


2⃣ もう一つの「カラス ならば 黒い」についても考察してみます。
少し強調した感じで言い直すと

            「カラス ならば 必ず黒い」

       「カラス ならば 必ず黒く、黒くないことはない」

ということは

        「カラス であって 黒くないカラスはいない」

となります。したがって、黒くないカラスが1羽でもいれば否定したことになるので

            「黒くないカラスがいる」

で否定になります。




3⃣ 最後に、形式的な話をしておきます。高校数学でも触れられたりするようですが、数学科の1年生で習うことです。

条件をp, qで表すことにします。このとき

           「pである」の否定は「pでない」
           「pでない」の否定は「pである」

      「すべてpである」の否定は「pでないものが存在する」
       「あるものはpでない」の否定は「すべてpである」
※ 「pでないものが存在する」と「あるものはpでない」は同じことを意味しています。

       「pかつq」の否定は「pでない または qでない」
       「pまたはq」の否定は「pでなく かつ qでない」

     「pならばqである」と「pでない または qである」は同値
したがって
       「pならばqである」の否定は「pであるがqでない」


集合を利用して、次のように考えることもできます:

  条件「pである」を満たすもの全体をP, 条件「qである」を満たすもの全体をQ

とすると「pならばqである」は「$P\subset Q$」なので、否定すると「$P\not\subset Q$」。したがって「pであるがqでない」となります。


毎回、毎回 1⃣や2⃣のように考えることはせず、3⃣を使って形式的に考えます。言い換えれば数学の公式のように使うのです。きちんとこの辺りのことを知りたいのなら、下に挙げた参考書をご覧ください。大学生以上なら『論理哲学論考』がおもしろいと思います。



注:数学科だと多くの場合、記号で学ぶと思います。その方が覚えやすくかつ実践的だからです。これを数学科で学ぶのは悪名高い

     「イプシロン論法」「イプシロン-n論法」「イプシロン-デルタ論法」

のためです。そうでなければ集合・位相の最初の方で学ぶと思います。


新しい教育課程なら高校国語で論理の基礎を学ぶのかもしれません。▢


論理に関する参考書

      L.ヴィトゲンシュタイン著『論理哲学論考』(岩波文庫)
      山下正男著『論理的に考えること』(岩波ジュニア新書)

数学的なもの

    細井勉著『イプシロン・デルタを理解するために』(日本評論社)

2023/04/09

関数のグラフと図形は違うの? ~[続] 中高数学の壁~

     関数のグラフは図形ですが、図形が関数のグラフとは限りません。


※ ここでいう関数は実数 $x$ を変数とする実数値関数 $y=f(x)$ のことであり、図形は方程式 $F(x, y)=0$ の実数解を $xy$ 平面上の点とみたときの点全体のことです。


書いた動機

高校数学Ⅱで図形の方程式を学び、高校数学Ⅲで2次曲線として放物線を学びます。放物線は2次関数で学んだはずなのに再び学び、式の形が $y^2=4px \: (p \in \mathbb{R})$ となります。「この式は2次関数じゃないの?」その前に中学数学で学ぶ「直線の式は関数じゃないの?」と思いませんでしたか。
数学事始めシリーズでも『図形と方程式』で「円の方程式」が話せたのでいい機会です。



定義を思い出しましょう。

関数 $y=f(x)$ のグラフとは、$y=f(x)$ を満たす点 $(x, y)$ 全体

$$\{(x, y) \mid y=f(x) \:\:(x \in \mathbb{R}) \}$$

のことです。一方、方程式 $F(x, y)=0$ の表す図形とは、$F(x, y)=0$ の解を $xy$ 平面上の点とみたときの点全体

$$\{(x, y) \mid F(x, y)=0 \:\:(x, \: y \in \mathbb{R}) \}$$

のことです。

なので $F(x, y)=f(x)-y=0$ とみれば

     関数 $y=f(x)$ のグラフは方程式 $f(x)-y=0$ の表す図形です。



分かり難いので具体例で見ておきます。

1次関数 $y=2x-3$ のグラフ

$$\{(x, y) \mid y=2x-3 \:\:(x \in \mathbb{R}) \}$$

において、$F(x, y)=2x-y-3=0$ とみると直線

$$\{(x, y) \mid 2x-y-3=0 \:\:(x, \: y \in \mathbb{R}) \}$$

となるので関数のグラフは図形です。


逆に、直線 $2x-y-3=0$ の式を $y=2x-3$ と変形すると $y$ は $x$ の関数とみられるので、直線

$$\{(x, y) \mid 2x-y-3=0 \:\:(x, \: y \in \mathbb{R}) \}$$

は1次関数 $y=2x-3$ のグラフ

$$\{(x, y) \mid y=2x-3 \:\:(x \in \mathbb{R}) \}$$

とみることが出来ます。(※0)



ところが最初に述べたように、一般に逆は言えません。実際

       円 $x^2+y^2=1$ は関数のグラフではありません。(※1)



なぜなのでしょうか。

関数とは何かを確認します。

$y$ が $x$ の関数であるとは、 $x$ の値を1つ決めたときに $y$ の値が唯一つ決まるときをいいます。このとき、働きを $f$ で表し $y=f(x)$ と表記します。


これを踏まえて、方程式 $x^2+y^2=1$ を考察します。
$x=1$ とすると

$$1^2+y^2=1,$$

$$y^2=0,$$

$$y=0$$

となりますが、 $x=0$ とすると

$$0^2+y^2=1,$$

$$y^2=1,$$

$$y=\pm 1$$

となり $y$ の値が2つ決まるので関数ではありません。 

なお $x=2$ とすると

$$2^2+y^2=1,$$

$$y^2=-1$$

となり、この式を満たす実数 $y$ の値は存在しません。▮



円の方程式 $x^2+y^2=1$ を $y$ について解いてみます。

$$y^2=1-x^2,$$

$$y=\pm \sqrt{1-x^2\:}\:.$$

ここで

$$y=\sqrt{1-x^2\:}\:\: (-1\leqq x \leqq 1)$$

とすれば、$y$ は $x$ の関数です。この関数のグラフは円の上側の半円です。このような関数を $x^2+y^2=1$ で定まる陰関数(インカンスウ)といいます(※2)。もちろん

$$y=-\sqrt{1-x^2\:}\:\: (-1\leqq x \leqq 1)$$

も $x^2+y^2=1$ で定まる陰関数で、この関数のグラフは円の下側の半円です。▢



※0 中学数学で1次関数と直線の方程式を一緒に扱っているのはこのためです。
けれども、直線だからと言って1次関数のグラフとは限りません。
    直線 $y=3$ は1次関数の式ではなく、直線 $x=2$ は $x$ の関数ではない
からです。$y=3$ を定数関数とみることは出来ます。どんな $x$ に対しても3を対応させるという関数です。


※1 「円 $x^2+y^2=1$」 は省略した表現で

$$\{(x, y) \mid x^2+y^2=1 \:\:(x \in \mathbb{R}) \}$$

が円であり、$x^2+y^2=1$ は円を表す方程式です。もちろん $x^2+y^2-1=0$ のように表現しても構いません。図形であることを強調するために直線を

$$\{(x, y) \mid 2x-y-3=0 \:\:(x, \: y \in \mathbb{R}) \}$$

と書きましたが

$$\{(x, y) \mid y=2x-3 \:\:(x, \: y \in \mathbb{R}) \}$$

でも構いません。こういうところも分かり難いですよね。


※2 陰関数は多変数関数を扱うようになると顔を出します。陰関数定理または陰関数を微分するときに学びます。用語は学びませんが、高校数学Ⅲでも陰関数は顔を出します。

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...