「カラスは黒い」
を否定してください。
「カラスは黒くない」
ではありません。
「黒くないカラスがいる」
もしくは
「あるカラスは黒くない」
となります。
ではなぜなのかをそれらしく思える手順で考察していきます。もしも形式的な説明を早く知りたいなら、この部分を飛ばして下の方の3⃣に進んでください。
考察を通じて
「カラスは黒くない」と「あるカラスは黒くない」
が異なることを主張していることもわかります。
「カラスは黒い」を分析してみましょう。
このときのカラスは1羽でしょうか。それともカラス全体でしょうか。日本語は冠詞を付けなくても前後関係から複数か単数かを判断しますが、この場合は「カラス全体」を指していると判断するのが自然だと思います。曖昧さを無くしたいのなら、冠詞を意識して表現するのが良いですね。数学の議論をするときには曖昧さを避けるために
「どのカラスも黒い」
もしくは
「カラス ならば 黒い」
などと表現します。他にも表現はできそうですが、この2つで考察を進めます。
1⃣ まずは「どのカラスも黒い」を絵で表現してみます。カラスを四角で表すことにすると、1羽の黒いカラスは■で表すことができます。したがって「どのカラスも黒い」は
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
と表現できます。数が少ないですが、気持ちをこれですべてのカラスを表しているとみてください。これを否定するにはどうすればいいでしょうか。よくあるのは
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
のようにすべてを黒くないカラスにしてしまうものですが、否定するだけなので全否定しなくてもいいのです。例えば
■■■■■■■■■■■■■■■■▢■■■■■■■■■■■■
は「どのカラスも黒い」ではありませんね。ここ↑に黒くないカラスが一羽います。
このように1羽でも黒くないカラスがいればいいので
「少なくとも1羽は黒くないカラスがいる」
で否定になっています。
2⃣ もう一つの「カラス ならば 黒い」についても考察してみます。
少し強調した感じで言い直すと
「カラス ならば 必ず黒い」
「カラス ならば 必ず黒く、黒くないことはない」
ということは
「カラス であって 黒くないカラスはいない」
となります。したがって、黒くないカラスが1羽でもいれば否定したことになるので
「黒くないカラスがいる」
で否定になります。
3⃣ 最後に、形式的な話をしておきます。高校数学でも触れられたりするようですが、数学科の1年生で習うことです。
条件をp, qで表すことにします。このとき
「pである」の否定は「pでない」
「pでない」の否定は「pである」
「すべてpである」の否定は「pでないものが存在する」
「あるものはpでない」の否定は「すべてpである」
※ 「pでないものが存在する」と「あるものはpでない」は同じことを意味しています。
「pかつq」の否定は「pでない または qでない」
「pまたはq」の否定は「pでなく かつ qでない」
「pならばqである」と「pでない または qである」は同値
したがって
「pならばqである」の否定は「pであるがqでない」
集合を利用して、次のように考えることもできます:
条件「pである」を満たすもの全体をP, 条件「qである」を満たすもの全体をQ
とすると「pならばqである」は「P\subset Q」なので、否定すると「P\not\subset Q」。したがって「pであるがqでない」となります。
毎回、毎回 1⃣や2⃣のように考えることはせず、3⃣を使って形式的に考えます。言い換えれば数学の公式のように使うのです。きちんとこの辺りのことを知りたいのなら、下に挙げた参考書をご覧ください。大学生以上なら『論理哲学論考』がおもしろいと思います。
注:数学科だと多くの場合、記号で学ぶと思います。その方が覚えやすくかつ実践的だからです。これを数学科で学ぶのは悪名高い
「イプシロン論法」「イプシロン-n論法」「イプシロン-デルタ論法」
のためです。そうでなければ集合・位相の最初の方で学ぶと思います。
新しい教育課程なら高校国語で論理の基礎を学ぶのかもしれません。▢
論理に関する参考書
L.ヴィトゲンシュタイン著『論理哲学論考』(岩波文庫)
山下正男著『論理的に考えること』(岩波ジュニア新書)
数学的なもの
細井勉著『イプシロン・デルタを理解するために』(日本評論社)
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