2021/05/29

角の大きさと自然な弧度法

 角の大きさを表すのは、弧度法が自然というのは前回の話です。ただ、度数法を習ってしまってからだと、慣れてしまっているためそう感じられないかもしれませんね。

弧度法を理解するには「割合」と「相似」の知識が必要ですが、基本で十分です。では弧度法について説明します。


弧度法とは、円弧の長さによって角の大きさを表現しようというものです。すべての円が相似である(※1)ことを利用して、次のように定義します:

(♣)半径r,Rの2つの円の中心を重ね、中心から2本の半直線を引くと相似な2つの扇形が考えられます。それぞれの円弧の長さをℓ,Lとすると ℓ/r=L/R(変形に依らず一定)となり、相似であることから、中心角 ↔ (半径,円弧の長さ) の関係が1対1に決まります。


そこで
(♪)「半径rの円(円周 ※2)上に長さrの円弧をとり、このときの扇形の中心角の大きさを1ラジアンと定義する」

ラジアンはradianで、弧度と翻訳されています。でも、弧度というよりラジアンということの方が多いと思います。物理学では単位[rad]を用いることが多いようです。

数学では単位を書かないことの方が一般的だと思います(今回は書きます)。単位を書かなくても、前後の話の流れから判るように書くからです。例:角の大きさを1とする。
(もちろん、弧度を利用することを断っているという前提です)


話を展開します。(♪)は次のように言い換えられます。

(✲)「半径1の円上に長さ1の円弧をとり、このときの扇形の中心角の大きさを1ラジアンと定義する」

(♪)⇔(✲) (言い換えに過ぎない)の理由は解りますか。もう述べましたね、(♣)です。また、半径を1にしたのは割合の利用で、こうすると扱いやすくなります。

この定義(✲)から判るように、円の長さが2πより、一周の角の大きさは2π (ラジアン) です。すると、半周の角の大きさは π で、直角に相当するのが π/2 です。正三角形の一つの角の大きさは、半円を3等分した角の大きさだから、π/3 ですね(※3)。下図参照



ラジアンの定義(✲)から、次のことも明らかです。
半径1で中心角 θ の扇形を考えると円弧の長さは θ ですから、半径rで中心角 θ の扇形の円弧の長さ ℓ は rθ です。



また、半径r、中心角θの扇形の面積Sは、円弧の長さを ℓ とするとS=(1/2)rℓ. ℓ = rθ を使って S=(1/2)(r^2)θとも表せます。下図参照


高校数学Ⅱの三角関数で学ぶことは話せました。▢


左)小林昭七著『微分積分読本(1変数)』(裳華房)(「微分積分トクホン」と読みます)
は、定理の証明もきちんと書いてありますし、題名の通り、読み物としてもおもしろいです。弧度法についても触れられています。前回の、角の大きさの表し方で、扇形の面積を利用するという考えは、この本に書かれていたことです。

この本を購入した理由は、微分幾何学の研究者と言ったら「小林昭七」というくらいの人だからです。昔は、微分幾何学に取り組んでいたのですが、挫折してしまいました。

中央)小林昭七著『曲線と曲面の微分幾何』(裳華房)
で微分幾何を学びました。私は旧版を読みましたが、いまでも読まれている本です。


右)
小林昭七著『なっとくするオイラーとフェルマー』(講談社)
初等整数論の本を書いたのには驚きました。名につられてこの本も所蔵しています。整数論は他の本で学んだので、軽く目を通したくらいですが、きちんと書かれています。『博士の愛した数式』で数論に興味をもち、ちょっと覗いてみようかという人にはいい本だと思います。オイラーもフェルマーも整数論には欠かせない数学者です。

 

※1 中心を重ね、中心から任意に半直線を引き円との交点を考えると、任意の2円の中心から交点までの距離の比の値が一定となるからです。その値は半径の比の値です。

※2 小学算数では、円は図形で、円周を使うときは、円周の長さのように、円の枠を指すように教えているようです。どちらも円でよく、円周の長さは円の長さで十分です。

※3 高校数学でラジアンを教えると、度数法との換算を教えますが、混乱の元です。さらに、π=180°という表現も見かけますが、私は避けます。このときの等号「=」は等しいでなく、同一視の意味だと理解しています。だいたい、ラジアンを度数に直したり、度数をラジアンに直したりすることは、問題でしか見たことがありません。ラジアンで話をしているのに、度数を考えるのは不自然です。英語は英語で、suomea suomeksi(フィンランド語はフィンランド語で)、「微分のことは微分でせよ」と昔から言うではないですか(高木貞治)。

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ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...