2021/06/19

The Matrix  ~連立1次方程式の鮮やかな解法~【線形代数の入門の入門】

数学に興味関心があるのなら、高校生や文学部の学生であったとしても、「線形代数」という言葉を耳にしたことはあると思います。高校数学でいえばベクトルの延長線上にあるし、経済学では利用しているようです。どのように利用されているかはまったく知らないのですが、多変量を扱うと思われるので、計算表ソフトExcelと共に使われていると推測します。

題名のmatrixは、線形代数を学ぶ上で欠かせない「行列」のことです。人気ラーメン店に並ぶ行列でなく、現代数学の基礎の一つの行列です。直観的には、Excelで数だけを取り出せば長方形状に並んでいますね。それです。

別な言い方をすれば、線形代数は英語 linear algebra を日本語に訳したもので、algebraは代数、linearが「線形」に当たります。linearは「一次」とも訳され、一次独立、一次変換、一次方程式の一次がそれです。つまり、これらは線形独立、線形変換、線形方程式とも訳されています。私自身は「線形」を使うことの方が多いです。


今回の目的は、『理一の数学事始め シリーズ8』で連立方程式の解法を扱ったのですが、8.11で予告したことの実現です。
大学1年生が学ぶ線形代数はいろいろな導入が考えられ、著者や指導者の個性が現れると思います。その中の一つを紹介したいのです。

2021年の高校教育課程では行列は扱われていません。少し前は「数学C」、もっと前は「代数・幾何」、さらに前は「数学ⅡB」で扱われていました。でも、受験生には嫌われていました、複素平面のようにです。


(ここから本題)
さて、連立方程式 2x+3y=1, x-2y=4 を加減法で解くと、下の画像左側のように解けます。この解法で気をつけているのは、"同値変形"です。よく見てもらうと、式と式の間に矢印「⇒」が書かれていることに気づくと思います。その矢印は赤字で上にも向いていますね。これが同値を意味しています。つまり、上から下にも、下から上にも変形できることを意味しています。


どのように変形しているか説明していませんが、解りますか。
最初は、第二式を(-2)倍して第一式に加えました。
次は、第一式を1/7倍しました。
その次は、第一式を2倍して第二式に加えました。
最後に、第一式と第二式を入れ替えました。
これで、解けていますね。

やっていることは、加減法を利用しているだけです。代入法は使っていません。換言すると、次の3つの規則だけで変形しています。

   ①一つの式をk倍する。
   ②二つの式を入れ替える。
   ③一つの式に他の式のk倍を加える。(ただし、実数(複素数)k≠0とする)

これを基本変形 (行[ギョウ]基本変形)といいます。

一方、画像の右側は、係数だけを取り出し ( )で括っただけです。縦に点線を入れたのは、等号の前後を分かりやすくしただけで、無くても構いません。これを行列(ギョウレツ)と呼び、前者を拡大係数行列、後者を係数行列などと呼びます。これが題名のmatrixです。単に、係数を取り出しただけなので、式変形は上の①~③と同じ規則に従っていて、これを行列の行基本変形といいます。線形代数の学びが深くなれば深くなるほど、解の存在、線形独立、逆行列の存在、次元、そして行列の三角化などにも関係してきて、興味は深まるばかりです。


この右側の連立1次方程式の解法を、掃き出し法とかGaussの消去法などと呼びます。最後に行の入れ替えをしましたが、2つ目の後に入れ替える人の方が多いかもしれません。理由は、最後の式の形


が目標だからです。係数行列が単位行列になると、うれしいのです。

例:次の連立3元1次方程式を掃き出し法で解いてみます。(シリーズ8の11から
       x+2y-z=-3, 2x-3y+3z=16, 3x+2y-2z=-2.


答えの判っている連立方程式を掃き出し法で解いてみてください。線形代数の教科書をもっているのなら、該当の個所があると思うので、それを見てみてください。
※大学2年生以上の内容のテキストには載っていないこともあります。

さて如何でしたか。現代数学のおもしろさを少しは感じましたか。▢


線形代数の本も微分積分と同様、数多あります。各大学での推薦図書で十分です。今回の用語で参考にしたのは、主に

三宅敏恒 著『入門 線形代数』(培風館)

です。pp.19-22を参考にしました。読みやすいので、大学1年生向きだと思います。



私が学んだ本は、以前もどこかで紹介した
佐久間元敬 共著『線形代数 教科書』および 斎藤正彦著『線型代数入門』
です。前者は絶版のようです。後者は裳華房の佐武一郎 本 同様、広く知られています。

洋書でもいいのなら、動画 MITの授業 (1. The Geometry of Linear Equations) で知った
Introduction to Linear Algebra (by Gilbert Strang)
がおもしろそうです。もっと視聴したいなら、動画の概要欄からplaylistに飛べます。翻訳本もありますがお薦めしません。読むなら洋書のままの方が断然いいです。数学用語が気になるなら、共立出版の数学英和・和英辞典を参考にすればいいと思います。
もしもあなたが学生で、大学のテストが気になるのであってたとしても、授業を通して専門用語を知るし、指導者によっては英語を付して専門用語を教えていると思います。テストで英語を使っても問題ないはずです。めちゃくちゃな綴りでなければ、真っ当に採点してくれます。大学の数学者で、英語の数学書を読めない数学者がいるとは考えられません。

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ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

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