2022/10/22

確率論の始まりとフェルマの解答 ~パスカルとフェルマの考えた問題 [前] ~

B.Pascal(パスカル 1623-1662)とP.Fermat(フェルマ 1607-1665)の1654年7月ー10月に交わした往復書簡(8通)が確率論のはじまりと言われています。

パスカル:「人間は考える葦である」(パンセ)、パスカルの原理(圧力の原理)、幾何学
フェルマ:フェルマの最終定理、微分、解析幾何学、数論

が直ぐに思い浮かびます。この2人(当時 31歳、47歳)の往復書簡はパスカルの知人メレ(賭博師)から出された問題解決のためのものでした。

メレからの質問は2つで「勝つ見込み」と「賭け金分配」です。ここでは「賭け金分配」について取り上げます(※1)。


賭け金分配問題
 2人のプレーヤーがいくらかの賭け金を出してゲームを始めたところ、途中で中止しなければならなくなったという。このとき、賭け金をどのように分配すれば公平であろうか。


この問題はその当時のギャンブラーにはよく知られていたらしく、イタリアの数学者パチオリ(Pacioli 1445-1515)が著書で書き残しているそうです。


「技量の等しいAとBがいくらかの賭け金を出してゲームを行い、先に6回勝った方が賭け金を全部もらえることにした。ところが、Aが4回、Bが3回勝ったところでゲームを中止しなければならなくなった。賭け金をどう分配すれはよいか。」パチオリ


パチオリは勝ち数に比例した 4対3 で分ければよいと考えたらしい...これをメレが質問したということは、この答えに疑問を持っていたと考えられます。この問題をめぐって往復書簡がはじまったということです。パスカルはフェルマに間違いを指摘されたようですが、結局は2人とも別々に同じ解答を得たとのことです。

みなさんはどのように解かれるでしょうか。今回はフェルマの方法を紹介します。



フェルマの解法
あらゆる勝ち負けの可能性を考え、Aの勝つチャンスとBの勝つチャンスの比で分配する。

パチオリの問題を解いてみます:
Aはあと2勝、Bはあと3勝すれば賞金が全部もらえます。したがって多くて4回の勝負でゲームは終了します。これを踏まえて勝負の可能性を書き上げてみます。

Aが勝つことを〇、Bが勝つことを●で表すと次の通りです。($2^4=16$ 通り)

         〇〇〇〇  〇〇〇▲  〇〇▲〇  〇▲〇〇
         ▲〇〇〇  〇〇▲▲  〇▲〇▲  ▲〇〇▲
         〇▲▲〇  ▲〇▲〇  ▲▲〇〇  〇▲▲▲
         ▲〇▲▲  ▲▲〇▲  ▲▲▲〇  ▲▲▲▲

これら16通りはすべて同じよう現れると考えられる。Bが賞金をもらえるのは下線を付けた5通り、Aが賞金をもらえるのは残りの11通り。
よって、賞金を AとBの比を 11対5 で分配すればよい。▮



参考文献
       渡部 隆一 著『確率』(共立出版)
       E.T. ベル 著『数学をつくった人びと(上)』(東京図書)
       数学セミナー増刊『100人の数学者』(日本評論社)
       吉永 良正 著『数学を愛した人たち』(東京出版)

※1 渡部隆一氏の『確率』に書かれている問題と答え(pp.64-65)
  問題 2つのサイコロを何回か投げて少なくとも1回6のぞろ目が出たら勝ちとする。
    このゲームにおいて、内科医投げれば勝つ見込みができるか。
  
  答え 25回以上投げる

2022/10/15

実数で混乱したら読む話

※ 2022.10.15 一部加筆しました。

 いま『数学事始め』で不等式の証明を話しています。不等式の証明の1回目に、不等式を証明するときの前提を話しました。

    23.09 式と証明「不等式の証明 公理」 (クリックすれば見られます)

高校生には難しい話なのですが、『数学事始め』は数学を学び直したい人向けに書いているので、中学や高校の数学を逸脱することもときどきあります。そういうときは、これから先に何を学ぶのかをたのしみしてもらおうという考えで書いています。


さて、不等式で前提にする話を書きながら、大学数学に触れたときの混乱を思い出しました。高校数学Ⅲの微積分とも関連するのですが、「微分積分」での実数と「線形代数(代数)」での実数は仮定していることが少し異なります。

数学を教えている人にとっては自明のことなのでしょうが、初めて学ぶ人にとってはとても不親切です。


まず説明しやすい 線形代数(代数) での実数から話をします。

指導者や本にもよりますが (タイ)を大抵Kで表し、体を知らない場合は実数や複素数と仮定しなさいと教えます。このときの体というのは、集合Kが四則演算で閉じていることを仮定しています。高校数学までに学んだ計算ができることを前提にしています。
※ 体をKで表すのは、ドイツ語で体(からだ)がKörper(ケルパー)だからです。

つまり、線形代数での実数は「四則演算ができる」ことだけを仮定しています。代数で体を学ぶとこのことが書かれています。さらに実数や複素数以外の体、特に有限体を学んで抽象度が上がります。線形代数で体としているのは、その体が有限体などでもいいことを主張しているからです。ガロア理論まで学ぶと有難みが分かります。


次に高校数学での実数について話します。

四則演算だけでなく、絶対値の性質、常に大小関係が成り立つことや連続性までも仮定されています。直観的に言えば、数直線上の点全体です。なので微積分のときに少し混乱が生じます。実数の連続性を仮定しているので、ロルの定理、中間値の定理および平均値の定理に有難みを感じません。微分積分学の基本定理らしい証明が書かれていても、雰囲気だけを感じるものになっています。

なので大学数学を意識して書くのでなく、どのように使うかを前面に押し出して書いてしまう方がいいように思います。


最後に大学数学の微分積分での実数について話します。

高校数学までは実数の連続性を仮定して話を進めていたのですが、同じ微分積分をやっているのに様子が違います。実数についての議論が始まります。

「実数とはなにか」

こう言われても高校数学を通して数直線上の点だと認識しているのでとても困ります。線形代数でも実数を扱っているので混乱していまいます。教えている側はそんなことまで気が回らないので学生の混乱に気付きません。きちんと前提を確認しなければならないのに、それを疎かにしてしまいます。

では何を前提に話しているのでしょうか。

・四則演算で閉じている
・全順序である(大小関係が成り立つ)
・絶対値が定義されている
・高校までに学んだ無理数やその計算の仕方を知っている

の4つです。抜けているのは連続性です。微分を定義するときに困るので、どのように連続性を定義するかが問題になるのです。このときに コーシー(A.L.Cauchy) が話題に挙げられたりします。微分に整合性を持たせるために実数をどう定義するかの話になります。

[加筆] 四則、全順序、絶対値までは有理数のことです。ピタゴラス学派によって無理数が発見され、数直線上に有理数を並べてみたら穴が開いていたのです。そこで数の要請としては穴がないようにしたいので連続性の話になり、これを実数としようというのです。
  

何を公理(要請)にするかが問題です。

・デデキントの公理(切断)
・ワイエルストラスの公理(上限の存在)
・有界な単調数列は収束する
・アルキメデスの原理と区間縮小法

これらは互いに同値なので、どれを前提にしても実数を構成できます。この辺りまで話が進むと全体像が分かり難く、森を彷徨っている感じです。でもこれによって連続であることがとても有難く感じます。ロルの定理などにも意味を見出せます。


実数の構成方法にはコーシー列を利用する方法もあります。代数的にはこちらの方が有難いのですが、これを理解するまでに代数の知識、位相の知識が必要になります。

           松坂 和夫 著『代数系入門』(岩波書店)

に詳しく書かれています。p進数の完備化では助けられました。


実数を俯瞰してみると、結局、何を要請するかです。
0を含む自然数から数を学び、自然に大小関係があると認識します。そして正の分数や小数および四則計算を学び、数(スウ)は大小関係や四則計算があると自然に認識します。負の数や無理数を学んでもこれは変わりません。絶対値や不等式も自然に受け入れ、いつの間にか実数は数直線上に現れる数と認識しています。

突然、大学数学になると実数とは何かとか言われたり、四則計算だけが仮定されたりして混乱しますが、冷静にみると実数はいろいろな条件を要請されたものだと分かります。ここまでくると数列の極限に意味を見出せ、関数の極限との関係にも気づきます。

少しは混乱がほどけたでしょうか。▢

2022/10/08

式 x + 1/x と相反方程式  ~入試問題の元ネタ~

受験数学でよくみる問題に

        「$a+\dfrac{1}{\:\:a\:\:}=4$ のとき、$a^2+\dfrac{1}{\:a^2\:}$ の値を求めよ」

というのがあります。高校の頃に使っていた受験問題集では $a+\dfrac{1}{\:\:a\:\:}$ の形を何度も目にしました。$a \cdot \dfrac{1}{\:\:a\:\:}=1$ となるからだと思っていたのですが、元々は特殊な方程式を解くときの道具でした。

多項式
$$f(x)=c_0x^n+c_1x^{n-1}+c_2x^{n-2}+ \cdot +c_n \:\: (c_0 \neq 0, \: c_i \in \mathbb{R})$$
において、$c_i=c_{n-i} \: (i=0, \:1, \:2, \dots , \: n)$ が成り立つとき、$f(x)$ を相反多項式、$f(x)=0$ を相反方程式と呼びます。(※1)

例1 (相反多項式)
① $f(x)=x^4+3x^3+2x^2+3x+1$ ② $f(x)=x^5-2x^4+x^3+x^2-2x+1$


相反方程式を解くときに $x+\dfrac{1}{\:\:x\:\:}$ が使われます。具体的にみてみましょう。


例2(相反方程式①)$x^4+3x^3+2x^2+3x+1=0 \:\: (x \in \mathbb{C})$ を解いてみます。

$x=0$ は解ではないので、両辺を $x^2 \neq 0$ で割ると
$$x^2+3x+2+\dfrac{3}{\:x\:}+\dfrac{1}{\:x^2\:}=0,$$
$$\Big(x^2+\dfrac{1}{\:x^2\:}\Big)+3\big(x+\dfrac{1}{\:x\:}\big)+2=0.$$

ここで、$t:=x+\dfrac{1}{\:x\:}$ とおくと $t^2-2=x^2+\dfrac{1}{\:x^2\:}$ となる。したがって
$$t^2+3t=0,$$
$$t=0, \: -3.$$
i) $t=0$ のとき
$$x+\dfrac{1}{\:x\:}=0,$$
$$x=\pm \sqrt{-1}.$$
ii) $t=-3$ のとき
$$x+\dfrac{1}{\:x\:}=-3,$$
$$x=\dfrac{-3 \pm \sqrt{5}}{2}.$$
よって
$$x=\pm \sqrt{-1}, \: \dfrac{-3 \pm \sqrt{5}}{2}. \: ▮$$

(補足)$x+\dfrac{1}{\:x\:}=-3$ ⇒ $x^2+3x+1=0$ ⇒ $x=\dfrac{-3 \pm \sqrt{5}}{2}.$


例3(相反方程式②)$f(x)=x^5-2x^4+x^3+x^2-2x+1=0 \:\: (x \in \mathbb{C})$ を解く。

$f(-1)=0$ となるので $f(x)$ は $x+1$ を因数にもつ。
$$f(x)=(x+1)(x^4-3x^3+4x^2-3x+1).$$
したがって
$$x^4-3x^3+4x^2-3x+1=0$$
を解く。両辺を $x^2 \neq 0$ で割ると
$$x^2-3x+4-\dfrac{3}{\:x\:}+\dfrac{1}{\:x^2\:}=0,$$
$$\Big(x+\dfrac{1}{\:x\:}\Big)^2-3\Big(x+\dfrac{1}{\:x\:}\Big)+2=0,$$
$$\Big(x+\dfrac{1}{\:x\:}-1\Big)\Big(x+\dfrac{1}{\:x\:}-2\Big)=0.$$

i) $x+\dfrac{1}{\:x\:}-1=0$ のとき
$$x=\dfrac{1 \pm \sqrt{-3}}{2}.$$
ii) $x+\dfrac{1}{\:x\:}-2=0$ のとき
$$x=1\:(重根).$$
よって
$$x=-1, \: 1\:(重根), \: \dfrac{1 \pm \sqrt{-3}}{2}. \: ▮$$

: $x=-1$ は $x+1$ を因数に持つからです。


このように式 $x+\dfrac{1}{\:\:x\:\:}$ が使われます(※2)。なお、いまは大学の授業で相反方程式を扱うことはないと思います。線形代数を教えるようになる以前の「代数と幾何」を授業でやっていた頃はあったと思います。最初の値を求める問題は、その頃に入試問題として出題されたのだと思います。誘導で相反方程式を解かせていたかもしれません。▢

おまけ 方程式 $2x^6-11x^5+17x^4-17x^2+11x-2=0 \:\: (x \in \mathbb{C})$
   を解いてみてください。


※1 相反方程式という場合、ここでの定義でなく条件を強くした偶数次数とする場合もあります。このときは $t:=x+\dfrac{1}{\:x\:}$ と置いて解くことが出来ます。
他に $a$ を根に持つとき $\dfrac{1}{\:a\:}$ を根にもつという条件を定義にすることもあります。最後の "おまけ" がこれにあたります。

※2 奇数次の相反方程式は $x+1$ を因数に持ちます(各自で考えてみてください)。偶数次の相反方程式は ※1 にある通りです。


参考文献
岩切晴二 著『代数学・幾何学詳説』(培風館)p.61
永田雅宜・吉田憲一 共著『代数学入門』(培風館)pp.183-187


おまけのヒント
:$x^3$ で割ってみると気づくかと思います。$x-\dfrac{1}{\:x\:}$ を因数にもちます。

おまけの答え $x=\pm 1, \: 2, \: \dfrac{1}{\:2\:}, \: \dfrac{3 \pm \sqrt{5}}{2}$

2022/10/01

数学少年が一度は憧れる場所  ~この話はどこに向かっていくのか⑥終~

最初に、皆さんに紹介したい本を提示します。数学に興味があれば一度は目にしているかもしれませんし、既に読まれてるかもしれません。

   加藤 和也 著『フェルマーの最終定理・佐藤-テイト予想解決への道』
                      (類体論と非可換類体論1)


大学入試問題の数学が解けなくても数学をたのしむことはできます。歴史クイズが解けなくても歴史がたのしめるのと同じです。文系、芸術系、体育系とか関係なく、もちろん学歴や年齢にも関係なく、興味を持ったら数学をたのしんでください。


数学への興味の持ち方はいろいろです。

フィールズ賞(数学の賞)を日本人数学者が受賞しニュースで大々的に取り上げられ、その数学に興味を持つとか。教科書に書かれている数学者の逸話に興味をもつとか。数学教師の数学雑談で未解決問題を知るとかたくさん考えられます。

よくあるのは2次方程式の根の公式(解の公式)を学び、3次方程式・4次方程式には根の公式があるが、5次以上の代数方程式は一般に解けないということです。これを解決した数学者の一人アーベルの28歳での病死や、もう一人の数学者ガロアの決闘のために20歳で亡くなったことなどは衝撃的です。

階乗が使われる例として書き始めたn次対称群および交代群が5次以上の代数方程式には根の公式が存在しないことに大きく関わっています。それを紹介している啓蒙書なら、根の置換と対称群・交代群には触れていると思います。でも啓蒙書は動機を与えるものなので、詳しいことは分かりません。わたしも数冊読みましたが、雰囲気だけしか掴めませんでした。

この話が書かれている啓蒙書のタイトルには『ガロア理論』(※1) が入っています。専門書なら 群・環・体・ガロア理論 という並びで書かれていることが多いです。専門書に


   E.アルティン 著『ガロア理論入門』(東京図書、ちくま学芸文庫)


があります。線形代数だけを前提に書かれているというので購入したのですが、その当時の私には読めませんでした。結果的に読んだのですが代数の本でガロア理論を学んだ後です。

ガロア理論の概要を啓蒙書で掴んだ後は、代数学の入門書で「群・環・体・ガロア理論」を学ぶ方が早いと思います。数学への興味は「なぜ成り立つのか」を自分の頭で理解したいというところにあると思います。結果だけで満足するのでなく、理由も知りたくなるのが常だと思います。


代数学を独学するなら

         新妻 弘, 木村 哲三 共著『群・環・体 入門』

が読みやすく、代数の基本が身に着けられます。
代数学の入門書は数多あります。

      石田 信 著『代数学入門』、松坂 和夫 著『代数系入門』

をお薦めしますが、専門書の選び方・読み方は 謎の数学者さんのYouTubeチャンネル がとても参考になります。その方法を実践している感想です。大学・大学院時代に知っていたら少し人生が変わっていたかもしれません。


ガロア理論は「5次以上の代数方程式が一般に解けない」を超えて応用されています。その一つに整数論があるのですが、高木貞治の『類体論』もその一つです。最初に提示した加藤和也さんの本を読むとそれがよく分かります。『類体論と非可換類体論1』は物語の導入ですが、ガロア理論や整数論に興味があればおもしろいと思います。非可換類体論はラングランズ予想の話です。動画 Langlands Program が参考になります。

これからも数学をたのしみましょう。▢

※1 ガロア理論、ガロワ理論、Galois 理論などと表記されています。E.Galois はフランス人で、Galois の音は「ガロワ」の方が近いと思いますが、「ガロア」表記の方が多いです。

2022/09/24

置換と互換と交代群  ~この話はどこに向かっていくのか⑤~

集合 $X=\{1, \: 2, \: 3, \: 4 \}$ に対して、置換 $\sigma : X \rightarrow X$ は

$$\sigma =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3 \quad 4}{3 \quad 1 \quad 4 \quad 2}$$

のように表現し、このとき $\sigma(1)=3, \: \sigma(2)=1, \: \sigma(3)=4, \: \sigma(4)=2$ です。


n次対称群 $S_n$ の元を置換といいましたが、置換の中には

$$\tau =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3 \quad 4}{3 \quad 2 \quad 1 \quad 4}$$ ($\tau$ はギリシャ文字の小文字でタウと読みます)

のように1と3だけを交換し、他は変えないものもあります。このような置換を互換(ゴカン)といい、単に $(1 \:\: 3)$ と書いて表現します。互換 $\tau=(1 \:\: 3)$ の逆置換 $\tau^{-1}$ は $(1 \:\: 3)$ です。
(もちろん $(3 \:\: 1)$ と書いてもいいです。同じなのだから見やすい表現をします)


命題1 $S_n \: (n \geqq 2)$ の任意の置換は互換の積で表せる.▮

きちんと証明をしようとすると、帰納法で示すことになります。ここではどのようにして互換の積で表せるかを見てもらいます。


互換の積の表し方は他にもあります。


このように互換の表し方に一意性はないのですが、互換の個数には不変性があります。上の例では互換の積が3個または5個の奇数個です。

命題2 互換の積の個数が奇数か偶数かは与えられた置換によって決まる.▮


これを示すのに差積 $\Delta (x_1, \: x_2, \: x_3, \: \dots, x_n)$ を導入します(※1)。

  $\Delta (x_1, x_2, x_3, \dots, x_n):=(x_n-x_{n-1})(x_n-x_{n-2})(x_n-x_{n-3})\cdots (x_n-x_1)$
                   $\cdot (x_{n-1}-x_{n-2})(x_{n-1}-x_{n-3})\cdots (x_n-x_1)$
                                    $\cdots$
                               $\cdot (x_3-x_2)(x_3-x_1)$
                                    $\cdot (x_2-x_1)$

これは交代式(※2)です。分かりやすく $n=4$ の場合を考えます。

       $\Delta (x_1, x_2, x_3, x_4)$
      $=(x_4-x_3)(x_4-x_2)(x_4-x_1)(x_3-x_2)(x_3-x_1)(x_2-x_1)$.

 交代式は任意の互換によって符号が反対になる式のことです。実際 $\sigma=(1 \:\: 2)$ に対して

   $\sigma \Delta (x_1, x_2, x_3, x_4):=(x_{\sigma(4)}-x_{\sigma(3)})(x_{\sigma(4)}-x_{\sigma(2)})(x_{\sigma(4)}-x_{\sigma(1)})$
                                         $\cdot (x_{\sigma(3)}-x_{\sigma(2)})(x_{\sigma(3)}-x_{\sigma(1)})(x_{\sigma(2)}-x_{\sigma(1)})$
    $=(x_4-x_3)(x_4-x_1)(x_4-x_2)(x_3-x_1)(x_3-x_2)(x_1-x_2)$
    $=-(x_4-x_3)(x_4-x_2)(x_4-x_1)(x_3-x_2)(x_3-x_1)(x_2-x_1)$
    $=-\Delta (x_1, x_2, x_3, x_4)$. ▮


他の互換でも確認してみてください。互換による符号の変化が分かれば一般の場合も同じなので気づくと思います。



では命題2を示します。
与えられた置換 $\sigma$ を互換の積に表したものを考えます。互換の積表現に一意性はないので、互換の積表現の任意の2つを $\sigma_1, \: \sigma_2$ とし、それぞれの互換の個数を $k, \: m$ とします。

$$\sigma_1\Delta (x_1, x_2, x_3, \dots, x_n)=(-1)^k\Delta (x_1, x_2, x_3, \dots, x_n),$$

$$\sigma_2\Delta (x_1, x_2, x_3,\dots, x_n)=(-1)^m\Delta (x_1, x_2, x_3, \dots, x_n).$$

したがって $\sigma_1=\sigma=\sigma_2$ より

$$(-1)^k=(-1)^m$$

となり、互換の個数の偶奇は一致する.▮

:$(-1)^k=(-1)^m$ から $k=m$ は言えません。


このことから置換の結果が

$$\sigma\Delta (x_1, x_2, x_3,\dots, x_n)=\Delta (x_1, x_2, x_3, \dots, x_n)$$

となったら σ を偶置換といい

$$\sigma\Delta (x_1, x_2, x_3,\dots, x_n)=-\Delta (x_1, x_2, x_3, \dots, x_n)$$

となったら σ を奇置換という。偶置換のときの互換の積の個数は偶数で、奇置換のときの互換の積の個数は奇数です。差積が互換によって符号が反対になることから解ります。置換によって差積は符号だけが変化するので、置換の符号を定義することができます(※3)。


最後に、偶置換全体は群を成し、これを交代群(alternating group)と呼びます。交代群は交代式である差積の符号を保存する置換全体です。n次交代群は $A_n$ で表します(※4)。▢



※1 Δ(デルタ)は差積(difference product)の頭文字dに相当するギリシャ文字の大文字です。差積は判別式の定義でも出てくる大切な概念の一つです。

※2 交代式は任意の互換で符号が反対になりますが、任意の互換で不変な式を対称式といいます。基本対称式については 『数学事始め』22.03 をご覧ください。

※3 置換 $\sigma$ の符号を記号 $\mathrm{sgn} \: \sigma$ で表します。sgn は sign (サイン、符号) のことです。線形代数でも符号を定義します。ここでは深入りしませんが、$S_n, \: A_n, \: mathrm{sgn}$ にある関係が成り立ちます。

※4 群であることを確認するには、①演算で閉じているか ②結合律を満たすか ③単位元の存在 ④逆元の存在の4つをみます。①は互換の個数で考えると分かります。結合律は対称群の部分集合であることから解ります。単位元 $1_X=(1  2)(1  2) \in A_n$ です。逆元は注意してください。互換の積表現の部分にヒントがあるのですが、$(\sigma \tau)^{-1}=\tau^{-1}\sigma^{-1}$ です。

2022/09/17

置換 ~線形代数で注意すること 代数学入門~

この話は写像から始まりました。前回は自分自身への全単射(双射)全体が合成 ∘ を演算として群を成す(対称群)ことを前提にし、集合の元の個数がn個の有限集合のときn次対称群と呼び、その群の位数を考えました。n次対称群の元を置換と呼ぶことも紹介しました。

置換は線形代数で行列式を定義するときに現れるのが最初ではないかと思います。でも置換を忘れてしまっても特に困ることはありません。毎回、行列式の定義に戻って計算するということがないからです。


3次対称群 $S_3$ を考えます。

$\sigma, \: \tau \in S_3$ に対して ($\sigma$ はシグマ、$\tau$ はタウと読み、ギリシャ文字の小文字)

$$\sigma =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}, \: \tau =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 3 \quad 1}$$

とします。このとき置換の合成 $\tau \circ \sigma$ はどうなっているでしょうか。$(\tau \circ \sigma)(1)$ がどうなるかを考えてみましょう。

$$(\tau \circ \sigma)(1)=\tau (\sigma(1))=\tau(2)=3$$

$\sigma$ によって $1 \mapsto 2$ となり、$\tau$ によって $2 \mapsto 3$ となるからです。同様に考えて

$$(\tau \circ \sigma)(2)=2, \: (\tau \circ \sigma)(3)=1$$

となるので

$$\tau \circ \sigma =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 3 \quad 1}\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{3 \quad 2 \quad 1}$$

となります。
何に注意してほしいかというと、合成の順番です。写像の話からはじまってn次対称群の話をしているので上の計算は自然に感じると思うのですが、$\sigma$ を計算してから $\tau$ を計算します。写像であることを意識しないと、書いてある順に計算しがちです。私がこの感覚に慣れたのは代数学を学んでからでした。

多くの場合、置換は左から作用させることの方が多いのですが、右から作用させることもあるので、その本や話者の説明を聞き洩らすと間違えてしまいます。こういうところに代数らしさを感じます。


上と同じ

$$\sigma =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}, \: \tau =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 3 \quad 1}$$

に対して $\sigma \circ \tau, \:\: \sigma ^{-1} \circ \tau \circ \sigma$ はどうなるでしょうか。


$$\sigma \circ \tau=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 3 \quad 1}=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{1 \quad 3 \quad 2}.$$


   $\sigma ^{-1}$ は逆置換なので、$\sigma ^{-1}=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}^{-1}=\dbinom{2 \quad 1 \quad 3}{1 \quad 2 \quad 3}=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}$.

したがって、最初の $\tau \circ \sigma$ の結果も用いて

$$\sigma ^{-1} \circ \tau \circ \sigma=\sigma ^{-1} \circ (\tau \circ \sigma)=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{3 \quad 2 \quad 1}=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{3 \quad 1 \quad 2}.$$

※ 答え方はいろいろあると思いますが、上と下が対応しているのが肝心です。たまたま今の場合は、$\sigma ^{-1}=\sigma$ でした。 一般には、$\sigma ^{-1}\neq \sigma, \: \tau \circ \sigma \neq \sigma \circ \tau$ です。


大学以降の数学をする場合には、可換でないことの方が多くなるので注意してください。また順番にも気を付けてください。たぶん、線形代数を学びながら徐々に修得していくものなのだと思います。▢

2022/09/10

写像と対称群 特にn次対称群 ~この話はどこに向かっていくのか④~

当初の目的地まで辿り着きました。


集合 $A \: (\neq \varnothing)$ から自分自身への全単射(双射)全体を考え、それを $S(A)$ と書くことにします。恒等写像 $1_A$ はこれを満たすので $S(A) \neq \varnothing$ です。

           $S(A):=\{f:A \longrightarrow A \mid 全単射 \}$.


この集合 $S(A)$ は合成 $\circ$ を二項演算として群を成し、対称群と呼ばれています(※1)。

特に、集合 $A$ が有限集合で、その元の個数がn個であるときn次対称群と呼び、記号 $S_n$ または $\mathfrak{S}_n$ などで表されます(※2)。


[数学用語]
群 $G$ の元の個数が有限のとき有限群といい、その群 $G$ の元の個数は位数(イスウ)と呼ばれ、記号 $|G|, \: \#(G)$ などで表されます。


(ここからが本題)

n次対称群 $S_n$ の位数を調べてみます。

$n=1$ のとき、$A=\{a\}$ なので $1_A:a \mapsto a$ だけです。

よって $S_1=\{1_A\}$ であり、$|S_1|=1$.


$n=2$ のとき、$A=\{a, \; b \}$ なので

      $1_A:a \mapsto a, \: b \mapsto b$  または  $f:a \mapsto b, \: b \mapsto a$

の2つが考えられます。

よって $S_2=\{1_A, \: f \}$ であり、$|S_2|=2$.


では、$n=3$ のとき $|S_3|$ の値を考えてみてください。



ここで、説明のために記号を導入します。
考えている集合が有限集合なので $\{a, \: b, \: c \}$ よりも $$\{a_1, \: a_2, \: a_3 \}$$ という表記の方が便利です。こうすれば $n=4, \: 5, \: 6,...$ となっても新たに記号を選ぶことなく使えます。そうすると全単射による対応もうまく工夫できます。

例えば、$a_1 \mapsto a_2, \: a_2 \mapsto a_3, \: a_3 \mapsto a_1$ という対応を $$\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 3 \quad 1}$$

で表すことにします。上の段と下の段がその対応を表します。1の下が2なので $$a_1 \mapsto a_2$$

を表していると約束するのです。便宜的に導入したように見えますがこの記号は一般に使われを置換(チカン)と呼びます(※3)。置換を表すときにはギリシャ文字の $\sigma, \: \tau, \: \rho$ などが使われます。 


例えば、$\sigma =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}$ であれば、                              $$\sigma(1)=2, \: \sigma(2)=1, \: \sigma(3)=3$$

となります。


説明の準備ができたので、先ほどの答えをいいます。$|S_3|=6$ です。

解説 集合 $A=\{a_1, \: a_2, \: a_3\}$ のとき、全単射は次の通りです:

$$1_A=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{1 \quad 2 \quad 3}, \: \dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 3 \quad 1}, \: \dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{3 \quad 1 \quad 2},$$

$$\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}, \: \dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{3 \quad 2 \quad 1}, \: \dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{1 \quad 3 \quad 2}$$

の6個です。この数は $3!$ です。なぜなら、$1, \: 2, \:3$ の対応先は これら $1, \: 2, \:3$ を並び換えたものです。3個の数の並び換えなので 階乗 が使えるのです。▮


上の解説によって、4次対称群 $S_4$ の位数は $|S_4|=4!$ です。これは一般化できn次対称群 $S_n$ の位数は $|S_n|=n!$ です。

n次対称群や置換と最初に出会うのは線形代数の行列式だと思います。群も一緒に紹介されるかもしれませんが、線形代数の最初は計算の修得に力を入れましょう。▢


※1 群であることを確認するには次を示します。
  ① 写像の合成が閉じている:$f, \: g \in S(A)$ に対して $g \circ f \in S(A)$.
  ② 結合律が成り立つ:$f, \: g, \: h \in S(A)$ に対して $(f \circ g) \circ h=f \circ (g \circ h)$.
  ③ 単位元の存在:恒等写像 $1_A$ が単位元に相当し、$1_A \circ f=f \circ 1_A=f$.
  ④ 逆元の存在:逆写像 $f^{-1}$ が逆元に相当し、$f \circ f^{-1}=f^{-1} \circ f=1_A$.

群に関しては「代数学 群の紹介」、①~④は前回の内容が参考になります。

※2 対称群は symmetric group なので S が使われます。$\mathfrak{S}$(エス) はドイツの飾り文字で、ドイツ文字を使っているのは文字 S が他の意味で使われることが多く区別したいからです。高校生が $S_n$ をみたら 初項から第n項までの数列の和 だと思いますね。

※3 n次対称群 $S_n$ の元をn次の置換と呼びます。なのでここで紹介した置換は3次の置換です。もちろん全単射の写像です。

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...