「$a+\dfrac{1}{\:\:a\:\:}=4$ のとき、$a^2+\dfrac{1}{\:a^2\:}$ の値を求めよ」
というのがあります。高校の頃に使っていた受験問題集では $a+\dfrac{1}{\:\:a\:\:}$ の形を何度も目にしました。$a \cdot \dfrac{1}{\:\:a\:\:}=1$ となるからだと思っていたのですが、元々は特殊な方程式を解くときの道具でした。
多項式
$$f(x)=c_0x^n+c_1x^{n-1}+c_2x^{n-2}+ \cdot +c_n \:\: (c_0 \neq 0, \: c_i \in \mathbb{R})$$
において、$c_i=c_{n-i} \: (i=0, \:1, \:2, \dots , \: n)$ が成り立つとき、$f(x)$ を相反多項式、$f(x)=0$ を相反方程式と呼びます。(※1)
例1 (相反多項式)
① $f(x)=x^4+3x^3+2x^2+3x+1$ ② $f(x)=x^5-2x^4+x^3+x^2-2x+1$
相反方程式を解くときに $x+\dfrac{1}{\:\:x\:\:}$ が使われます。具体的にみてみましょう。
例2(相反方程式①)$x^4+3x^3+2x^2+3x+1=0 \:\: (x \in \mathbb{C})$ を解いてみます。
$x=0$ は解ではないので、両辺を $x^2 \neq 0$ で割ると
$$x^2+3x+2+\dfrac{3}{\:x\:}+\dfrac{1}{\:x^2\:}=0,$$
$$\Big(x^2+\dfrac{1}{\:x^2\:}\Big)+3\big(x+\dfrac{1}{\:x\:}\big)+2=0.$$
ここで、$t:=x+\dfrac{1}{\:x\:}$ とおくと $t^2-2=x^2+\dfrac{1}{\:x^2\:}$ となる。したがって
$$t^2+3t=0,$$
$$t=0, \: -3.$$
i) $t=0$ のとき
$$x+\dfrac{1}{\:x\:}=0,$$
$$x=\pm \sqrt{-1}.$$
ii) $t=-3$ のとき
$$x+\dfrac{1}{\:x\:}=-3,$$
$$x=\dfrac{-3 \pm \sqrt{5}}{2}.$$
よって
$$x=\pm \sqrt{-1}, \: \dfrac{-3 \pm \sqrt{5}}{2}. \: ▮$$
(補足)$x+\dfrac{1}{\:x\:}=-3$ ⇒ $x^2+3x+1=0$ ⇒ $x=\dfrac{-3 \pm \sqrt{5}}{2}.$
例3(相反方程式②)$f(x)=x^5-2x^4+x^3+x^2-2x+1=0 \:\: (x \in \mathbb{C})$ を解く。
$f(-1)=0$ となるので $f(x)$ は $x+1$ を因数にもつ。
$$f(x)=(x+1)(x^4-3x^3+4x^2-3x+1).$$
したがって
$$x^4-3x^3+4x^2-3x+1=0$$
を解く。両辺を $x^2 \neq 0$ で割ると
$$x^2-3x+4-\dfrac{3}{\:x\:}+\dfrac{1}{\:x^2\:}=0,$$
$$\Big(x+\dfrac{1}{\:x\:}\Big)^2-3\Big(x+\dfrac{1}{\:x\:}\Big)+2=0,$$
$$\Big(x+\dfrac{1}{\:x\:}-1\Big)\Big(x+\dfrac{1}{\:x\:}-2\Big)=0.$$
i) $x+\dfrac{1}{\:x\:}-1=0$ のとき
$$x=\dfrac{1 \pm \sqrt{-3}}{2}.$$
ii) $x+\dfrac{1}{\:x\:}-2=0$ のとき
$$x=1\:(重根).$$
よって
$$x=-1, \: 1\:(重根), \: \dfrac{1 \pm \sqrt{-3}}{2}. \: ▮$$
注: $x=-1$ は $x+1$ を因数に持つからです。
このように式 $x+\dfrac{1}{\:\:x\:\:}$ が使われます(※2)。なお、いまは大学の授業で相反方程式を扱うことはないと思います。線形代数を教えるようになる以前の「代数と幾何」を授業でやっていた頃はあったと思います。最初の値を求める問題は、その頃に入試問題として出題されたのだと思います。誘導で相反方程式を解かせていたかもしれません。▢
おまけ 方程式 $2x^6-11x^5+17x^4-17x^2+11x-2=0 \:\: (x \in \mathbb{C})$
を解いてみてください。
※1 相反方程式という場合、ここでの定義でなく条件を強くした偶数次数とする場合もあります。このときは $t:=x+\dfrac{1}{\:x\:}$ と置いて解くことが出来ます。
他に $a$ を根に持つとき $\dfrac{1}{\:a\:}$ を根にもつという条件を定義にすることもあります。最後の "おまけ" がこれにあたります。
※2 奇数次の相反方程式は $x+1$ を因数に持ちます(各自で考えてみてください)。偶数次の相反方程式は ※1 にある通りです。
参考文献
岩切晴二 著『代数学・幾何学詳説』(培風館)p.61
永田雅宜・吉田憲一 共著『代数学入門』(培風館)pp.183-187
おまけのヒント:$x^3$ で割ってみると気づくかと思います。$x-\dfrac{1}{\:x\:}$ を因数にもちます。
おまけの答え $x=\pm 1, \: 2, \: \dfrac{1}{\:2\:}, \: \dfrac{3 \pm \sqrt{5}}{2}$
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