2022/09/17

置換 ~線形代数で注意すること 代数学入門~

この話は写像から始まりました。前回は自分自身への全単射(双射)全体が合成 ∘ を演算として群を成す(対称群)ことを前提にし、集合の元の個数がn個の有限集合のときn次対称群と呼び、その群の位数を考えました。n次対称群の元を置換と呼ぶことも紹介しました。

置換は線形代数で行列式を定義するときに現れるのが最初ではないかと思います。でも置換を忘れてしまっても特に困ることはありません。毎回、行列式の定義に戻って計算するということがないからです。


3次対称群 $S_3$ を考えます。

$\sigma, \: \tau \in S_3$ に対して ($\sigma$ はシグマ、$\tau$ はタウと読み、ギリシャ文字の小文字)

$$\sigma =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}, \: \tau =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 3 \quad 1}$$

とします。このとき置換の合成 $\tau \circ \sigma$ はどうなっているでしょうか。$(\tau \circ \sigma)(1)$ がどうなるかを考えてみましょう。

$$(\tau \circ \sigma)(1)=\tau (\sigma(1))=\tau(2)=3$$

$\sigma$ によって $1 \mapsto 2$ となり、$\tau$ によって $2 \mapsto 3$ となるからです。同様に考えて

$$(\tau \circ \sigma)(2)=2, \: (\tau \circ \sigma)(3)=1$$

となるので

$$\tau \circ \sigma =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 3 \quad 1}\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{3 \quad 2 \quad 1}$$

となります。
何に注意してほしいかというと、合成の順番です。写像の話からはじまってn次対称群の話をしているので上の計算は自然に感じると思うのですが、$\sigma$ を計算してから $\tau$ を計算します。写像であることを意識しないと、書いてある順に計算しがちです。私がこの感覚に慣れたのは代数学を学んでからでした。

多くの場合、置換は左から作用させることの方が多いのですが、右から作用させることもあるので、その本や話者の説明を聞き洩らすと間違えてしまいます。こういうところに代数らしさを感じます。


上と同じ

$$\sigma =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}, \: \tau =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 3 \quad 1}$$

に対して $\sigma \circ \tau, \:\: \sigma ^{-1} \circ \tau \circ \sigma$ はどうなるでしょうか。


$$\sigma \circ \tau=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 3 \quad 1}=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{1 \quad 3 \quad 2}.$$


   $\sigma ^{-1}$ は逆置換なので、$\sigma ^{-1}=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}^{-1}=\dbinom{2 \quad 1 \quad 3}{1 \quad 2 \quad 3}=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}$.

したがって、最初の $\tau \circ \sigma$ の結果も用いて

$$\sigma ^{-1} \circ \tau \circ \sigma=\sigma ^{-1} \circ (\tau \circ \sigma)=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{3 \quad 2 \quad 1}=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{3 \quad 1 \quad 2}.$$

※ 答え方はいろいろあると思いますが、上と下が対応しているのが肝心です。たまたま今の場合は、$\sigma ^{-1}=\sigma$ でした。 一般には、$\sigma ^{-1}\neq \sigma, \: \tau \circ \sigma \neq \sigma \circ \tau$ です。


大学以降の数学をする場合には、可換でないことの方が多くなるので注意してください。また順番にも気を付けてください。たぶん、線形代数を学びながら徐々に修得していくものなのだと思います。▢

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