当初の目的地まで辿り着きました。
集合 $A \: (\neq \varnothing)$ から自分自身への全単射(双射)全体を考え、それを $S(A)$ と書くことにします。恒等写像 $1_A$ はこれを満たすので $S(A) \neq \varnothing$ です。
$S(A):=\{f:A \longrightarrow A \mid 全単射 \}$.
この集合 $S(A)$ は合成 $\circ$ を二項演算として群を成し、対称群と呼ばれています(※1)。
特に、集合 $A$ が有限集合で、その元の個数がn個であるときn次対称群と呼び、記号 $S_n$ または $\mathfrak{S}_n$ などで表されます(※2)。
[数学用語]
群 $G$ の元の個数が有限のとき有限群といい、その群 $G$ の元の個数は位数(イスウ)と呼ばれ、記号 $|G|, \: \#(G)$ などで表されます。
(ここからが本題)
n次対称群 $S_n$ の位数を調べてみます。
$n=1$ のとき、$A=\{a\}$ なので $1_A:a \mapsto a$ だけです。
よって $S_1=\{1_A\}$ であり、$|S_1|=1$.
$n=2$ のとき、$A=\{a, \; b \}$ なので
$1_A:a \mapsto a, \: b \mapsto b$ または $f:a \mapsto b, \: b \mapsto a$
の2つが考えられます。
よって $S_2=\{1_A, \: f \}$ であり、$|S_2|=2$.
では、$n=3$ のとき $|S_3|$ の値を考えてみてください。
ここで、説明のために記号を導入します。
考えている集合が有限集合なので $\{a, \: b, \: c \}$ よりも $$\{a_1, \: a_2, \: a_3 \}$$ という表記の方が便利です。こうすれば $n=4, \: 5, \: 6,...$ となっても新たに記号を選ぶことなく使えます。そうすると全単射による対応もうまく工夫できます。
例えば、$a_1 \mapsto a_2, \: a_2 \mapsto a_3, \: a_3 \mapsto a_1$ という対応を $$\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 3 \quad 1}$$
で表すことにします。上の段と下の段がその対応を表します。1の下が2なので $$a_1 \mapsto a_2$$
を表していると約束するのです。便宜的に導入したように見えますがこの記号は一般に使われを置換(チカン)と呼びます(※3)。置換を表すときにはギリシャ文字の $\sigma, \: \tau, \: \rho$ などが使われます。
例えば、$\sigma =\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}$ であれば、 $$\sigma(1)=2, \: \sigma(2)=1, \: \sigma(3)=3$$
となります。
説明の準備ができたので、先ほどの答えをいいます。$|S_3|=6$ です。
解説 集合 $A=\{a_1, \: a_2, \: a_3\}$ のとき、全単射は次の通りです:
$$1_A=\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{1 \quad 2 \quad 3}, \: \dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 3 \quad 1}, \: \dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{3 \quad 1 \quad 2},$$
$$\dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{2 \quad 1 \quad 3}, \: \dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{3 \quad 2 \quad 1}, \: \dbinom{1 \quad 2 \quad 3}{1 \quad 3 \quad 2}$$
の6個です。この数は $3!$ です。なぜなら、$1, \: 2, \:3$ の対応先は これら $1, \: 2, \:3$ を並び換えたものです。3個の数の並び換えなので 階乗 が使えるのです。▮
上の解説によって、4次対称群 $S_4$ の位数は $|S_4|=4!$ です。これは一般化できn次対称群 $S_n$ の位数は $|S_n|=n!$ です。
n次対称群や置換と最初に出会うのは線形代数の行列式だと思います。群も一緒に紹介されるかもしれませんが、線形代数の最初は計算の修得に力を入れましょう。▢
※1 群であることを確認するには次を示します。
① 写像の合成が閉じている:$f, \: g \in S(A)$ に対して $g \circ f \in S(A)$.
② 結合律が成り立つ:$f, \: g, \: h \in S(A)$ に対して $(f \circ g) \circ h=f \circ (g \circ h)$.
③ 単位元の存在:恒等写像 $1_A$ が単位元に相当し、$1_A \circ f=f \circ 1_A=f$.
④ 逆元の存在:逆写像 $f^{-1}$ が逆元に相当し、$f \circ f^{-1}=f^{-1} \circ f=1_A$.
群に関しては「代数学 群の紹介」、①~④は前回の内容が参考になります。
※2 対称群は symmetric group なので S が使われます。$\mathfrak{S}$(エス) はドイツの飾り文字で、ドイツ文字を使っているのは文字 S が他の意味で使われることが多く区別したいからです。高校生が $S_n$ をみたら 初項から第n項までの数列の和 だと思いますね。
※3 n次対称群 $S_n$ の元をn次の置換と呼びます。なのでここで紹介した置換は3次の置換です。もちろん全単射の写像です。
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