前回触れようかどうか迷ったのですが、混乱を招くと思い書かなかったことから始めます。
全射、単射、全単射(双射)は抽象的で何がうれしいのか学びを進めないと感じられないと思いますが、もしも写像が全単射であれば逆の対応が考えられます。
写像 $f:A \longrightarrow B$ が全単射であるということは、2つの集合 $A, \: B$ の各元が1対1に対応するということです。なぜなら、全射であることから $A$ の元が満遍なく $B$ に対応し、単射であることから $B$ のどんな元を考えても対応している $A$ の元は1つだけだからです。
最後の部分が怪しく感じますか。それなら任意に $b \in B$ を考えて、これに対応している元が2つ $a, \: a' \in A$ あるとしましょう。つまり $b=f(a)=f(a')$ です。でも単射なのだから $a=a'$ となります。別の元が対応していると思ったらその元は等しかったのです。
これにより写像 $f:A \ni a \mapsto b \in B$ に対し、逆対応 $B \ni b \mapsto a \in A$ が考えられます。この逆対応を元の写像に対する逆写像といい、記号 $f^{-1}$ で表します。逆対応が写像になっていることと全単射であることは各自で確認してください(※0)。
注:$f^{-1}$ は、$f$ の逆写像 または $f$ inverse (f インヴァース) と読みます(※1)。$f$ の -1 乗と読んでしまったら違う意味に取られます。inverse は 逆 の意の英語です。
例(指数関数・対数関数)
指数関数 $f:\mathbb{R} \ni a \mapsto 2^a \in \mathbb{R}$ は単射ですが、終域を $\mathbb{R_{>0}}$ とすれば全単射になります。したがって逆写像を考えることができ、それが対数関数です。
$f^{-1}:\mathbb{R_{>0}} \ni b \mapsto c \in \mathbb{R}$ (ただし、$c$ は $b=2^c$ を満たす実数)
も全単射であり、$f^{-1}$ を $\log_2$ と書きました。関数を意識した書き方をすれば
$y=\log_2(x)$
ですが、ふつうは $y=\log_2x$ と書きます. ▮
注:逆関数は高校数学Ⅲで学びますが、逆関数を求める問題は元の関数が全単射であることが前提になっています。問題文に「逆関数を求めよ」と書かれているので気にしなかったと思いますが、出題者は確認しているはずです。
次に、3つの集合 $A, \: B, \: C \: (\neq \varnothing)$ と2つの写像 $f:A \rightarrow B, \: g:B \rightarrow C$ が与えられているとします。このとき $a \in A$ をとると
$a \mapsto b \mapsto c$. ただし、$b=f(a), \: c=g(b)$
が考えられます。2つの写像によって $A \ni a \mapsto c \in C$ という対応を得ますが、これを写像 $f, \: g$ の合成といい $g \circ f$ と書きます。$c=g(b)=g\big(f(a) \big)$ であるから
$(g \circ f)(a)=g\big(f(a) \big)$ (★)
が成り立ち、$g \circ f:A \longrightarrow C$ です。
注:$g \circ f$ は $f$ の次に $g$ が作用していることを表します。高校数学までは交換可能であることが多かったのですが、大学以降の数学は順序にも気を使います。$a-b$ と $b-a$ が異なったように、 $g \circ f$ と $f \circ g$ は一般には異なります。
例(写像の合成)
関数 $f, \: g:\mathbb{R} \longrightarrow \mathbb{R}$ を
$f(x)=x^2, \: g(x)=x+1$
とします。このとき
$\big(g \circ f\big)(x)=g\big(f(x)\big)=g(x^2)=x^2+1$,
$\big(f \circ g\big)(x)=f\big(g(x)\big)=f(x+1)=(x+1)^2$
となるので、$g \circ f \neq f \circ g$ です。▮
注:$f:A \longrightarrow B$ と $g:A \longrightarrow C$ に対して
$f=g$ とは、すべての $a \in A$ に対して $f(a)=g(a)$ であるということです。
(関数が等しいとは、すべての元に対して関数の値が等しいということです)
一方
$f \neq g$ とは、$f(a) \neq g(a)$ となる $a \in A$ があるということです。
(関数が等しくないとは、関数の値が等しくない元が存在するということです)
上の例で $g \circ f \neq f \circ g$ であるのは、$(g \circ f)(0)=1=(f \circ g)(0)$ なのですが $(g \circ f)(1)=2 \neq 4=(f \circ g)(1)$ だからです(※2)。▮
最後に合成写像に関する結果だけを紹介しておきます。
命題 4つの集合 $A, \: B, \: C, \: D \: (\neq \varnothing)$ と3つの写像 $f:A \rightarrow B, \: g:B \rightarrow C, \: h:C \rightarrow D$ が与えられているとします。このとき次の結合律が成り立つ:
$(f \circ g) \circ h=f \circ (g \circ h)$. ▮(※3)
注:この命題が主張しているのは、合成の順序に依らないということです。
実数上の関数を3つ考えて具体例を作り、命題が成り立っていることを確認してみてください。数学の本を読むときには、こういうことをしながら読み進めるので、小説を読むようにスラスラとはいかないのがふつうです。このように例を考えることで理解が深まります。その挙げる例も学びが進むといろいろなものが考えられるようになり、これも数学をたのしむ一つです。▢
※0 定義を思い出すか、「関数と写像」「全射、単射、双射」をご覧ください。
※1 英語では inverse of f と読むようです。
参考文献:数学 英和・和英辞典(共立出版社)
※2 等号は乱用されますが、対象(数、集合、写像など) によって意味が異なるので注意してください。最初は大変だと思いますが、常に注意を払っているといつの間にか慣れているものです。最初が適当だと、後から大混乱します。
※3 証明は略しますが、"関数が等しい" ことを示せばいいので、任意の元 $a \in A$ を仮定して左辺、右辺をそれぞれ (★) を使って計算して等しくなることを確認すれば終わりです。
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