2023/02/05

3次方程式の根の公式を導く ~ 高校数学Ⅱ+アルファ ~

前回は、一般の3次方程式

$$ax^3+bx^2+cx+d=0 \quad (a, \: b, \: c, \: d \in \mathbb{R},\: a \neq 0)$$

$$x^3+px+q=0 \quad p, \: q \in \mathbb{R} \:\: \cdots (*)$$

のように表せることをみました。今回はこの3次方程式を解きます。


使う道具は3次式の因数分解公式

$$a^3+b^3+c^3-3abc=(a+b+c)(a+b\omega+c\omega^2)(a+b\omega^2+c\omega)$$

で、この式を利用して $(*)$ を因数分解します。左辺の $a$ を $x$ とし、$x$ について整理し $b, \: c$ を決定します。

$$x^3-3bcx+(b^3+c^3)=(x+b+c)(x+b\omega+c\omega^2)(x+b\omega^2+c\omega) \cdots (1)$$

と因数分解できれば求めたい根は

$$x=-b-c, \: -b\omega-c\omega^2, \: -b\omega^2-c\omega$$

です。


式 $(1)$ と $(*)$ の係数を比べると

$$bc=-\dfrac{\:p\:}{3}, \: b^3+c^3=q .$$

この式を満たす $b, \: c$ を見つければ因数分解できます。第一式を3乗すると

$$b^3c^3=-\dfrac{\:p^3\:}{27}, \: b^3+c^3=q .$$

見やすいように、$B:=b^3, \: C:=c^3$ と置くと

$$BC=-\dfrac{\:p^3\:}{27}, \: B+C=q .$$

この式を満たす $B, \: C$ は $t$ の2次方程式

$$t^2-qt-\dfrac{\:p^3\:}{27}=0$$

の根です。根の公式により

$$t=\dfrac{\:q\pm \sqrt{q^2+\dfrac{\:4p^3\:}{27}}\:}{2},$$

$$t=\dfrac{\:q\:}{2}\pm \sqrt{\dfrac{\:q^2\:}{4}+\dfrac{\:p^3\:}{27}}. \:\: 《← check!》$$

一方が $B$ で、もう一方が $C$ の値です。

$$B=\dfrac{\:q\:}{2}+\sqrt{\dfrac{\:q^2\:}{4}+\dfrac{\:p^3\:}{27}}$$

とすると

$$b^3=\dfrac{\:q\:}{2}+\sqrt{\dfrac{\:q^2\:}{4}+\dfrac{\:p^3\:}{27}}.$$

これを満たす $b$ の中の1つを選び(どれを選んでも最終結果は変わりません)

$$b=\sqrt[3]{\:\dfrac{\:q\:}{2}+\sqrt{\dfrac{\:q^2\:}{4}+\dfrac{\:p^3\:}{27}}}$$

とします。このとき $bc=-\dfrac{\:p\:}{3}$ によって

$$c=\sqrt[3]{\:\dfrac{\:q\:}{2}-\sqrt{\dfrac{\:q^2\:}{4}+\dfrac{\:p^3\:}{27}}}$$

となります。《← check!》

よって、3つの根 $x_1, \: x_2, \: x_3$ は

$$x_1=-\sqrt[3]{\:\dfrac{\:q\:}{2}+\sqrt{\dfrac{\:q^2\:}{4}+\dfrac{\:p^3\:}{27}}}-\sqrt[3]{\:\dfrac{\:q\:}{2}-\sqrt{\dfrac{\:q^2\:}{4}+\dfrac{\:p^3\:}{27}}},$$

$$x_2=-\sqrt[3]{\:\dfrac{\:q\:}{2}+\sqrt{\dfrac{\:q^2\:}{4}+\dfrac{\:p^3\:}{27}}}\:\omega-\sqrt[3]{\:\dfrac{\:q\:}{2}-\sqrt{\dfrac{\:q^2\:}{4}+\dfrac{\:p^3\:}{27}}}\:\omega^2,$$

$$x_3=-\sqrt[3]{\:\dfrac{\:q\:}{2}+\sqrt{\dfrac{\:q^2\:}{4}+\dfrac{\:p^3\:}{27}}}\:\omega^2-\sqrt[3]{\:\dfrac{\:q\:}{2}-\sqrt{\dfrac{\:q^2\:}{4}+\dfrac{\:p^3\:}{27}}}\:\omega$$

となります。▮


抽象的な式変形だったので同じ手法で具体的に解いてみましょう。上の議論が理解できたのなら、根の公式を使ってみてください。

例題 3次方程式 $x^3-6x^2+6x-2=0$ を解け。  【動画あり】←クリック

解答解説 因数定理を利用しても整数解は見つけられません。《← check!

まずは前回の方法を用いて2次の項を消去します。

$x=y+2$ と未知数を変換すると

$$(y+2)^3-6(y+2)^2+6(y+2)-2=0 ,$$
$$y^3-6y-6=0. \:\: 《← check!》$$

これも整数解は見つけられません。そこで $(1)$ と比較して $b, \: c$ を1組決定します。すると

$$bc=2, \:\: b^3+c^3=-6q ,$$

$$b^3c^3=8, \:\: b^3+c^3=-6 .$$

2次方程式

$$t^2+6t+8=0$$

を解くと

$$t=-2, \: -4 .$$

したがって

$$b^3=-2$$

とすると($b^3=-4$ としても最終結果は同じになります)《← check!》

$$b=-\sqrt[3]{2}.$$

(実際は3つの根 $-\sqrt[3]{2}, \: -\sqrt[3]{2}\:\omega, \: -\sqrt[3]{2}\:\omega^2$ を持ちますが、いずれか1つを選びます)

このとき $bc=2$ より

$$c=-\sqrt[3]{4}. \:\: 《← check!》$$

したがって

$$y^3-6y-6=(y-\sqrt[3]{2}-\sqrt[3]{4})(y-\sqrt[3]{2}\:\omega-\sqrt[3]{4}\:\omega^2)(y-\sqrt[3]{2}\:\omega^2-\sqrt[3]{4}\:\omega)$$

と因数分解でき、根は

$$y=\sqrt[3]{2}+\sqrt[3]{4}, \: \sqrt[3]{2}\:\omega+\sqrt[3]{4}\:\omega^2, \: \sqrt[3]{2}\:\omega^2+\sqrt[3]{4}\:\omega.$$

未知数を変換して解いているので、与えられた方程式の根は

$$x=2+\sqrt[3]{2}+\sqrt[3]{4}, \: 2+\sqrt[3]{2}\:\omega+\sqrt[3]{4}\:\omega^2, \: 2+\sqrt[3]{2}\:\omega^2+\sqrt[3]{4}\:\omega.$$

です。▮

3次方程式の根の公式を覚えるのはたいへんそうですが、理屈が分ればこのように解くことができます。2次方程式を平方完成で解くようなものです。


高校の恩師が「3次方程式の解法なら気づける」と言ったのを思い出し、自分だったらどう解くかを考えていたときに3次式の因数分解公式を用いれば解けることに気づきました。これはそれを書き起こしたものです。ただし、前回紹介した未知数の変換によって3次方程式が $(*)$ のように変形できることは過去に別の解法を追ったことがあるので知っていました。もちろん、16世紀のイタリアに居たとしても、フォンタナ(タルターリア)やカルダーノのように発見できる自信はありません。先人たちによって整備された数学を学んだからに過ぎません。

九州大学理学部の落合啓之教授が高校生向けに「3次方程式」の話をしています。三部作になっていて、ガロア理論にも触れています。▢

2023/01/28

3次方程式の根の公式を導く下準備

 一般の3次方程式は

$$ax^3+bx^2+cx+d=0 \cdots (1)$$

(ただし、$a, \: b, \: c, \: d \in \mathbb{R},\: a \neq 0$)

と表すことができますが、巧みな式変形によって

$$x^3+px+q=0 \quad p, \: q \in \mathbb{R} \cdots (*)$$

のように表すことが出来、導こうとしている根の公式はこの方程式に対するものです。



ではどのように変形するかというと、$a \neq 0$ であるから $(1)$ の両辺を $a$ で割って

$$x^3+\dfrac{\:b\:}{a}x^2+\dfrac{\:c\:}{a}x+\dfrac{\:d\:}{a}=0$$

と出来ます。説明をかんたんにしたいので

$$x^3+b'x^2+c'x+d'=0 \cdots (2)$$
のように書き直します。この式から2次の項が消去できれば $(*)$ を得ます。




$x=y-\dfrac{\:b'\:}{3}$ によって未知数を変換するとうまく行きます。実際 $(2)$ に代入すると
$$\Big(y-\dfrac{\:b'\:}{3}\Big)^3+b'\Big(y-\dfrac{\:b'\:}{3}\Big)^2+c'\Big(y-\dfrac{\:b'\:}{3}\Big)+d'=0,$$
$$y^3+\Big(-\dfrac{1}{\:3\:}b'^2+c'\Big)y+\Big(\dfrac{2}{\:27\:}b'^2-\dfrac{1}{\:3\:}b'c'+d'\Big)=0$$

となり、式は込み入っていますが見事に2次の項が消去できました。この式で $y$ の係数を $p$、定数項を $q$ にし、$y$ を $x$ にして書き直したのが $(*)$ です。

ところで、どのようにして未知数の変換 $x=y-\dfrac{\:b'\:}{3}$ を得たか分かりましたか。「こうすれば上手くいく」も1つの答えですが、時間を掛ければ気づく人もいると思います。
$$(x+a)^3=x^3+3ax^2+3a^2x+a^3$$
の右辺の2次の項に着目して、$b'x^2$ を消去しようと思えば $a=-\frac{\:b'\:}{3}$ としますよね。
仕組みは単純ですが、発見するのはかんたんではありません。
まして $(1)$ が $(*)$ に変形でき、この形が一般的に解けるなんて思えますか。




上でやっていることを具体例で確認しておきましょう。
 根から導いた方程式 $x^3+3x^2-6x-8=0$ を上の未知数の変換を用いて解いてみます。
 なお、この方程式の根は $-4, \: -1, \:2$ です。

$x=y-1$ とすると
$$(y-1)^3+3(y-1)^2-6(y-1)-8=0,$$
$$y^3-9y=0.$$
これを解くと
$$y(y+3)(y-3)=0,$$
$$y=-3, \: 0, \: 3.$$
したがって、元の方程式の根は $x=y-1$ によって
$$x=-4, \: -1, \: 2$$
となり、根が一致しています。▮


次回、3次方程式の根の公式を導きます。▢

2023/01/15

解答解説『解けないと思っていたら・・・』

(再掲) 年賀問題2023

$$\displaystyle \sum_{k=1}^m 2^{k-1}=2023+n!$$

を満たす正の整数の組 $(m, \: n)$ をすべて求めてください。


答え  $(m, \: n)=(11, \: 4)$.  (これ以外に存在しないことの証明が必要です)

 noteで出題したのとは少し変えたので、「m=11」 になっています。

解答例
$$\displaystyle \sum_{k=1}^m 2^{k-1}=2^m-1$$

なので与えられた式は

$$2^m-2024=n!$$

と変形できます。ここで $n!>0$ より $m>10$ であり、 $2024=2^3\cdot 11 \cdot 23$ であることから $2^3$ で括って

$$2^3\cdot (2^{m-3}-11 \cdot 23)=n!.$$

右辺が階乗なので、左辺も階乗の形にならなければなりません。そこで必要条件を考えてみます。見やすいように左辺をもう少し変形してみます。

$$4\cdot 2\cdot 1\cdot (2^{m-3}-11 \cdot 23)=n!. \quad \cdots (*)$$

すると $2^{m-3}-11 \cdot 23$ が3を因数に持たなければならないことが分かります。
そこで mod 3 で考えると

$$2^{m-3} \equiv 11 \cdot 23 \equiv 1 \pmod 3 .$$

$2 \equiv -1 \pmod 3$ より

$$(-1)^{m-3} \equiv 1 \pmod 3$$

なので

$$m-3 \equiv 0 \pmod 2 ,$$

$$m \equiv 1 \pmod 2 \quad \cdots [1]$$

であることが必要です。

さらに $n \geqq 5$ で (*) が成り立つには  $2^{m-3}-11 \cdot 23$ が5を因数に持たなければならないので

$$2^{m-3} \equiv 11 \cdot 23 \equiv 3 \pmod 5 .$$

でなければならず、$3 \equiv 8=2^3 \pmod 5$ かつ $2^4 \equiv 1 \pmod 5$ より

$$m-3 \equiv 3 \pmod 4 ,$$

$$m \equiv 6 \equiv 2 \pmod 4 \quad \cdots [2]$$

である必要があります。ところが [1], [2] を同時にみたす整数 $m$ は存在しないので、$n \geqq 5$ で (*) が成り立つことはありません。したがって (*) が成り立つには

$$2^{m-3}-11 \cdot 23=3$$

のときしかあり得ず

$$2^{m-3}=11 \cdot 23+3=256=2^8$$

から $m=11$ のときのみです。このとき $n=4$ です。▮

(補足) [1], [2] を同時にみたすmが存在しない理由は、[1] を満たすmは奇数で [2] を満たすmが偶数だからです。



種の元
原案では $n!$ の部分を $n^2$ にしていました。これは

$$2023=1+2+2^2+2^5+2^6+2^7+2^8+2^9+2^{10}$$

で、2023 に 25 を足せば $2048=2^{11}$ となることから

$$2023+n^2=2^m$$

と勘違いしてのものでした(※1)。

$$\displaystyle \sum_{k=1}^m 2^{k-1}=2023+n^2$$

とした場合には解が存在しなく、うまく修正も出来なかったので已む無く $n!$ にし、これを note で出題しました。$n$ を大きくするに連れて急速に $n!$ は大きくなるので、あまり検討しないまま一般的に解けないだろうと判断し1組だけ見つける形にしました。

投稿後問題が気になり、一般的に解けないだろうと思いつつ他に解をもつ条件を考えていたら解けたのです。どこかに誤りがあるだろうと思っていたのですが、見つけられなかったので急遽投稿したのです。▢


※1 この式も一般的に解けますが、これが分かったのは 2023.1.14 です。

2023/01/08

年賀問題の種明かし

2023年の年賀問題

$$2023=m^2-n^2$$

を満たす正の整数の組 $(m, \: n)$ をすべて求めてください。


年賀問題の答え $(m, \: n)=(68, \: 51), \: (148, \: 141), \:(1012, \: 1011).$



すべて見つけられましたか。問題のアイディアは

$$2023=7 \cdot 17^2$$

で、$7=16-9=4^2-3^2$ と出来ることから得ました。これにより

$$2023=7 \cdot 17^2=(4^2-3^2) \cdot 17^2=(4 \cdot 17)^2-(3 \cdot 17)^2$$

が得られるのでこれを一般化して問題にしました。



解説

$$7 \cdot 17^2=2023=m^2-n^2=(m+n)(m-n)$$

$m, \: n$ が正の整数なので $m+n > m-n$ です。幸い 2023 の約数がすべて奇数なので

$$(m+n, \: m-n)=(7 \cdot 17^2, \: 1), \: (17^2, \: 7), \: (7 \cdot 17, \: 17)$$

の3組を解いたのが答えになります。▮


※ 1月1日12時に投稿した『解けないと思っていたら・・・ ~年賀問題2023(note版)~』の解答は1月15日に投稿予定です。

2023/01/01

解けないと思っていたら・・・ ~年賀問題2023(note版)~

迎春2023

解けないと思っていた問題が解けたようです。

noteでは『理一の数学事始め』を書いていて、今年はnote版にも年賀問題を投稿しました。note版はそこで話した範囲で解ける問題というのが条件です。

note版に投稿した問題は当初の問題を少し変えた形で、その問題をこちらに投稿しようと考えていたのですが解が存在しないことが分かり諦めたのです。それを修正したのがnote版で、その一般的な解法が見つからなかったので「一組挙げよ」という形にしました。こちらに投稿した問題は、元々はnote版として用意していたものです。


ところが先ほど考えていたら一般的に解け・・・ました(怪しい)。問題は次の通りです:


年賀問題2023

$$\displaystyle \sum_{k=1}^m 2^{k-1}=2023+n!$$

を満たす正の整数の組 $(m, \: n)$ をすべて求めてください。


:一般的に解けたと判断していますが、後日、もう一度その解答を見直して間違いが見つかるかもしれません。そのときは訂正の報告をします。



ちなにみ原案は次の通りです:

$$\displaystyle \sum_{k=1}^m 2^{k-1}=2023+n^2$$

を満たす正の整数の組 $(m, \: n)$ をすべて求めてください。


※ これは解を持たないというのが答えです。「解がないことを示せ」という問題は好まれないので却下しました。▢

年賀問題2023 ~みなさんにとって素敵な年になりますように~

今年も年賀問題を作ってみました。たのしんでもらえると幸いです。


年賀問題  

$$2023=m^2-n^2$$

を満たす正の整数の組 $(m, \: n)$ をすべて求めよ。


般若湯やおせちなどをお伴に気楽に考えてみてください。

2023.1.1 こと はじめ

※1月8日9時30分に解答を公開します。

2022/12/24

虚数の平方根? ~高校数学、代数学、複素解析学~

 問題 $\sqrt{2\:}\: i$ と $\sqrt{2i\:}$ は等しいのか等しくないのか。
  等しくない場合 $\sqrt{2i\:}$ はどのような複素数か $a+bi \: (a, \: b \in \mathbb{R})$ の形で表せ。


みなさんは2次方程式 $3x^2-2x+1=0$ を解いたときに

$$x=\dfrac{1 \pm \sqrt{2i}}{3}$$

というように書いてしまったがあるでしょうか。

初めて虚数単位を習ったのは中3数学でした。ルートの中身がマイナスのときには $i$ を付けて表現する方法があると教えてくれたからです。当時の学習指導要領にどう書かれていたかは知りません。ひょっとしたら、問題作成ミスでルートの中身がマイナスになるものが含まれてしまったのかもしれません。

高校で再び根の公式および虚数単位を習いルートの中身がマイナスになったときは $i$ を使って書くと教えられました。でもルートの中身がマイナスになったら $i$ を付けると覚えているだけなので $\sqrt{-2}$ を $\sqrt{2\:}\: i$ と書かずに $\sqrt{2i\:}$ と書いてしまうことがありました。理解して書いている訳ではないので、間違っているなんて思ってもいませんでした。

数学演習の時間に $\sqrt{2\:}\: i$ と $\sqrt{2i\:}$ は別の数だと指摘されて初めて認識しました。数学演習は別の教師が指導していたので説明も多少異なり

$$\sqrt{-2\:}=\sqrt{2\:}\sqrt{-1\:}=\sqrt{2\:}\: i$$

と説明されて正しい表記を覚えました(※1)。それまでは $i$ を $\sqrt{\:\:}$ のすぐ横に書いていたので、ルート記号の屋根に入ったり入らなかったりしていたのです。書き方は理解しましたが $\sqrt{2\:}\: i$ と $\sqrt{2i\:}$ がどう異なるかの説明はありませんでした。勉強嫌いの集団だったので難しい話を避けたのだと思います。この頃は質問するような生徒ではありませんでした。


ここで最初の問題になります。

                   問題 $\sqrt{2\:}\: i$ と $\sqrt{2i\:}$ は等しいのか等しくないのか。


これに答えるには $\sqrt{2i\:}$ を $a+bi \: (a, \: b \in \mathbb{R})$ のように表せれば解決します。でもここで問題が生じます


              $\sqrt{2i\:}$ はどういう意味なのでしょうか。


$i=\sqrt{-1\:}$ と定義していますが、これは2次方程式 $ax^2+bx+c=0 \: (a, \: b, \: c \in \mathbb{R})$ を根の公式で解いたときにルートの中身がマイナスになったときの処理方法で使うことが前提になっています。つまり、ルートの中身は実数です。虚数は想定していません。

したがって、定義しないと話が進められません。ということは高校数学の範囲では解決する術がありません。つまり $\sqrt{2i\:}$ 自体が考えられないのです。


答え 高校数学では問題自体が成り立たない。

なーんだと思いますよね。でも定義していないので仕方ありません。なお、高校数学Ⅲの複素数平面でも定義されてません。


ここから大学以降の数学になります。

代数ではルート記号は形式的なものと捉え、次のように解釈します(※2):

           $\sqrt{2i\:}$ は自乗すると $2i$ となる複素数を表す。


したがって $\sqrt{2i\:}$ は2次方程式 $x^2=2i$ の根ということになります。
:この解釈によって2次方程式の根の公式は複素数係数でも使えます)


ここで実数 $a, \: b$ に対して

$$x=a+bi$$

と置き、 $x^2=2i$ に代入して

$$2i=(a+bi)^2=(a^2-b^2)+2abi$$

を満たす $a, \: b$ を求めれば問題は解決します。実部、虚部を比較し

$$a^2-b^2=0 \: \text{かつ} \: 2ab=2.$$

第二式から $a, \: b$ は同符号なので、第一式から $a=b$ を得ます。

したがって

$$a=b=\pm 1.$$

よって

$$\sqrt{2i\:}=1+i \:\: \text{または} \:\: \sqrt{2i\:}=-1-i.$$

ゆえに

$$\sqrt{2\:}\: i \neq \sqrt{2i\:}. ▮$$


複素解析では次のように考えます。

$z$ を複素変数とするベキ関数 $f(z)=z^a \: (a \in \mathbb{C})$ は (複素変数の) 指数関数および対数関数を用いて次のように定義されます:

$$f(z):=e^{a \log z}=\exp(a \log z).$$

ここで、$\sqrt[n]{z}=z^{\frac{1}{n}}$.  特に $\sqrt{z}=z^{\frac{1}{2}}$とする。

これにより

  $\sqrt{2i\:}=(2i)^{\frac{1}{2}}=\exp({\frac{1}{2} \log 2i})$,

  $2i=2\exp(i \frac{\pi}{2})=2\exp(i \frac{\pi}{2}) \cdot \exp(i 2n \pi)=2\exp(i (2n+\frac{1}{2}) \pi) \: (n \in \mathbb{Z})$

であるから

$$\log 2i=\log2+(2n+\frac{1}{2})\pi i ,$$

$$\frac{1}{2}\log 2i=\frac{1}{2}\log2+(n+\frac{1}{4})\pi i$$

となり

$$\sqrt{2i\:}=\exp\Big(\frac{1}{2} \log 2 +i(n+\frac{1}{4})\pi\Big)=\exp\Big(\frac{1}{2} \log 2\Big) \cdot \exp\Big(i(n+\frac{1}{4})\pi \Big)$$

              $=\sqrt{2\:}\cdot \Big(\pm\frac{1}{\sqrt{2\:}}\pm\frac{1}{\sqrt{2\:}}i\Big)=\pm 1 \pm i .$  (複合同順) 

以下略 ▮


代数と複素解析とで整合性が取れていますね。

記憶違いかもしれませんが、ルート記号を自乗すればルートの中身になる複素数と定義して$\sqrt{i\:}$ を $a+bi \: (a, \: b \in \mathbb{R})$ で表せという大学入試問題があったと思います。▢


※1 $\sqrt{-2\:}=\sqrt{2\:}\sqrt{-1\:}=\sqrt{2\:}\: i$ の説明はもっともらしいのですが、最初の等号も第二の等号も約束です。当時は何の疑いもなく受け入れていました。

$\sqrt{ab\:}=\sqrt{a\:}\sqrt{b\:}$ と出来るのは $a>0, \: b>0$ のときであり、$\sqrt{-1\:}=i$ は約束です。


 実数の場合は $\sqrt{▲}$ と表記すれば、自乗して▲になる正の実数を表しましたね。複素数には正負がないので、$\sqrt{▲}$ は自乗すると▲になる複素数と解釈します。つまりルート記号は形式的なものです。その意味で

$$\sqrt{▲}=▲^{1/2}$$

と指数表記します。 これは解析でも同じように使わます。

形式的に使われる例
合同式 $x^2 \equiv 2 \pmod 7$ の解を形式的に

$$x \equiv \pm \sqrt{2\:} \pmod 7$$

と書き

$$\sqrt{2\:} \equiv 3 \: \text{または} \: \sqrt{2\:} \equiv 4 \pmod 7$$

となります。

有限体 $\mathbb{F_7}$ においては

      $\sqrt{2\:}=3, \: -\sqrt{2\:}=4$ または $\sqrt{2\:}=4, \: -\sqrt{2\:}=3$

と書けます。どちらにするかは決めることになります。

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...