2023/08/19

えっ・・・あぁそういうことか ~気になる記述~

 専門書であってもときどき気になる記述を見掛けます。その具体例を2つ挙げますが、やさしくないので高校数学の範囲でも例を2つ挙げます。

例1, 2では数学科の2, 3年生で学ぶ内容で紹介し、例3, 4は高校数学です。ひょっとしたら、気になるのは私だけなのかもしれません。後ほど解説もします。


例1《『線形代数 教科書』佐久間元敬 他共著の 「第7章 §2 べき零行列の標準形」 から》

  命題7.4 $n$ 次の正方行列 $A$ に対して,次は同値である

    (1) $A$ はべき零行列である   (2) $A$ は対角成分が0の三角行列に相似である

  証明 (2)⇒(1):$A$ の固有多項式は $\Phi_A(\lambda)=\lambda^n$ であるから,Caylay-Hamilton 

  の定理によって $\Phi_A(A)=A^n=O$.ゆえに $A$ はべき零である.▮




例2《『代数系入門』松坂和夫著の 「第4章 §4 線型写像の空間, 双対空間」 から》

   いま体 $K$ 上の線型空間 $V$ の1つの元 $x$ に対し,写像 $\hat{x}:V^* \rightarrow K$ を

$$\hat{x}(\lambda)=\lambda(x) \quad (\lambda \in V^*)$$

  によって定義する.次に,写像

$$x\mapsto \hat{x} \quad ・・・(♪)$$

  を考えると,これは $V$ から $V^{**}$ への線型写像である.さらに $\hat{x}=0$,すなわち,

  すべての $\lambda \in V^*$ に対して

$$\hat{x}(\lambda)=\lambda(x)=0$$

  とすれば $x=0$ であるから,(♪)は単射準同型写像である.(略)▮




   例3 $x$を変数とする2次方程式 $x^2+2x-5=0$ の正の解を求めよ。

   解答例         $x^2+2x-5=0$,

               $x=-1\pm \sqrt{6}$.

      $x > 0$ より
               $x=-1+\sqrt{6}$. ▮




   例4 $x$の2次方程式 $x^2+2ax+a+2=0$ が2つの正の解をもつとき、

     実数定数 $a$ の値の範囲を求めよ。

   解答例 2次方程式の2つの解を $\alpha, \: \beta$ とし, 判別式を $D$ とする.

    このとき2つの正の解をもつための必要十分条件は

              $D>0, \:\: \alpha+\beta>0$ かつ $\alpha\beta>0.$

         判別式を計算すると

             $D/4=a^2-(a+2)=a^2-a-2$

                 $=(a+1)(a-2)>0$,

                $a<-1$ または $2< a$. ・・・①

    解と係数の関係より

           $\alpha+\beta=-2a>0$ かつ $\alpha\beta=a+2>0$,

                  $-2 < a < 0$. ・・・②

    よって①, ②より
                 $-2< a <-1$. ▮



質問1 例3, 4はよく見かける解答を挙げましたが、気になる記述はありませんか。

   はじめにも書いたように、私だけかもしれません。


質問2 例1, 2に関してはどうですか。線形代数や代数の参考書としてよく知られている

           例1は佐武一郎著『線型代数学』(裳華房)
           例2は石田 信著『代数学入門』(実教出版)

   でも同じような記載になっています(※1)。

         [佐武] であれば4章1節の《付記. 最小多項式》

           [石田] であれば 3-5 線形空間の《双対空間~問の前》

   をご覧ください。





質問1について:

例3の気になる記述は「$x=-1\pm \sqrt{6}$」です。$x > 0$ だからです。

書くなら「$x=-1\pm \sqrt{6}$」を削除するか、「方程式 $x^2+2x-5=0$ を解くと」と書き入れるかです。

元ネタは線形代数演習のレポート問題で、この解答例は高校時代の真似です。


例4の気になる記述は「$=(a+1)(a-2)>0$,  $=-2a>0$,  $=a+2>0$」です。結果的にはそうなるのですが・・・。

$D>0, \: \alpha+\beta>0, \: \alpha\beta>0$ であって、$(a+1)(a-2)>0$,  $-2a>0$,  $a+2>0$ ではありません。

書くのなら

          $D>0$ であるから  $(a+1)(a-2)>0$. 

と記述します。高校数学Ⅱの教科書があれば確認してみてください。

あまり好まれないようですが

      $0< \alpha+\beta=-2a, \:\: 0< \alpha\beta=a+2$. よって $-2< a<0$. 

という書き方もあります。

この論理は三段論法の推移律と呼ばれるものです:

        A ⇒ B かつ B ⇒ C であるなら A ⇒ C である。


 


質問2について:例4の気になる記述と同じです。

例1の気になる記述 「$\Phi_A(A)=A^n=O$」

  Caylay-Hamiltonの定理は $\Phi_A(A)=O$ なので、$O=\Phi_A(A)=A^n$ です。


例2の気になる記述 「$\hat{x}(\lambda)=\lambda(x)=0$」

  $\hat{x}=0$ と仮定したのだから、$0=\hat{x}(\lambda)=\lambda(x)$ です。


このような記述のために時間を費やしてしまうことがあります。著者は理解して書いているので例4のような感覚なのだと思いますが、よく分かっていない者にとっては突然「=0」が出てくると戸惑うのです。この例1,2は短いので気づきやすいのですが、長い式変形の末に突然書かれたら意味不明です。もう一度最初から論理を追随し、自分なりに整理し、解きほぐすことになります。

でもこうした試みが理解力を上げてくれます。そもそも専門書には間違いが付きものです。初版本で記述に間違いのないものは存在するのでしょうか。そう考えると、私のものにも多くの誤りが眠っていることと推察します。

伊原康隆氏が『志学 数学』で書かれていました。初版本にはその著者の筆の勢いというのがあってよいものだと。▢


補足1 増刷の度に少しずつ誤りが訂正されます。20年程前からはネット上での訂正もあります。試しにお持ちの専門書「(書名) 訂正」で検索してみてください。

「環と体 訂正」で検索してみたら、「講座 数学の考え方 環と体 -朝倉書店」が出てきたのでクリックすると 正誤表 がありました。間違いが多過ぎて読むのを放棄した本です。正誤表をクリックしてみたら・・・訂正されてませんでした。
少しの記号ミスは些細で、証明ミスなら程度によりますが修正できます。主張のミスは証明にミスがなければ気づけます。でも定義のミスは、他の本、しかも同じような定義を採用しているものでないと初学者には無理だと思います。


補足2 例1, 2は、同期生のセミナーでの指導教官の指摘がきっかけです。その同期生はテキスト通りに解説したようですが、その記載に問題があったのです。もちろん別の内容(表現論)のセミナーです。その指摘で等号の使い方が理解できたと思います。これ以降このような記載を見かけるようになりました。つまり、気づいてなかったのです。

指導教官のついたセミナーの準備はたいへんですが、専門の知識が付くだけでなく本の読み方も学べます。院生はいわずもがな、大学生ならセミナーの時間を大切にしてくださいね。


※1 同じような記載になってしまうのは、[佐武] を参考に [佐久間] が書かれ、[松坂] を参考に [石田] が書かれたからだと思います。

ここに挙げた専門書は、放棄したものを除いて、いまでもよく使います。
佐武氏は『線型代数学』『線形代数』の2冊を書かれています。前者は線形代数の参考文献に必ず載るくらいの本です。学部の1,2年生にはかなり難しいと思いますが、専門性が高まるとその良さがだんだん感じられると思います。
私には難し過ぎて、学部時代には高木貞治氏の『解析概論』と並び本棚の飾りでした。素養を身に着けるまでは、無理せず、分かりやすい本がいいです。

感覚的には『白チャート』のような本をお薦めします。最近はそういう本が増えて良かったですね。英語が苦でないのなら、洋書の方が読みやすいこともあります。大学の図書館で探してみてください。

2023/07/08

三角関数の加法定理を直観的に理解するための図形

 三角関数の加法定理 任意の実数 $\alpha, \: \beta$ に対して

$$\sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta,$$

$$\cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta,$$


$$\sin(\alpha-\beta)=\sin\alpha\cos\beta-\cos\alpha\sin\beta,$$

$$\cos(\alpha-\beta)=\cos\alpha\cos\beta+\sin\alpha\sin\beta.$$


は三角関数で修得すべき項目の1つです。 

  「咲いたコスモス、コスモス咲いた」「コスモス コスモス、咲いた咲いた」

と覚えましたが

  「シンコス、コスシン」「コスコス、シンシン」

と覚える人もいるようです。中には直接覚えている人もいるかと思います。

「あれっ?タンジェントは?」と思ったかもしれませんが、これらの式から導けるし、今回の話には登場しないので省略しました。


この「加法定理を証明せよ」というのが 1999年に東京大学の入試で出題されたことは受験業界ではよく知られています。

高校数学の証明$+\alpha$ は『数学事始め』27.13三角関数(加法定理) をご覧ください。


これから次の2式

$$\sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta,$$

$$\cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta$$

がどのように導かれるかを説明します。


この説明で三角比を用いるので、三角比の性質を確認しておきます。



    性質 直角三角形において1つの鋭角を$\theta$とする。斜辺の長さが1のとき

      $\theta$の対辺の長さ(高さ)は $\sin\theta$, $\theta$の隣辺の長さ(底辺)は $\cos\theta$ である。

参考図


これを用いると、1つの鋭角が等しい直角三角形において、斜辺の長さが $a$ のとき


            対辺 $=a\sin\theta$,  隣辺 $=a\cos\theta$  


となります。(相似を用いた)

 


(再掲) 

$$\sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta, \:\cdots ①$$

$$\cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta. \:\cdots ②$$


 説明 下図において、点Iは 点Aを通り辺BDと平行な直線 と 直線CD との交点である。 

このとき ∠CBD = ∠ACI である。AB = 1 とし、①を示す。

    

   △ABCに着目すると   AC $=\sin\alpha$,  BC $=\cos\alpha$ である。

したがって

   △ACIに着目すると      IC $=$ AC $\cos\beta=\sin\alpha\cos\beta$,
   △CBDに着目すると  CD $=$ BC $\sin\beta=\cos\alpha\sin\beta$.

一方、△ABHに着目すると  AH $=\sin(\alpha+\beta)$.

よって AH = ID = IC + CD より

$$\sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta.$$



次に下図において、AB = 1 とし②を示す。

    

   △ABCに着目すると  AC $=\sin\alpha$,  BC $=\cos\alpha$ である。

したがって

   △CAIに着目すると     AI $=$ AC $\sin\beta=\sin\alpha\sin\beta$,
   △CBDに着目すると   BD $=$ BC $\cos\beta=\cos\alpha\cos\beta$.

一方、△ABHに着目すると   BH $=\cos(\alpha+\beta)$.

よって BH = BD - HD = BD - AI より

$$\cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta. \: ▮$$
※ 重複している部分がありますが、流れを重視しました。


注1 図に依存し細かい説明を省きましたが、気になる場合は各自で補ってください。

注2 これは加法定理の一般的証明ではなく、直観的に理解するためのものです。
  証明でなく、説明と書いたのはそのためです。


ところで、一般的証明になっていないのはなぜでしょうか。





上の説明は任意の実数ではありません。実は制約があり


           $\alpha>0, \: \beta>0$ かつ $0<\alpha+\beta<\dfrac{\:\pi\:}{2}$


です。ずいぶん条件が強いですね。

※ 「条件が強い」というのは、縛りがきついということです。このために適用できる範囲が狭くなっています。そのために $\alpha=\dfrac{\:\pi\:}{3}, \: \beta=\dfrac{\:\pi\:}{4}$ を適用することが出来ません。最初に述べた加法定理の条件は「任意の実数」なので $\alpha=\dfrac{\:\pi\:}{3}, \: \beta=\dfrac{\:\pi\:}{4}$ が適用できるだけでなく、$\beta$ の代わりに $-\beta$ を代入することもできます。これにより $\alpha- \beta$ の加法定理も得られます。▢


余談 加法定理の証明でもっとも優れていると思うのは、正規直交基底を用いたベクトルでの証明です。でも高校数学の範囲では難しいように思います。▮

2023/06/11

どちらの会社を選ぶ? ~ 論理・ろんり・logic ~

あなたはある会社の就職説明会に参加した。


        O興業「会社を守れないなら、家庭は守れない」


        T商事「家庭が守れないなら、会社は守れない」



これはそれぞれの会社で、毎日社員にも話していることだそうだ。これ以外に大きな違いは特になかった。


問題 あなたはどちらの会社を選びますか。











数学の問題ではないので、家庭と会社のどちらを大切にするかに依ります。なのでここでは考えるための手掛かりを話します。


日本の高度成長期、毎朝満員電車に揺られ、会社終わりは同僚と呑み屋に立ち寄り、子供たちが眠ってから帰宅というのが典型的なサラリーマン像でした。そういう人はT商事を選ぶかもしれません。


2つの会社の主張を見てみましょう。

       A興行「会社を守れないなら、家庭も守れない」

換言すれば

          「家庭が守れれば、会社も守れる」

と言っています。



       T商事「家庭が守れないなら、会社は守れない」

換言すれば

          「会社が守れれば、家庭も守れる」



対偶を取っただけですが、これで A興行は家庭が第一T商事は会社が第一ということが分かりました。あなたはどちらを選びますか。









論理シリーズを取り上げた切っ掛け

タイムラインに


     「外国人の人権を守れない国は、国民の人権も守れない国になる」


が「逆だろ、国民の人権も守れない国は・・・。算数もできんのか」と共に流れてきたのが切っ掛けです。この人は何を言いたいのかと考えてゾゾゾゾゾとしたのです。


算数のできる人が書いたのでしょ。ということは・・・ということです。▢

2023/05/21

論理パズル ~論理・ろんり・logic その2~

問題 カードが4枚あり、そのカードの片面には数字が一つ、もう一方の面にはアルファベットが一文字書かれています。

この4枚のカードについて

              「奇数の裏は母音である」

が正しいことを確認するには何枚のカードを裏返せば良いでしょうか。その最少枚数と裏返すカードを指摘してください。


            ※ この問題の対象者は高校2年生以降だと思いますが、実際はどうなのか
             わかりません。高校数学Ⅰで『集合と命題』を学ぶので高校2年生以降だ
       と判断したのですが、日本語を論理的に遣っているのなら年齢は問わない
             ようにも思います。少なくとも大学で使っている教科書を読むような人な
     ら、学部を問わず解けると思います。








問題の答え 「Kのカード」と「3のカード」の2枚を裏返せばよい


この問題を最初に知ったのは大学1年の頃だと記憶しています。数学セミナーの表紙に書かれていたと思うのですが、その雑誌が手元にないので真偽は不明です。それ以外でも似た問題を目にした記憶があるので、比較的知られている問題なのかと思います。

その数セミには問題と答えしか書かれてなかったと記憶しています。当時の私には直ぐには解けず、うんうん唸りながら時間を掛けて解きました。その数セミには「数学科の学生ならかんたんに解ける」ようなことが書かれていて、自分が該当しないことに軽い衝撃を受けました。大学3年生になる頃には論理に慣れるので、確かにそうなのかもしれません。


解説 4枚とも裏返せばかんたんに確認ができますが、最少枚数ではないことは分かります。「8のカード」を裏返す必要がないからです。分かりやすいように「奇数の裏は母音である」を「ならば」で書き直しましょう。

             「奇数ならば裏は母音である」

奇数は1,3,5,7,9,... で、母音は A, E, I, O, U です。

だから「8のカード」を裏返す必要がないのです。


「3のカード」を裏返してもしも母音でなかったら与えられた命題が正しくなくなるので、このカードは裏返す必要があります。ここまではかんたんに判断できるのですが、次からが問題です。


間違いが多いと思われるのは「Aのカード」を裏返すです。

母音が書かれているので裏返したくなってしまうのです。指導教官が論理の説明で好んでおっしゃっていました。「100点を取りたいならたくさん勉強しなさい」でも「たくさん勉強したのに100点を取れなかったからと言って文句を言わないように」と。つまり「AならばB」とは言いましたが「BならばA」とは言っていないと主張しているのです。

だから「Aのカード」を裏返す必要はないのです。裏返したときに「4」と書かれていても命題が間違いではありません。もう一度確認しますが、命題の主張は「奇数ならば裏は母音」です。


さて「Kのカード」ですが、これは裏返します。もしも裏返して「奇数」が書かれていたら命題が誤りになるからです。このように考えて裏返すと判断することも出来ますが、私は対偶を考えて判断します。つまり「奇数の裏は母音である」の対偶を取ると「子音ならば裏は偶数である」となります。

だから「Kのカード」は裏返します。▮


対偶の部分についての補足

対偶のつくり方は仮定と結論を否定し逆にします。対偶は元の命題と同値です。

            「奇数の裏は母音である」

           ⇔「奇数ならば裏は母音である」(言い直し)

           ⇔「母音でないならば裏は奇数でない」(ここで対偶をとった)

           ⇔「子音ならば裏は偶数である」(言い直し)

           ⇔「子音の裏は偶数である」(言い直し)

となります。

『数学事始め』でも書きましたが、数学に慣れると「pならばq」という命題を同時に「qでない ならば pでない」と読むようになります。そうしないと証明を読み解くことも大変です。数学者の証明は簡潔さから「それくらい判るだろ(以前に学んだこと)」というのを省略します。本の場合だと頁数制限も影響すると思います。授業では、口頭ですが、きちんと説明されていると思います。板書写しにとらわれて聞き逃すと大変な目にあいますが、こういう発言もメモしておくと後がらくです。


論理は学部学科に関係なく、大学では必須事項だと思うのですが現実を見るに大きな疑問を感じてしまいます。言葉の解釈を変えたり、概念を変えたりしてしまうのは勘弁願います。ジョージ・オーウェルの小説『1984』の世界はお断りです。▢

2023/04/30

「カラスは黒い」の否定は?  ~ろんり・論理・ロジック~

                「カラスは黒い」

を否定してください。





              「カラスは黒くない」

ではありません。

              「黒くないカラスがいる」

もしくは

              「あるカラスは黒くない」

となります。



ではなぜなのかをそれらしく思える手順で考察していきます。もしも形式的な説明を早く知りたいなら、この部分を飛ばして下の方の3⃣に進んでください。

考察を通じて

        「カラスは黒くない」と「あるカラスは黒くない」

が異なることを主張していることもわかります。



「カラスは黒い」を分析してみましょう。

このときのカラスは1羽でしょうか。それともカラス全体でしょうか。日本語は冠詞を付けなくても前後関係から複数か単数かを判断しますが、この場合は「カラス全体」を指していると判断するのが自然だと思います。曖昧さを無くしたいのなら、冠詞を意識して表現するのが良いですね。数学の議論をするときには曖昧さを避けるために

             「どのカラスも黒い」

もしくは

             「カラス ならば 黒い」

などと表現します。他にも表現はできそうですが、この2つで考察を進めます。

1⃣ まずは「どのカラスも黒い」を絵で表現してみます。カラスを四角で表すことにすると、1羽の黒いカラスは■で表すことができます。したがって「どのカラスも黒い」は

      ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

と表現できます。数が少ないですが、気持ちをこれですべてのカラスを表しているとみてください。これを否定するにはどうすればいいでしょうか。よくあるのは

      ▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢

のようにすべてを黒くないカラスにしてしまうものですが、否定するだけなので全否定しなくてもいいのです。例えば

      ■■■■■■■■■■■■■■■■▢■■■■■■■■■■■■

は「どのカラスも黒い」ではありませんね。ここ↑に黒くないカラスが一羽います。

このように1羽でも黒くないカラスがいればいいので

         「少なくとも1羽は黒くないカラスがいる」

で否定になっています。


2⃣ もう一つの「カラス ならば 黒い」についても考察してみます。
少し強調した感じで言い直すと

            「カラス ならば 必ず黒い」

       「カラス ならば 必ず黒く、黒くないことはない」

ということは

        「カラス であって 黒くないカラスはいない」

となります。したがって、黒くないカラスが1羽でもいれば否定したことになるので

            「黒くないカラスがいる」

で否定になります。




3⃣ 最後に、形式的な話をしておきます。高校数学でも触れられたりするようですが、数学科の1年生で習うことです。

条件をp, qで表すことにします。このとき

           「pである」の否定は「pでない」
           「pでない」の否定は「pである」

      「すべてpである」の否定は「pでないものが存在する」
       「あるものはpでない」の否定は「すべてpである」
※ 「pでないものが存在する」と「あるものはpでない」は同じことを意味しています。

       「pかつq」の否定は「pでない または qでない」
       「pまたはq」の否定は「pでなく かつ qでない」

     「pならばqである」と「pでない または qである」は同値
したがって
       「pならばqである」の否定は「pであるがqでない」


集合を利用して、次のように考えることもできます:

  条件「pである」を満たすもの全体をP, 条件「qである」を満たすもの全体をQ

とすると「pならばqである」は「$P\subset Q$」なので、否定すると「$P\not\subset Q$」。したがって「pであるがqでない」となります。


毎回、毎回 1⃣や2⃣のように考えることはせず、3⃣を使って形式的に考えます。言い換えれば数学の公式のように使うのです。きちんとこの辺りのことを知りたいのなら、下に挙げた参考書をご覧ください。大学生以上なら『論理哲学論考』がおもしろいと思います。



注:数学科だと多くの場合、記号で学ぶと思います。その方が覚えやすくかつ実践的だからです。これを数学科で学ぶのは悪名高い

     「イプシロン論法」「イプシロン-n論法」「イプシロン-デルタ論法」

のためです。そうでなければ集合・位相の最初の方で学ぶと思います。


新しい教育課程なら高校国語で論理の基礎を学ぶのかもしれません。▢


論理に関する参考書

      L.ヴィトゲンシュタイン著『論理哲学論考』(岩波文庫)
      山下正男著『論理的に考えること』(岩波ジュニア新書)

数学的なもの

    細井勉著『イプシロン・デルタを理解するために』(日本評論社)

2023/04/09

関数のグラフと図形は違うの? ~[続] 中高数学の壁~

     関数のグラフは図形ですが、図形が関数のグラフとは限りません。


※ ここでいう関数は実数 $x$ を変数とする実数値関数 $y=f(x)$ のことであり、図形は方程式 $F(x, y)=0$ の実数解を $xy$ 平面上の点とみたときの点全体のことです。


書いた動機

高校数学Ⅱで図形の方程式を学び、高校数学Ⅲで2次曲線として放物線を学びます。放物線は2次関数で学んだはずなのに再び学び、式の形が $y^2=4px \: (p \in \mathbb{R})$ となります。「この式は2次関数じゃないの?」その前に中学数学で学ぶ「直線の式は関数じゃないの?」と思いませんでしたか。
数学事始めシリーズでも『図形と方程式』で「円の方程式」が話せたのでいい機会です。



定義を思い出しましょう。

関数 $y=f(x)$ のグラフとは、$y=f(x)$ を満たす点 $(x, y)$ 全体

$$\{(x, y) \mid y=f(x) \:\:(x \in \mathbb{R}) \}$$

のことです。一方、方程式 $F(x, y)=0$ の表す図形とは、$F(x, y)=0$ の解を $xy$ 平面上の点とみたときの点全体

$$\{(x, y) \mid F(x, y)=0 \:\:(x, \: y \in \mathbb{R}) \}$$

のことです。

なので $F(x, y)=f(x)-y=0$ とみれば

     関数 $y=f(x)$ のグラフは方程式 $f(x)-y=0$ の表す図形です。



分かり難いので具体例で見ておきます。

1次関数 $y=2x-3$ のグラフ

$$\{(x, y) \mid y=2x-3 \:\:(x \in \mathbb{R}) \}$$

において、$F(x, y)=2x-y-3=0$ とみると直線

$$\{(x, y) \mid 2x-y-3=0 \:\:(x, \: y \in \mathbb{R}) \}$$

となるので関数のグラフは図形です。


逆に、直線 $2x-y-3=0$ の式を $y=2x-3$ と変形すると $y$ は $x$ の関数とみられるので、直線

$$\{(x, y) \mid 2x-y-3=0 \:\:(x, \: y \in \mathbb{R}) \}$$

は1次関数 $y=2x-3$ のグラフ

$$\{(x, y) \mid y=2x-3 \:\:(x \in \mathbb{R}) \}$$

とみることが出来ます。(※0)



ところが最初に述べたように、一般に逆は言えません。実際

       円 $x^2+y^2=1$ は関数のグラフではありません。(※1)



なぜなのでしょうか。

関数とは何かを確認します。

$y$ が $x$ の関数であるとは、 $x$ の値を1つ決めたときに $y$ の値が唯一つ決まるときをいいます。このとき、働きを $f$ で表し $y=f(x)$ と表記します。


これを踏まえて、方程式 $x^2+y^2=1$ を考察します。
$x=1$ とすると

$$1^2+y^2=1,$$

$$y^2=0,$$

$$y=0$$

となりますが、 $x=0$ とすると

$$0^2+y^2=1,$$

$$y^2=1,$$

$$y=\pm 1$$

となり $y$ の値が2つ決まるので関数ではありません。 

なお $x=2$ とすると

$$2^2+y^2=1,$$

$$y^2=-1$$

となり、この式を満たす実数 $y$ の値は存在しません。▮



円の方程式 $x^2+y^2=1$ を $y$ について解いてみます。

$$y^2=1-x^2,$$

$$y=\pm \sqrt{1-x^2\:}\:.$$

ここで

$$y=\sqrt{1-x^2\:}\:\: (-1\leqq x \leqq 1)$$

とすれば、$y$ は $x$ の関数です。この関数のグラフは円の上側の半円です。このような関数を $x^2+y^2=1$ で定まる陰関数(インカンスウ)といいます(※2)。もちろん

$$y=-\sqrt{1-x^2\:}\:\: (-1\leqq x \leqq 1)$$

も $x^2+y^2=1$ で定まる陰関数で、この関数のグラフは円の下側の半円です。▢



※0 中学数学で1次関数と直線の方程式を一緒に扱っているのはこのためです。
けれども、直線だからと言って1次関数のグラフとは限りません。
    直線 $y=3$ は1次関数の式ではなく、直線 $x=2$ は $x$ の関数ではない
からです。$y=3$ を定数関数とみることは出来ます。どんな $x$ に対しても3を対応させるという関数です。


※1 「円 $x^2+y^2=1$」 は省略した表現で

$$\{(x, y) \mid x^2+y^2=1 \:\:(x \in \mathbb{R}) \}$$

が円であり、$x^2+y^2=1$ は円を表す方程式です。もちろん $x^2+y^2-1=0$ のように表現しても構いません。図形であることを強調するために直線を

$$\{(x, y) \mid 2x-y-3=0 \:\:(x, \: y \in \mathbb{R}) \}$$

と書きましたが

$$\{(x, y) \mid y=2x-3 \:\:(x, \: y \in \mathbb{R}) \}$$

でも構いません。こういうところも分かり難いですよね。


※2 陰関数は多変数関数を扱うようになると顔を出します。陰関数定理または陰関数を微分するときに学びます。用語は学びませんが、高校数学Ⅲでも陰関数は顔を出します。

2023/03/26

中高数学の壁 ~多項式・方程式・関数~

次の違いが説明できるのなら、第一の壁は突破しています。題材は中学数学ですが、高校数学にも通じます。

   ① 多項式 $8x+5$
   ② 方程式 $8x+5=0$
   ③ 関数 $y=8x+5$
   ④ 直線 $y=8x+5$


これら4つはとても似ていますね。特に③④の区別は難しいように思います。

まず①多項式

①~④の文字 $x, \: y$ はすべて変数と呼ばれますが、このときの $x$ は不定元という呼び名が相応しいと思っています。$x$ に入るものを指定しない限り、$8$ と $x$ の積に5を足したものでしかありません。とても無機質な感じです。



次に③関数

①の文字 $x$ に入れるものを決め、それに対して値がただ一つ対応します。特に、関数という場合には実数(または 複素数)を想定し連続的な変化を考えます。なので文字 $x$ を変数と呼ぶのがとても似合っています。例えば③の式は定義域を実数全体とする実数値関数です。関数には定義域が付きものです。

定義域は実数でなく整数でもいいのですが、その場合は関数でなく写像という語が使われることが多いようです。関数も写像も同じだと書かれていることが多いですが、上でも述べたように関数という場合には実数または複素数が想定されます。

:複素数を定義域にした場合は複素関数と呼ばれます。大学数学の2,3年生で学びます。



そして②方程式

②, ④の式は方程式です。この場合の文字 $x, \: y$ は未知数という呼び名が似合います。この2式は "(多項式)=0" と書け、ある特定の値に対してのみ等号が成り立つ式です。

②の場合は $x=-\dfrac{5}{\:8\:}$, ④の場合は無数にありますがどんな値ても成り立つという訳ではありませんね。例えば $(x, \: y)=(-1, -3), (0, 5), (1, 13)$ などです。

:さらに学びが進むとこの説明には瑕疵があるのですが、いまはこれで良しとします。



最後に④直線(図形)

③も④も同じ形で書いていますが大きな違いがあります。
③は上で述べたように $x$ に対して $y$ がただ一つ対応することを意味しています。

一方の④をきちんと書くと次のようになります。

          $\{(x, \: y) \mid y=8x+5 \:\: (x, \: y \in \mathbb{R})\}$

この記号の意味するところは

       方程式 $y=8x+5$ の解全体を座標とする点の表す図形

ということです。その図形が直線なので方程式の前に「直線」と書きました。



以上の説明で気づいてほしいことは、単に $y=8x+5$ と書いただけでは何を意味しているか判断できません。中高生の多くは「関数の式」と読み取ると思いますが、実際には何を意味しているのか判断できません。もちろん、前後関係から判断できることもあります。

単に問題を解いているうちは大して問題にならないように思いますが、大学以降の数学をたのしもうと思ったらその式が何を表しているのかを確認しましょう。

いまはこう書いていますが、昔の自分はきちんと問題を読み取らずに解いていたように思います。それでも答えが合っていると解けたと勘違いしていたのです。

穴埋め問題では解けているかどうかの判断はできませんが、記述式のテストだとどれくらい理解しているのかが採点者には判ると思います。でも安心してください。厳しく採点してしまったら点数が悪くなってしまい受け入れ側にもマイナスにはたらきます。なので受験生には採点が甘くなりがちです。▢

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...