高校数学Ⅰで学ぶ三角比は、その名の通り三角形に関する話です。だから、扱う角も基本的に180度未満ですね。ただ、角を鋭角から鈍角に拡張するとき、0°,90°,180°も定義しますね。この三角比で学ぶ公式に余弦定理と三角形の面積公式がありますが、いずれも二辺挟角合同定理に関するものです。つまり、二辺挟角が定まれば三角形が一つに決まるので、辺の長さや面積が決まるのは必然で、当然、それらは求められるのです。それを形に表したのが、余弦定理と三角形の面積公式なのです。
この二辺挟角でもう一つ忘れてならないのは、高校数学Bで学ぶ内積の定義です。どの数学を学ぶにしても、研究者でない限り、先人が切り開いた道をたどることになるので、天下り的になってしまうのは仕方のないことです。この内積の定義は、先に進んでから有難みを感じることができるようになるものだと思います。もしも定義だけで有難みを感じられた人は、非凡な才能を有していると思います。
数学Bで学ぶ内積の定義 a・bは、2つのベクトルa, bおよびその挟角θに対して
a・b :=|a||b|cosθ
で定義しましたが、この定義を素直に受け入れられましたか。高校の先生は「定義したのだから、そういうもんだ」とおっしゃっていましたが、私自身はなかなか素直に受け入れられませんでした。内積があるのなら外積もあるだろうと考えたりしてました。実際、外積はあるのですが空間ベクトルで定義されるものです。
いつであったか記憶はないのですが、齋藤正彦氏の『線型代数入門』を読み直していて内積の定義の理由を理解しました。本に書いてあることなので広く知られているのかもしれませんが、私には発見でした。
内積を定義した研究者は、二辺挟角が決定すれば1つの三角形が決定するのだから、意味のある量がみつかるだろうと考えたのだと思います。このときに、二辺挟角に関する余弦定理をいじっていて気づいたのだと思います。
上の図に余弦定理を適用すると、
|b-a|^2=|a|^2+|b|^2-2|a||b|cosθ,
2|a||b|cosθ=|a|^2+|b|^2-|b-a|^2
を得ますが、この式の右辺をa=(a1, a2), b=(b1, b2) として成分計算してみると、
2(a1・b1+a2・b2) を得るので、
|a||b|cosθ=1/2 (|a|^2+|b|^2-|b-a|^2)
のように変形すると、右辺は a1・b1+a2・b2 という余分のない自然な感じの式になります。この式自体は余弦定理から得られる式なので、この式に価値を見出して内積を定義したのだと思います。実際、余弦定理で学んだ知識と内積は次のように対応します。
成す角が鋭角 ⇔ cosθ >0⇔ 内積 >0,
成す角が直角 ⇔ cosθ =0⇔ 内積 =0,
成す角が鈍角 ⇔ cosθ <0⇔ 内積 <0.
本を通して学べる頃には、整備も進んでスッキリした形になっているものです。実際、高校数学では余弦定理を利用して成分の内積公式を得ていますね。これは整備された結果です。本によっては、成分で内積を定義してから上の定義式を導くという書き方をしていると思います。これは次回の話になります。▢
本文でも述べた通り、齋藤正彦著『線型代数入門』(東京大学出版) の6ページに書かれていたことを、私の解釈でまとめました。内積の定義は既知の状態で読んでいたので、気づいたのは大学1年次ではありません。たぶん高校生に内積を指導するときに読み直したときだと思います。
線形代数は以前にも紹介した『線形代数教科書』と、この本で学びました。いまはもっと読み易い本が出ているので、いろいろ見比べて一冊に決めるといいです。取り敢えず一冊が習得できれば、他の本を読むのは楽だと思います。
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