2022/06/11

同値変形② 連立方程式の加減法

クイズ 連立方程式 $\begin{cases} 2x+y=9 \\ 2x-y=-1 \end{cases}$ を次のように解きました:

   (上の式+下の式) ÷4より $x=2$; (上の式-下の式) ÷2より $y=5$.

  よって、$(x, \: y)=(2, 5)$. ▮


この解き方に問題がありますか。問題があればどの部分かを指摘し、どのように修正すればいいのかを答えよ。問題がないならその正当性を主張せよ。その際、何を前提にするかを最初に述べよ。

教育大学の中学数学コースのレポート問題に丁度良いかと思います。(私なりの答えは、最後に書いておきます)


今回は連立方程式の同値変形について話しますが、その前に次の問題を解いておきます。

問題 連立方程式 $\begin{cases} x-3y=10 \\ 3x+2y=-3 \end{cases}$ を解け。


暗算で解けると思いますが、どのように解いたかを確認します。

解答 上の式を3倍したものを下の式から引くと

                  $11y=-33$.

両辺を $11$ で割って

                   $y=-3$.

これを上の式に代入すると

                  $x+9=10$,

                    $x=1$.

よって

                $(x, \: y)=(1, \: -3)$. ▮


このように解くことができます。
$x$ を求めるときに上の式に代入しましたが、もちろん下の式に代入して求めても構いません。計算がしやすそうな方に代入して求めて良いのでしたね。


ここから本題です。

前回の同値変形①と同じように論理を確認します:

     $x-3y=10$ かつ $3x+2y=-3$  ⇒  $11y=-33$  ⇒  $y=-3$

                          ⇒  $x+9=10$  ⇒  $x=1$

です。ということは $(x, \: y)=(1, \: -3)$ は与えられた連立方程式の必要条件を求めたのでしょうか。

$x=1, \: y=-3$ のとき
                                 $x-3y=1-3・(-3)=1+9=10$

                                 $3x+2y=3・1+2・(-3)=3-6=-3$

となるので、$(x, \: y)=(1, \: -3)$ は与えられた連立方程式の十分条件でもあるので、$(x, \: y)=(1, \: -3)$ は与えられた連立方程式の必要十分条件です。つまり

                             $\begin{cases} x-3y=10 \\ 3x+2y=-3 \end{cases}$  ⇔  $\begin{cases} x=1 \\ y=-3 \end{cases}$.


連立方程式を解くということは、同値条件を求めるということです。中学生には同値条件を求めているとは説明できないので、最初の頃は検算と称して、前回同様、逆を確認させていたと思います。

でも実際は逆を確認しなくても、次の同値変形をみれば分かりますが、上の解き方は同値変形を意識した解法になっています。求めた $y$ の値を一方の式に代入して $x$ を求めているからです。ここで両方の式を満たすように解いていますとの主張があります。ただ、その求めた答えが正しいか否かは、検算しないと判りません。


では、同値変形を意識して解き直してみます:

                        $\begin{cases} x-3y=10 \\ 3x+2y=-3 \end{cases}$  ⇐①⇒  $\begin{cases} 3x-9y=30 \\ 3x+2y=-3 \end{cases}$

                                                    ⇐②⇒  $\begin{cases} 3x-9y=30 \\ 11y=-33 \end{cases}$

                                                    ⇐③⇒  $\begin{cases} x-3y=10 \\ y=-3 \end{cases}$

                                                        ⇐④⇒  $\begin{cases}  x-3・(-3)=10 \\ y=-3 \end{cases}$

                                                        ⇐⑤⇒  $\begin{cases} x=1 \\ y=-3 \end{cases}$.


①, ③, ⑤ の同値は前回と同じ理由なので省略します。問題は②と④の同値です。

                        $\begin{cases} 3x-9y=30 \\ 3x+2y=-3 \end{cases}$    ⇐②⇒  $\begin{cases} 3x-9y=30 \\ 11y=-33 \end{cases}$

「⇒」については、第1式はそのままで第2式は $3x+2y=-3$ から $3x-9y=30$ を引くことで得られます。

「⇐」については、第1式はそのままで第2式は $3x-9y=30$ と $11y=-33$ を加えることで得られます。


                       $\begin{cases} x-3y=10 \\ y=-3 \end{cases}$        ⇐④⇒  $\begin{cases}  x-3・(-3)=10 \\ y=-3 \end{cases}$

「⇒」については説明不要ですね。
「⇐」については、第1式の $x-3・(-3)=10$ の $(-3)$ に $y=-3$ を適用すれば得られます。▮


このように同値変形を意識して書くとめんどうです。なので解答のように解きますが、その解き方が同値変形を意識されているかはとても分かり難いと思います。

「連立方程式は同値変形すれば問題なく解ける」というのを高校生のときに耳にし、同値変形を意識して解くのが難しかったのを覚えています。ここでは考えやすい問題で説明していますが、3元連立方程式に1次式でなく2次式や3次式が混じっている場合は、解答が同値変形になっているかもよく分かりません。だいたい、必要条件が求められているのかも怪しくなります。そういう連立方程式に近づくのは危険です。▢



冒頭のクイズは中学時代を思い出して作ったものです。ガッコのセンセにダメだと言われた解き方です。その理由を考えてもらいました。

クイズの答え
①前提:答えだけを求めるテスト  
 答え:問題ない。どのように解いたのか分からないから。

②前提:中学生の記述式のテスト 
 答え:問題ある。求めたのは必要条件なので、「連立方程式を解く」ということを理解していない可能性があるから。
 修正:求めた答えが与えられた2つの式を満たすかを確認すればよい。
なお、採点は〇を付けて返却時にその旨を伝え、答案にもコメントを書いておけば十分。

③前提:中学生の記述式のテストで平面幾何との関係も学んでいる
 答え:問題ない。与えられた2式は座標平面上の2直線と考えられ、平行でない2直線は必ず交点を持ち、しかもただ一つである。したがって、与えられた2直線は平行でないので必ず1点で交わり、それが求めた点の座標と考えられるから。

④前提:高校生以降の記述テスト
 答え:問題ある。②と同じ理由。
 修正:③を前提にするなら、その旨を書くべき。

⑤前提:一般的な状況
 答え:問題ない。十分性はたいてい頭の中で確認しているから。

このクイズのポイントは、「連立方程式を解く」ということを理解しているか否かです。ただ、中学生の場合は解けるかどうかの方が大事であり、同値性は気にしなくていいように思います。数学が出来るようになれば、高校数学を学んでいる中で気づくと思います。数学を嫌いにさせないことがもっとも大切です。

0 件のコメント:

コメントを投稿

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...