問題 実数 x>0 上で定義された2つの関数
y=x^2, y=\dfrac{1}{\:\:x\:\:}
において、それぞれの最大値および最小値を求めよ。
関数のグラフは次の通りで、いずれも中学数学で学びます。
グラフからどちらも最大値、最小値がないと判ります。中学、高校ならこれで問題ないと思います。大学入試問題でも
「最大値・最小値を持たないことを証明せよ」
と出題しない限り、減点されないと思います。
高校数学ではこのグラフを頼りに次の結論を得ます:
\displaystyle \lim_{x\downarrow 0}x^2=0 \displaystyle \lim_{x\to \infty }x^2=\infty
\displaystyle \lim_{x\downarrow 0}\dfrac{1}{\:\:x\:\:}=\infty \displaystyle \lim_{x\to \infty}\dfrac{1}{\:\:x\:\:}=0
注:極限の表記については ※1 をご覧ください。
これを用いて極限の問題を解きますが、大学では証明しなさいと言われ「...」となります。「えっ、証明すべきことだったの?」
気づいたと思いますがグラフをみて判断するのは直観的なものであり、本来、認められません。このことに中高生が気づいたのなら、秀逸な論理思考に瞠目します。
なお、最大値・最小値を持たないことを証明するのは難しくありません。背理法を用いて証明することができます。各自で考えてみてください。
ただし、高校数学までの知識の場合は
相異なる2つの実数 a, b \: (a < b) に対して、a < c < b なる実数 c が存在することを仮定します(※2)。
これは実数の稠密性(チュウミツセイ)と呼ばれるものです。だから内容的には大学1,2の数学ということになります。▢
この補遺は一般に難しい内容です。数学科の学生でも苦しむものだからです。
補遺 \displaystyle \lim_{x\to \infty}\dfrac{1}{\:\:x\:\:}=0 について
この式の意味は、実数 x をどんどん大きくすると \dfrac{1}{\:\:x\:\:} の値が0に近づいていくことを意味しています。これはかなり怪しい表現ですが、次のように言い換えると明確になります。
どんなに小さな正の実数 s を考えても、ある実数 r より大きい実数 x に対しては \dfrac{1}{\:\:x\:\:} の値が s よりも小さくなる。
「どんどん大きくすれば」の曖昧な部分を具体的にrより大きい実数 x に対してとし、
「0に近づく」の曖昧な部分を 1/x が想定している小さいsよりも小さくなると言い換えたのが先人の知恵です。
これは x>0 なのだから 0< 1/x < s であり、s はどんなに小さくてもいいのだから、その間にある 1/x は0に近づくしかないよね、という論法です(※3)。
実際、ものすごく小さい正の実数 s を考えます。このとき 1/s も実数なので、これを
r:=1/s とします。すると r< x に対して
0< \dfrac{1}{\:\:x\:\:}< \dfrac{1}{\:\:r\:\:}< s
となります。正の実数 s はどんなに小さくてもいいので
x\to \infty のとき, \dfrac{1}{\:\:x\:\:} \to 0. ▮
※1 x\downarrow 0 は正の方から0に近づけることを意味しています。x \to +0 と同じ意味です。これを口頭で説明するときに、「正の方から0に近づける」とも言いますが「上から0に近づける」ともいうのです。
ここで「正の方から2に近づける」の表現
x \to 2+0 と x\downarrow 2
とを比べたとき後者の方が簡潔だと思いませんか。
※2 「当たり前のことをなぜ仮定するの?」と思いますよね。特に、高校数学Ⅲの中間値の定理や平均値の定理を学んだ人は尚更だと思います。
ただ少し考えてみると、当たり前のようで当たり前でないことに気づくかもしれません。実数や有理数を想定していると気づきませんが、整数を考えてみてください。整数 2, 3 の間に整数は存在しますか。
実数って何なのか気になりますよね。高校数学までは実数について議論をしません。そういうのがあるっぽいと見せて、ほとんど何も語っていません。この辺りの話をきちんとしようというのが大学以降の微分積分です。数学科以外でも大学によっては触れると思います。40年ほど前は大学1年のはじめに学びましたが、いまは1年の後半か2年だと思います。
微分積分の歴史を知ると興味深いところですが、高校数学のように実数を認めてしまって、取り敢えず複素関数まで進めてしまう方が現実的なように思います。留数定理までやって積分計算ができるようになってから厳密化する方が学びやすいと思います。この流れだと大学2年後半以降に実数論を学ぶことになります。(雑感)
なお、実数が四則演算に関して閉じていて、全順序(a \gtrless b or a=b が成り立つ)であることを仮定していれば稠密性を断る必要はありません。
※3 はさみうちの原理を使っていますが、この論法はイプシロン‐デルタ論法と言われます。感じを掴みやすくするために "どんなに小さな実数" としましたが、日本語では "任意" が使われ、英語では "any" が使われます。任意(any) というのが肝です。どんな実数sを想定してもある数rが存在し、これより先ではsより小さくなると主張しているのです。
また、いまはギリシャ文字 \epsilon, \delta の代わりに s, r を使いました。これは見慣れないギリシャ文字を使うだけで混乱するからです。私は \xi がなかなか受け入れられませんでした。慣れると何てことないのですけどね。もちろん、s を使ったのは small の頭文字からです。rはその前の文字です。\epsilon, \delta はアルファベットの e, d に相当します。
\displaystyle \lim_{x\downarrow 0}\dfrac{1}{\:\:x\:\:}=\infty も気になると思いますが、大学数学の微分積分の本をご覧ください。上の説明が理解できたのなら、専門書を読んでも理解できると思います。
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