2022/02/19

集合を無視すると... ~現代数学の基礎 集合2~

 オイラーの関係式

                $e^{i \theta}=\cos \theta +i \sin \theta$

において、$\theta$ に $\pi$ を代入することで

                   $e^{i\pi}=-1$

という関係式が得られますが、オイラーの関係式を導くのに

(1)    $e^x=1+\dfrac{x}{1!}+\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^3}{3!}+\cdots +\dfrac{x^n}{n!}+\cdots$

の $x$ に $i\theta$ を代入して

(2)    $e^{i\theta}=1+\dfrac{i\theta}{1!}+\dfrac{(i\theta)^2}{2!}+\dfrac{(i\theta)^3}{3!}+\cdots +\dfrac{(i\theta)^n}{n!}+\cdots$

とし、$i^2=-1$ を利用して式を次のように整理し

      $e^{i\theta}=\left(1-\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^4}{4!}-\cdots+(-1)^k \dfrac{x^{2k}}{(2k)!}+\cdots \right)+i \left( x-\dfrac{x^3}{3!}+\dfrac{x^5}{5!}- \cdots +(-1)^k \dfrac{x^{2k+1}}{(2k+1)!}+\cdots \right)$

として、前の括弧の中身が $\cos \theta$ で後の括弧の中身が $\sin \theta$ であるから

               $e^{i \theta}=\cos \theta +i \sin \theta$

が成り立つと説明されたりしますが、これには問題があります。

式 (1) の $e^x$ は実数上で定義されている関数で、等式は $x=0$ におけるテイラー展開で収束域が全実数という条件の下で成り立っています。だから $x$ に虚数を代入して式 (2) が成り立つとするのに問題があるのです。

発見するための一つの方法ではありますが、これを証明のように読み取ってはいけません。例えば次の説明はどうでしょうか。

ルートの公式 $\sqrt{a} \sqrt{b}=\sqrt{ab}$ において、$a, \: b$ に $-1$ を代入すると右辺は

             $\sqrt{(-1) \cdot (-1)}=\sqrt{1}=1$,

左辺は

             $\sqrt{-1} \sqrt{-1}=(\sqrt{-1})^2=-1$.

したがって、$-1=1$ となる。


これはどこに問題があるか比較的気づきやすいのですが、大学数学の線形代数におけるハミルトン・ケーリーの定理の証明で、行列 $A$ の固有多項式 $\Phi_A(\lambda)=|\lambda E-A|$ に $\lambda=A$ を代入して

                  $\Phi_A (A)=0$

としたときの誤りは気づき難いと思います。大学1年生だとまだまだ集合の考えには慣れていないからです。▢


0 件のコメント:

コメントを投稿

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...