2021/08/21

この重心の証明にはキズが...

『数学事始め』で連載している「平面の幾何Ⅲ 平行線の幾何11.18」では紹介しなかった証明をここで紹介します。 この証明にはキズがあるからです。

命題30 三角形の3つの中線は1点で交わる。▮

証明 △ABCの辺CA, ABの中点をそれぞれM, Nとし,中線BM, CNの交点をGとする.さらに直線AG上に点KをGがAKの中点となるようにとり,直線AGとBCとの交点をLとする.このとき点LがBCの中点であることを示す.

△ABKに着目すると2点N, Gは中点であるからNG∥BKとなる.つまりGC∥BKである.同様にして△AKCに着目するとBG∥KCを得る.したがって四角形BKCGは平行四辺形となるので,対角線BC, GKは中点で交わる.つまり点LはBCの中点である.よってALが中線であることから命題は示された.▢

この証明は下の小平邦彦著『幾何への誘い』

の155ページに旧制中学の幾何で習った証明ということで紹介されていて、ユークリッド原論の不備を指摘しています。その不備というのは「中線BM, CNの交点をGとしているが、これは図形に頼っていて論理的でない」というものです。そして177ページで平面分離公理が必要であると述べています。でも不備はこれだけではありません。

尚、この本はユークリッド原論を否定するものでなく、旧制中学で学んだ平面幾何は数学の初等教育には最適の材料であったことを主張し、これを推奨しています。第1章 図形の科学としての平面幾何、第2章 数学としての平面幾何 と題し、図形の科学としての平面幾何で十分だと述べています。155ページ、177ページは第2章で、ここではヒルベルトの『幾何学基礎論』について触れています。

第1章だけでもかなり豊かな内容です。例えば次の命題を証明できますか。

命題 △ABCの重心Gは垂心Hと外心Oを結ぶ線分HO上にあり,HG=2GO である.▮

中高で学ぶ初等幾何を前提にしています。(94ページの定理6.5)


閑話休題。命題30の証明に平面分離公理(『数学事始め』では公理4)を認め交点Gを持つことが言えても、この証明は受け入れられません。さてどこに問題があるのでしょうか。

この証明は中線の交点をG,G’ のように2つ考えずに、第3の中線がGを通ることを直接述べているのですっきりしています。問題がなければいい証明だと思います。

では受け入れられない理由を述べます。


点Kが三角形ABCの内部でもなく辺上でもないのはなぜですか。


この証明が中高生の教科書、参考書、問題集および授業でされてないといいのですが...。▢


0 件のコメント:

コメントを投稿

ちょっと・・・それは・・・ ~ 定義とその周辺の話 ~

内容的には高校数学なのですが高校生には難しいと思います。ただ高校生であっても定義・定理(命題)・公理の区別が出来ているのであればおもしろいと思うし、数学教師志望の教育学部や数学科の学生には興味深い話だと思います。 現在、 『数学事始め』 では指数関数・対数関数の話をしています...