2022/02/05

食べたのに減らないお餅 ~数学パズル「減らない面積」~

「ねえ、博士ー」
「なんだね、ルート」
「いま学校で折れ線グラフを習ってるんだけど、何がおもしろいの?」
「折れ線グラフはとても実用的で役に立つんだが、社会科や理科で使ったり日々の体重の変化を調べないと便利だってことには気づかないかもしれないね。さてさて...」


「いいかい。いまここに縦50㎝、横1m30㎝の大きな伸し餅(のしもち)があるね。ルートだったらどうしたいかね」

「お腹すいたから食べたい」

「私も食べたいけど、まずは手頃な大きさに切り分けよう。1辺が10㎝の正方形に切り分けたいが手伝ってくれるかい」

「うんいいよ」

「ありがとう、ルート。では怪我をしないように十分注意して切ろう」


「上手に切り分けられたね。どうだい、お腹が空いたろう。そこでだ。ここの部分(黄色の部分)の角餅を1個だけ焼いて味見してみよう」

「おいしいね、博士」

「それはよかった。さてここからがおもしろいぞ」

「おもしろいんじゃなくて、おいしいんじゃないの?」

「そりゃおいしいけど、おもしろいんだよ。見ててごらん。こうして、こうして、こう切ると5つの区画に分けられただろう(赤い線で切り口とその図形を表す)」
 (実際は青い線でも切られていますが、お餅なので再びくっついたと思ってください)


「そして更にこのように並べ替えるんだ。どうだい、おもしろいことが起こってないかい」


「ぼくが食べたお餅分が増えたように見えるけど、どこから現れたのかな?」

「増えてないよ。ルートのお腹の中に消えたのさ。おいしさが残っているだろう?」

「うん、そうだけど...食べて空白になった分が増えて見えるよ。どうしてかな?」





これは広く知られている数学パズルで、あのMr.マリックさんもご自身のYouTube動画(※1)で紹介されていました。どうして空白が消えたのかを説明する方法はいくつかあると思いますが、この話をしたのは現在 noteで連載している『数学事始め』に関連させてのことです。小学算数なら「折れ線グラフ」、中学数学なら「1次関数」の数学雑談で有効だと思っています。平面の幾何で話すことも出来ますが、この分野の方がいいと思います。



さて小学4年生、中学2年生くらいに理由を説明するならどのようにしますか。



これから解説をしますが、数学の力をつけたいのならご自身で考えるのが理想です。1時間くらい格闘すれば気づくと思いますが、きちんと説明するのはやさしくないと思います。ヒントを頼りに考えてもやさしくないと思います。上の説明に誤魔化しがあるのですがとても気づき難いのです。



解決の糸口は 直線の傾き です。



小学4年生なら、実際に紙で同じものを作って説明すると目でも確認できるので、分かりやすいと思います。折れ線グラフで直線の傾きを学んでいると思うので、完全ではないにしても気づけると思います。

中学2年生なら、計算を使って完全に理解させることができると思います。



長方形の対角線で半分にしたときの直線の傾きは$\dfrac{5}{13}$ですね。次に①と④の傾きですが、見た目は①が$\dfrac{2}{\: 5 \:}$で、④は$\dfrac{3}{\: 8 \:}$です。ここに誤魔化しがあります。本来、どちらの直線の傾きも$\dfrac{5}{13}$でなけらばなりませんね。長方形の対角線の一部だからです。それが異なっているのは、見た目によるものです。太線で格子を入れたのはそのためです。左下隅から右に5、上に2進んだところで交わっているように見えますが、実際は少し下のところを直線は通過しています。
            $\dfrac{2}{\: 5 \:}-\dfrac{5}{13}=\dfrac{26-25}{65}=\dfrac{1}{65}$

が誤差で、①は高めになっています。そして

            $\dfrac{3}{\: 8 \:}-\dfrac{5}{13}=\dfrac{39-40}{104}=-\dfrac{1}{104}$

がもう一つの誤差で、④は低めになっています。さらに④の底辺の長さは8ではないし、②の図形の左上の角は直角ではありません。これらによって細長い隙間が生まれます。それがルートの食べたお餅の分です。

小学4年生は通分の分数計算を習っていないので、傾きが違うことは数値で理解し、図形を重ねることで実感でき隙間に気づけます。

中学2年生なら計算もできるので、隙間の面積の合計が100$cm^2$なることまでも確認できると思います。▢


※1 こちら↓で見られます。形や見せ方は違いますが原理は同じです。知っててもおもしろいです。やはりマリックさんですね。

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